14話 共闘
『僕を人殺しと呼ぶ魔女』1st PV
2026年10月2日(金)21:00 よりYouTubeにて公開中。
▼YouTube
https://youtu.be/OgxDnCscaYc
「D区画でも同脅威度の襲撃事件が同時発生するとは……やはり、珍しいことなのですか?」
現場へと向かう最中、セリナさんが俺に尋ねる。
今回は偶然目標地点の近くにいたこともあり、出動車両を待たず走って現場へと向かっている。
「珍しいなんて話じゃないですよ!もう一件、出動命令が下りた時……次に向かうのはテオとハンナさんの二人ですよ?」
「あぁ……それは深刻ですね。」
ハンナさんは特魔官として前線に立つ実力はあるものの、本人が研究者気質なところも相まって最近はめっきり現場を離れている。
……最後にハンナさんと出動したのは、何年前だったか?
全速力で走りながら、回らなくなった頭で必死に思い出そうとする。
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「……以上が、本事案の概要となります。なお、対象二名は現在も建物内に立て籠もっており、現在まで要求等はありません。」
「人質ですか。厄介ですね……。判明している人質の数は?」
「はっ。現在判明しているだけで六名。それと上層部より、確実な生還を求められています。」
……これで脅威度Cだと?ふざけているのか。
「私と特魔官で先行します。人質の救出を第一目標と設定し、可能な限り交戦は避けます。対象と戦闘に発展した際には私と特魔官で対応しますので、人質救出要員として警察隊から四、五名ほど選定してください。五分後、突入します。」
「はっ。」
「それから万一のことを考え、各隊員へ七発までの対魔弾の所持を許可します。」
「はっ。各員へ伝え、装備の準備にあたらせます。」
そのまま隊の編成へと慌ただしく動く警察隊を横目に、目についた簡易椅子へと腰を下ろす。
左の胸元にあるナイフへも軽く右手を当て、そのまま滑らせるように左脇腹辺りに収められた鋼鉄製の黒い自動火薬拳銃を取り出し、見つめる。
……今回は使うかも、な。
「それ、使うんですか?」
銃口を覗き込むように話しかけてくるセリナさんに気付き、慌てて銃口を逸らす。
「セリナさん!銃口の前に入らないでください!危ないですから!」
「え!す、すみません……。」
「あ、いえ。こちらこそすみません。でも銃口を人に向けることは御法度ですから、今後のためにも覚えておいてくださいね。」
安全な方向へ銃口を向けながら腕を下ろす。
指で安全装置を一度解除し、スライドを引く。薬室内に銃弾が送られたことを確認してから再び安全装置を掛け、ホルスターへ戻す。
「できれば使いたくありませんが……本事案は明らかに推定脅威度を逸脱してます。セリナさんも、気を引き締めて。」
「……分かりました。」
一通りやり取りが完了したころ、警察隊から突入部隊の編成が完了した旨を告げられる。
簡易椅子から立ち上がり、軽く建物内の間取りを地図で確認してから行動へと移る。
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……乾いた砂を踏みつける音が静かに響く。
人質が六階区画で最後に確認されたという情報を基に、各階層の脅威確認は最低限に留め、迅速に目標階層へと移動する。
不自然なほど静かな空間が、より一層緊張感を高める。
六階区画へと足を踏み入れ——瞬間、手で静止の合図を出し、隊の進行を止める。
……ワイヤートラップ、だと?
目を凝らすと、階段を上がったところへ目立たないようワイヤーが張られており、ワイヤーの先には小型の火薬爆弾と思われる装置へと繋がっている。
屋上から突入すべきだったと自省しながら、迂回し別ルートを探索する。
六階区画へと続く階段は三つ……そのうち中央の階段にだけトラップが設置されていない。
対象の思惑に乗るように、罠が仕掛けられていない階段から目標階層へと足を踏み入れる。
……ノイズのように広がる静寂が、階全体を満たしている。
不自然なほど整然とした廊下を見つめ、本当に対象が立て籠っているのか未だ実感できずにいた。
窓からは陽の光が差し込み、空気中に舞う埃を静かに浮かび上がらせる。
後方の警戒を警察隊員へ任せる。白い魔工銃を一度床へ置き、手にしたライトを床すれすれから平行に照らす。
楕円に伸びた光が、手前の部屋に出入りした複数名の足跡を浮かび上がらせる。
静かに立ち上がり、隊員たちへ手で合図を送る。
再度隊列を組み直し、警戒しながら足跡の浮かんだ一番手前の部屋へと向かう。
ドアノブを回し、隙間からゆっくり中を照らす——
——そこには壁一面に血飛沫が飛び散った凄惨な光景が広がっていた。
床には救出目標と思われる者たちが、微動だにせず血溜まりの上に横たわっている。
瞬間、背後に控えていた隊員から三点連射の発砲音が怒号のように鳴り響く。
「撤退!撤退だ!」
声を荒げながら目の前にいた隊員の肩を叩く。叩いた肩は大木を思わせるほど硬直しきっており、尋常ではないほど緊張していたことに気付く。
……まずい、全滅するぞ。
——直後、巨大な氷の盾が対象と隊列の間を遮るようにせり上がる。
見るとセリナさんが右手を持ち上げ、脅威からの視界を断ってくれたことが窺える。
間髪入れず、再度呼びかける。
「撤退だ!第一目標は一時放棄!速やかに撤退へと移行しろ!急げ!!!」
我に返ったように隊員たちが銃撃を止め、先ほど登ってきた階段へと移動する。
俺も最後尾から隊員たちの後に続くよう一歩目を踏み出した瞬間——
「——あ、この前アリサを投げ飛ばしてた奴じゃん。奇遇だね。」
氷の盾越しに聞こえる、少しくぐもった声。
直後、氷の盾がバラバラと倒壊すると……青髪の女性と茶髪をした女性が二人、顔を見せる。
「え〜!こんなやつにやられたのぉ?あははっ!あいつ弱っちかったもんね〜!」
「そんなこと言わない。あの子なりに頑張ったんだから、それでいいでしょ?」
対象たちの会話に割り込むよう、間髪入れずに魔工銃を二発撃ち込む。
当然のようにひらりと躱した隙をつき、階段へと走り込む。
……踊り場に一人分の足音が響く。
はっと気付き振り向くと——セリナさんが二人と対峙したまま両腕を組んでいる。
「セリナさん!撤退です!聞こえてなかったのか!?」
「勝てます。あなたとなら。」
……本気か?
真っ直ぐ対象を見つめる眼差しからは、とても冗談を言っているようには思えなかった。
「あっはっは!雑魚のお守りしながら私たちに勝てると思ってんの?なめすぎじゃねぇかぁ!?」
「……不愉快ですね。ひとまず彼を殺せば目が覚めるかもしれません。」
階段を再びゆっくりと登り、セリナさんの横へ並ぶ。
小さくセリナさんへと耳打ちをし、頷くのを確認してから一歩前へ出る。
……氷の盾から溶け出した水が、滲むように足元へ広がる。




