『交差』 第二節 流れ
第二節
市場へ入るなり、レオは鍛冶屋の前で足を止めた。
武具屋もあった。剣も槍も並んでいる。それでも彼の目を引いたのは、炉の前に立つ職人だった。
赤く焼けた鉄が火箸で取り上げられる。
金床へ置かれる。
そして槌が下りる。
甲高い音とともに火花が散り、鉄の輪郭がほんのわずかに変わる。その変化は注意して見ていなければ分からないほど小さいのに、職人は迷うことなく次の一打を重ねていった。
レオは黙って見ていた。
職人が鉄を炉へ戻し、風箱を押すたびに火の色が変わる。その様子を見逃すまいとするように、視線だけが鉄と職人の間を行き来している。
市場の声は絶えず聞こえていた。
客を呼ぶ声。
荷車の軋む音。
値段を巡るやり取り。
笑い声。
それらは途切れることなく流れているのに、レオの耳には届いていないようだった。
やがて職人は鉄を水へ沈めた。
白い湯気が立ち上る。
その向こうでレオが聞く。
「何になる。」
「包丁だ。」
「剣じゃないのか。」
職人は笑った。
「包丁の方が売れる。」
レオはしばらく包丁を見ていた。
職人を見る。
もう一度包丁を見る。
何かを考えているらしいが、答えは出なかったらしい。
結局、小さく首を傾げるだけだった。
鍛冶屋を離れると、今度は革細工の店の前で立ち止まる。
鞄が並び、革紐が吊るされ、その奥には短剣用の鞘も見える。レオは店先を一往復するように眺め、縫い目を見て、金具を見て、また最初の鞄へ戻る。
店主は何も言わなかった。
勧めもしない。
追い払うこともしない。
レオも何も聞かない。
ただ見ている。
それだけで十分らしかった。
アルトは少し離れてその後ろを歩いていた。
視線を動かすと、ノアが乾物屋の前で店主の話を聞いているのが見える。並んだ品を見ながら何度か頷き、話が終わる頃にはもう次の店へ向かっていた。
ダンは露店の男と向かい合っていた。
向かい合っていると言っても、何かを話しているわけではない。男が笑い、ダンが頷く。それだけで二人は別れ、それぞれ人の流れへ戻っていく。
ミアは玩具屋の前にいた。
木で作られた鳥を見ていたかと思うと、その隣で回る風車へ目を向ける。風が止まれば風車から離れ、今度は赤い紐の束を見つめている。
何か一つを見ているようでいて、どこにも留まっていない。
市場は賑わっていた。
果物を抱えた女が横切り、桶を担いだ男がその後を通る。客を呼ぶ声が重なり、その隙間を縫うように子どもたちが走っていく。
人の流れは絶えない。
けれど急いているようには見えなかった。
誰もが自分の用事を抱え、自分の歩幅で市場を行き来している。
アルトはその流れを眺めていた。
荷車が通る。
人が避ける。
空いた場所へ別の誰かが入る。
流れは絶えず形を変え続けていた。
その動きを目で追っているうちに、ふと視線が市場の奥へ伸びた。
荷車と荷車の間だった。
人影が見える。
背を向けて立っている。
何をしているのかまでは分からない。
ただ、そこにいる。
そう認識した時には、別の客が前へ入り込み、視界はすぐに閉じていた。
アルトはしばらくその方向を見ていた。
何かを見失った気がしたわけではない。
ただ、目がそちらへ向いていた。
やがてレオが手を振る。
木工細工の店だった。
何か見つけたらしい。
アルトはそちらへ歩き出す。
市場の奥では、誰かが客を呼んでいる。
鍛冶屋の槌の音も、まだ遠くで続いていた。




