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緋の暁光《あけのぎょうこう》  作者: KY
序章 いつか、あなたを繋ぐ為のーー
7/11

序/六 水がこぼれた

 見て、すぐに分かった。

目の前にいる『それ』が、()()()()()()()()()()()()()だって。


 『それ』は、わたしと佐堂(さどう)さんの間くらいの高さで、くらい『あおいろのふく』を着て、見ているとなんだか、きもちがひゅっとなるようなモノだった。


 佐堂(さどう)さんのようすを見る。

『それ』のことをずっと見て、見たことがないようなカオをしてた。


 わたしとおなじように、『()()()()()()』って思ったみたい。


「冗談だろ……。何の用だよ、化物(バケモノ)が…!」


 気づいたら、佐堂(さどう)さんの体は水だらけだった。――これはたしか、『あせ』。

 さっきまではそんなことなかったから、たくさん動いたせいじゃない。


 『それ』を見たせいで、そうなった。

見ただけで体がおかしくなってるのに、佐堂(さどう)さんは『えがお』で話した。


 そんな佐堂(さどう)さんを見て、『それ』も『えがお』で話してくる。


「俺達が見えてんなら、察しがつくんじャねェか?『それ』、拾いに来たんだ。」


 わたしにゆびを向けて、そんなことを言う。

よく分からないけど、わたしに会いに来たみたい。


「物みたいに言いやがって…。悪いが、こいつは俺が預かってるんだ。それが用なら、帰れよ。」


 つよくことばを返して話をやめようとする佐堂(さどう)さん。

でも、『それ』は、かわらない『えがお』で、


「なんだ、分かってんじゃねぇか。そうだ…!お前は『それ』を、預かってるだけだ。本来、人間が関わるべきモノじゃない。だから、寄越(よこ)せよ。」


「その口ぶり…ただの似た存在じゃねぇのか…?テメェ、緋乃(ひの)の―――。」


 佐堂(さどう)さんは、すこしだけわたしの方を見て、


「…緋乃(ひの)。少し下がってろ。それと、これから起きることは、あまり見なくていい。少なくとも今、知る必要はない。」


 そんなことばを、言った。でも、さっきからずっと、わたしはうごけなくて。

 佐堂(さどう)さんは、何かを知ってるみたいだけど、わたしには、今の話がよく分からなくて。


 まるで、佐堂(さどう)さんに会う前みたいに、ただ、目の前のことをながめてた。


「何だよ。戦うつもりか?俺相手に?」


「――ああ。想定外か?化物(バケモノ)。」


「あァ、想定外だ。そんなもん意味が無いぜ?人間…!」


 ずっと『えがお』のままの『それ』に、わたしは、きもちがぐにゃぐにゃとしてる。

 でも、佐堂(さどう)さんは、さっきまでよりふつうのカオにもどってた。


 そう思った、すぐ後。

佐堂(さどう)さんが、わたしのとなりからきえた。



   ―――――――――――――――――



 『それ』を目にした瞬間、男は理解した。

眼前の『それ』が、明確な脅威(きょうい)であることを。


 まず、間違いなく人ではない。

この数日間、共に過ごした少女と同じ、本来、人には認識出来ない、超常(ちょうじょう)の存在。


 『それ』は、多少鍛えている程度の人間では、全く歯が立たない程に、戦闘能力が高いのだと直感する。

 自信の表れか、害意(がいい)を隠そうともしていない。


 一目見ただけで、それだけの情報を理解したが、目的までは分からなかった。

 が、『それ』が語った目的は、男にとって最悪の物だった。


 『それ』の狙いは、(かたわ)らの少女だった。

言われた通りに少女を渡せば、男は助かるだろう。

 だが、男にその選択は出来ない。それが出来るのなら、そもそも、少女に会いになど行かない。


 男にとっては、自分が狙われている方が良かった。

そうであれば、まず少女を逃し、やれるだけの抵抗をするだけで良かった。

 もし負けたとしても、話はそれで終わり。少女に危害が及ぶ可能性は、低かっただろう。


 だが、狙われているのが少女であるのなら。

男は、決して負ける訳にはいかない。自分が負ければ、きっと少女はもう帰って来られない。


 だから、どれほど勝算が低くとも、目の前の化物(バケモノ)に勝たなくてはならない。


「――――!!」


 覚悟を決め、男は攻撃を開始する。

力強く踏み込み、人間としては常軌(じょうき)(いっ)した速度で、対象との距離を詰める。


「おッ……!?」


 十数メートル程の距離を、一秒と掛からず詰めてきた男に対し、化物(バケモノ)は感嘆の声を漏らす。

 明らかに人間に見える男の、人間とは思えない動きに、反応が遅れる。


 あと一歩の距離に迫った所で、男は、隠し持っていた小さなナイフを右手に握る。

 そのまま、すれ違い様に標的の首筋に向かって、勢い良く振るった。


「…っは!!」


 狙い通り、ナイフは標的の首筋を綺麗になぞり、そこから、鮮やかな赤い液体が流れた。

 走り抜けた先で即座に反転し、標的の方に向き直る。


(攻撃は通るな…。で、どう来る…?)


 ナイフによる攻撃に効果があったことは、一先(ひとま)ずの安心材料にはなった。だが、まだ相手の実力を測れたとは言えない。

 もしも、相手の攻撃性能が高すぎた場合は―――、


「ははッ!」


「…ばっ……ぁ!?」


 化物(バケモノ)が手をかざした瞬間、男の腹が右半分程、無くなった。

 攻撃性能が高すぎた場合は―――、このように、防御や回避をする暇もなく、敗北するしかない。


 『勝算が低くとも勝たなければならない』、など考えが甘かった。

 勝算は、低いのではなく()()()()のだ。


(……っき、しょう…!)


 出会った時点で、結末は決まっていた。

男は、自らの力不足を嘆きながら地に伏した。



   ―――――――――――――――――



「――――――――――え。」


 何が 起きてる のか よく 分から ない。

佐堂(さどう)さんが 隣から 消え て すごく 早く 動 いて。

 あいての 首を きった と 思った ら 佐堂(さどう)さん の お腹が はんぶん 無くて。

 赤い水 が たくさん こぼれ て。


 頭が じょうずに 使えない。

気づいたら 佐堂(さどう)さんの ところに 走ってた。


「……()()…。」


 わたしの なまえを よんでる。赤い水は とまらない。

ちがう これは 水じゃなくて 『ち』。知ってるはず 見たことがあるはず。

 ――――でも、こんなにたくさん見るのははじめて。


 『ち』がたくさん出たら人は『しぬ』って、そう言ってた。

じゃあ、佐堂(さどう)さんは『しぬ』――?


「――――!」


 体中に、いやなかんじが、ながれた気がする。


 ダメ。佐堂(さどう)さんが『しぬ』のは、ダメ。

いなくなっちゃう。話せなくなっちゃう。『さみしく』なっちゃう。

 どうにか、しなきゃ。


 ―――そうだ。

『あのばしょ』で見た『ち』を出してた人は、『きず』をふさいで『しょち』したら、『しゅうふくきのう』で元にもどるって言ってた。

 どういう意味かは分からなかったけど、覚えてる。何かをすれば、元にもどせる。

 なら、


「…佐堂(さどう)さん、教えて……。教えて、くれたら、わたし……がんば、る…から……!『きず』をふさぐ、のは…どうしたら、いい…!?」


「――。」


 教えてくれたら、きっと出来るはず。たくさんがんばれば、きっと、


「悪い、な…。致命傷の…治し方は、俺も…知らねぇや………。」


「――――ぁ。」


 佐堂(さどう)さんは、ぐにゃっとした『えがお』で知らないって言った。


 しんじられなかった。

佐堂(さどう)さんに知らないことがあったのが、じゃない。

佐堂(さどう)さんがこのまま『しんじゃう』ことが、しんじられなかった。


 だって、それはない。

やさしい佐堂(さどう)さんが。会ったこともないわたしから、『さみしい』を無くすために話しにきてくれて、たくさんのことを教えてくれて、いっしょにいてくれた、佐堂(さどう)さんが。

 わたしのために、『しぬ』なんて――――。


「………わたしの、ため…?」


 佐堂(さどう)さんは、わたしのために、あのバケモノに向かっていった。

 あのバケモノは、わたしをつれて行こうとして、会いに来た。

 つまり、それは――。


 佐堂(さどう)さんは、()()()()()()()()()()()()()()()()


「……ぁ、…っ……。」


 ()()()()()()()佐堂(さどう)さんは『しぬ』。

わたしのせいで…!

わたしの、せいで…!

わたしの――――!!


「…ごめん、なさい…!わたしが…っ……、いなかったら…!ごめんなさい………!」


 人とはちがうモノだって、わかってたのに。話せないのがしぜんなことだって、思ってたのに。

 何も知らないわたしは、きっと本当はしちゃいけないことをして。

 だから、こんなことに…。


「……ごめんな。連れ出した責任、取れなくてよ……。」


「え……。」


 なのに、なぜか佐堂(さどう)さんが、わたしにあやまってきた。


「なん、で…。わたしのせいで、しんじゃう、のに。いきて、つみかさねたモノ、のこすって、言ってたのに……。わたしのせいで、出来なくなっちゃう、のに。」


「――――ああ。…それなら、大丈夫、だ……。」


 いつもの、やさしい『えがお』で佐堂(さどう)さんは話す。


「だって、緋乃(ひの)が……居る…。お前が…色んな、こと……考え、て…くれる……ようになった…だけで、俺の…積み重ねた…モノは……ちゃんと…残る………。」


「そんな、こと…。だって、わたし…!何も、出来てない…!知らないことばっかりで、佐堂(さどう)さんがつみかさねたモノも、ぜんぜん分かってない…!」


 わたしは、ダメなところばっかりなのに。

それでも、佐堂(さどう)さんは『えがお』のまま、


「……一緒に…居てくれただろ…。…十分だ……お前は、きっと…立派に……生きられる…!」


「……!」


 いっしょにいたこと。

それが、とても『うれしい』ことだったのは、わたしだけじゃなくて。そのじかんがあったから、それで良いって佐堂(さどう)さんは言ってくれた。


「俺だけ…勝手に、満足して……居なくなられて…。お前にとっちゃ、いい迷惑…だよな……。」


 手を、にぎられた。すごくよわく、でも、つよく。

わたしに、『さみしい』って思わせないようにしてるみたいに。


「…ごめんな。でも、…ありがとう。………緋乃(ひの)。頼……む…、生き…て……しあ……わせ、に…………――――――――。」


「…………佐堂(さどう)、さん…?」


 にぎられた手から、力がなくなった。

『えがお』のまま動かなくなった佐堂(さどう)さんを見て、わたしははじめて、『し』というモノを知った。


 目が、良く見えない。

気がついたら、目から、まだなまえのしらない、水がこぼれた。

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