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五人の少女を騙して地下アイドルを始めた  作者: 田中
二章 名前のない始動
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1話 おむらいす

 細い一本の糸に委《ゆだ》ねた計画だった。

 それでも、これで人生を変えられる、そう思っていた。

 だがその糸は容易く切れた。 

 

 それでも橘は諦められなかった。


 橘はあらためて計画を練り直す。 

 加賀の名前と曲は使えない。それさえあればどうにでもなると思っていたが、今手元にあるカードは素人三人。大手と同じ土俵に立てば、質でも財力でも勝てない。正攻法で争っても勝ち目がない。


 だから考える。どうすれば注目が集まるのか、どうやって行動するべきかを。


 頭数を揃えれば一人ぐらいはどこかに引っかかるかもしれない。大所帯でやればその分裾野は広がる。だが人を集められる看板も、人員を維持する資金もない。


 ないものを数えても仕方がない。あるもので勝負するしかない。


 手始めに、橘は活動資金として、消費者金融で五十万円を借りた。貯金はいくらもなく、吹けば飛ぶ心もとない金額だが、これが今の橘に用意できるギリギリのラインだった。


 これをどう回していくかに懸かっている。


 グループのコンセプトや売り出し方も大事なことだが、今優先すべきことは曲だ。


 活動するためには必要不可欠であり、先延ばしにすればメンバーの熱量が維持できない。わかりやすい課題を提示し、熱中させなければならない。


 何を置いても、曲を早急に準備しなくては。


 加賀が利用できなくなった今、他のところから引っ張ってこなければならない。しかし資金力はない。安く買える無名のクリエイターを探すしかない。

 

 加賀の看板を背にメンバーを集め、実際に顔合わせまでした。きっと誰もが加賀の協力を信じているだろう。名前を餌にスカウトしたのは莉子だけだが、他のメンバーも少なからず加賀との繋がりに希望を見出したことだ。それが虚像だとバレれば、信頼関係は崩壊する。だから今さら加賀の名前を引き下げるわけにはいかない。


 だから加賀の名前は借りる。

 用意した曲を、加賀のものだと錯覚させてでもグループを維持する。そういった意味では、中途半端に知名度があるよりも、全くの無名の方が都合がいい。誰にも知られていない曲なら、加賀の曲ではないと気づかれる可能性も低い。


 この計画は泥舟だ。

 些細なことで綻び、沈む。

 続けると決めた以上、手段を選んでいられなかった。



 加賀に拒絶されてからの数日間、橘はネットの海を潜《もぐ》った。


 クリエイター自体は腐るほどいたが、条件に合う人材は見つからない。それなりの曲を作れる人物となると名が売れている。逆に名が売れていないとなると作品のクオリティが担保できない。ただでさえ寄せ集めのメンバーなのだから、曲の質まで下げれば売れるはずがない。それに、加賀の名前を騙るのだ。稚拙すぎれば露見してしまう。


 矛盾を抱えながら、昼夜を問わずに探し続けたが、都合のいい人材はなかなか見つからない。


 橘の成果は、肩こりと眼精疲労だけだった。


「疲れた……」


 スマホとにらめっこをしながら、思わず独り言が漏れる。


 勢いで始めたアイドルプロジェクト。加賀という人参《にんじん》を動力にメンバー集めに奔走した。苦労の末にメンバーを揃え、ご馳走がいただけると思ったが、梯子《はしご》を外された。


 それでも、今もこうして走り続けているが、疲労はピークを迎えていた。


 かすむ目、重い体、回らない頭、慢性的な睡魔。正常な判断ができなくなりつつあった。


 クリエイターを探す。その人物があげている楽曲を聞く。適当そうなら値段交渉をする。拒まれれば次のクリエイターを探す。その人物が――。この繰り返し。まるで賽《さい》の河原だ。


 ――そもそもの話だけど、なにを基準に選べばいいんだよ。


 橘はメンバーを素人と評したが、他ならぬ自分自身もそうだった。審美眼があるわけでも、音楽的センスがあるわけでもない。聞いたところで良し悪しの判断などつかない。主観に依存した杜撰《ずさん》な目利きだった。


 疲労が蓄積していくことで、目利き能力はさらに低下していく。目ぼしい人材、というよりも、交渉可能な人材、に下方修正されていく。


「お」


 橘のスワイプする指が、あるアカウントを目にしたことで止まった。 『おむらいす』という名前のクリエイターだった。投稿を見る限り、個人で細々と曲をあげているようだった。フォロワー数は三桁で、世間的な認知度は低い。


 何故このアカウントが目についたのか。

 直感や嗅覚でもなんでもない。理由はアイコン画像がオムライスだったから。空腹の状態で見たものだから、食欲に誘われつい立ち寄っただけだった。


 ――バカか俺は。昼メシ探してるじゃないんだぞ。


 すぐにわき出る自己嫌悪。

 いわば息抜きの寄り道だったが、何の気なしに曲を再生してみる。


「……へぇ」

 

 小さく声が出た。


 その曲はテンポのいいポップスだった。明るい曲調で、小気味よいリズムで流れるメロディ。それに合わせてボーカロイドが歌う。歌詞はやや甘ったるい内容だが、不思議と疲れきった頭にもすんなりと入ってくる。良いのか悪いのかはわからない。でも妙に耳に残った。


 ――どうせ良し悪しはわからない。なら直感に従おう。

 

 なんとなく、その直感を信じることにした。


 考えるが早いか、橘は直ぐに『おむらいす』への連絡を送る。先の失敗を踏まえて値段交渉はせず、あなたの曲に惹かれたこと、自分がアイドルプロデューサーでぜひ話が聞きたいこと、それを文章に書き連《つら》ねた。恋文のように熱烈なメッセージを送った。


 程なくして返信が届く。

 その中身を見て橘の口角が上がる。


『はじめまして! 嬉しい言葉を言っていただきありがとうございます! アイドルプロデューサー!? すごいですね! ぜひ直接お会いしてお話を聞いてみたいです!』


 ――会いさえすれば。

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