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緋の暁光《あけのぎょうこう》  作者: KY
序章 いつか、あなたを繋ぐ為のーー
6/10

序/五 『いきる』と『し』

 (しずく)ちゃんとおしゃべりした、つぎの日。


 きのうのおしゃべりを思い出して、『うれしい』をたしかめながら、あさの『ごはん』をたべる。いつもよりすこし、『ごはん』がいいかんじ。

 これはたしか、『おいしい』ってきもち。


「……!」


 じぶんのきもちが、すこしづつだけど、分かってきてる気がして『うれしい』。


「……ふふ。」


 佐堂(さどう)さんと会ってから、いいことばっかり。

佐堂(さどう)さん、すごい。


機嫌(きげん)いいな、緋乃(ひの)。今日の朝ご飯、好きだったか?」


「うん。『おいしい』…!」


「そりゃ良かった。…朝からカツは、トバし過ぎかと思ったが……やるな、緋乃(ひの)。」


「よく分からないけど、ありがとう。」


 いつ食べるかで、『おいしい』かどうかが、ちがったりするのかな…?


 まだ、分からないこともたくさんだけど、なんていうか、すごくいい日を過ごせてる気がする…!



   ――――――――――――――――



 『ごはん』を食べおわって、『人を知るじかん』になった。

 きのうは天宮(あまみや)さんの家に行って、その前までは、文字の『べんきょう』をしてたじかん。


 きょうは、何をするんだろう?


佐堂(さどう)さん、きょうは、(しずく)ちゃんとおしゃべりには行かない?」


「随分、気に入ったみたいだな。まあ、良いことだが…今日は行かねぇ。というより、行っても家には居ねぇだろうし。」


「…そうなの?」


 家にいないってことは、外に何かをしにいってるのかな。

 わたしが外に出るときは、『人を知る』ことがりゆうだけど、ふつうの人は、どんなことをするんだろう?


「今日は、学校に行ってるだろうからな。おしゃべりの為だけに急に入ってったら、『ふざけんな』って言われて終わりだ。」


 なんと。

『がっこう』ってばしょには、ふわふわなきもちで入ったら、いけないみたい。

 おぼえておかなきゃ。


「なんで、(しずく)ちゃんは『がっこう』に…?」


 そんな、入るだけでたいへんそうなばしょに、どんなりゆうで行ってるんだろう?


「ん?そうだな…。ほとんど、お前がやってることと同じかもな。文字を覚えたり、色んなやつと話したり、『人の常識』を知る為に行ってるってのも、理由の一つだろうな。」


「そう、なの?」


 わたしとはちがって、人はじぶんが何なのか分かってて、『人のじょうしき』もはじめから知ってると思ってたけど……。


「人も、『自分』について知らないことなんて、たくさんある。それを知る為には、自分のことの他にも色んなことを知っていかなくちゃならない。その『色んなこと』を教えてくれる場所が、学校ってもんだ。」


 人も、じぶんを知るために、いろんなことを考えてすごしてる。

 知らなかった。人も、わたしとおなじふうに考えてたなんて。

 びっくり。


「…まあ、最近の教育ってモンが、『勉強が出来るかどうか』ってトコに寄りすぎてる気がしないでもねぇが…。お前に、教育論だのを語っても仕方ねぇよな。これはいいや。」


 そう言って、佐堂(さどう)さんは話をもどす。


「人を学ぶために、お前も学校に通うってのもアリだと思ってる。その前に、まだもう少し知っておくべきことはあるが。」


「おお……!」


 わたしも、『がっこう』に行けるようになるかもしれない。

 それは、『うれしい』とは、すこしちがくて、きもちが、ぐあーってなるかんじ。


「『がっこう』、行ってみたい。行けるように、がんばる。」


 そんなわたしのことばを聞いて、佐堂(さどう)さんはすこし考えた後、


「…そうだな。中には入れねぇが、外からぐらいは見に行ってみるか?」


「え。」


 それって、つまり、『がっこう』につれて行ってくれるってこと…?


「行きたい…!『がっこう』、見てみたい…!」


 わたしとおなじように、人を知ろうとしている人が行くばしょ。

 どんなところなのか、知りたい。


「わかった。じゃあ、今日は学校と、道中の街並みの見学ってトコだな。行くぞ、緋乃(ひの)


「うん…!」


 こうして、この日は外を歩くことになった。


 幼いわたしは、知らないことばかりで。

好奇心のまま踏み出して、その先で、―――()けられない運命と出会う。



   ―――――――――――――――――



「ここが、学校だ。」


 『がっこう』には、けっこう早く着いた。

わたしが、「まずは『がっこう』をみたい」って言ったから、道のとちゅうにあったばしょの話は、あんまりしないで来てくれたんだと思う。


「流石に中の様子は見えねぇが、どうだ?感想は。」


「……すごい…ね。」


 天宮(あまみや)さんの家をすごく大きいと思ったけど、それよりももっとすごく大きい。

 こんなに大きいなら、中にはたくさんの人がいるのかも。

 ……いや、でも、天宮(あまみや)さんの家のとき、そう思ってたのに三人だけだったから、もしかしたら、ここも…?


佐堂(さどう)さん。『がっこう』には、どのくらいの人がいるの?…七人くらい?」


「細かい数は分からねぇが、百人以上は確実だな。」


「ひゃっ…………!!?」


 こんどは、おおすぎるくらいだった。そんなにたくさん人がいるところなんて、見たことない。

 びっくり。なまえをおぼえるの、たいへんそう…。


「わたしには、まだ早いりゆう。分かった気がする…。」


 今のわたしが『がっこう』に行っても、たくさん、へんなこと言っちゃうかも。


「…まあ、焦らなくても良い。お前に合った速度で、ゆっくり人に慣れていけば良い。」


「うん、がんばる。」


 はじめての『がっこう』は、中に入らなくてもびっくりしてばっかりだった。

 もっとがんばって、『じょうしき』をおぼえたときに、中に入ろう。そう思って、『がっこう』をはなれた。



   ―――――――――――――――――



 家にかえる道のとちゅうで、気になるばしょが見えた。へんな形の石がたくさんならんでて、石に文字が書いてある。

 ふしぎなばしょ。


「…気になるか?」


 わたしのようすに気づいた佐堂(さどう)さんが、声をかけてくれた。


「うん。あれ、なに?」


「あれは、(はか)だ。」


「『はか』…?」


  はじめて聞くことば。

なんとなく、佐堂(さどう)さんのカオに元気がない気がする。あんまり、いいばしょじゃないのかな?


「死んだ奴が眠る場所だ。…そういや、お前、『死』ってモンは分かるか?」


「…分かんない。『し』ってどういうモノ?』


「生きてる奴は、いつか必ず死ぬんだ。原因は色々あるが、老衰にせよ病気にせよ怪我にせよ、共通してるのは体が使い物にならなくなると死ぬってとこかな。」


 つまり、体を動かせなくなると『しぬ』ってことかな?体が動かせなくなるって、どういうことだろう。


「手も足もぜんぶ動かせなくなっちゃうの?」


「いや、そうとは限らない。体の中には、止まったら生きていけないモノが色々あるからな。」


 なるほど。

つまり、体の中のモノがひとつだけ動かなくなっただけでも、ダメなときもあるみたい。


「細かいことは少しづつ覚えりゃいいが、一先(ひとま)ず、怪我をさせちゃいけねぇのは覚えてろ。血がたくさん出たら、それこそ全身が動かなくなって死ぬからな。」


「そうなんだ…。」


 いつもより、すこしつよい言い方。ぜったい気をつけた方がいいことなのかな。


『『し』は、よくないモノ?」


 佐堂(さどう)さんのようすを見て、そう思った。

でも、


「…そうだな、死んだら何も残らねぇし、もう誰とも会えなくなる。一番辛くて、寂しいモノが死だ。」


 そう言いながら、それでも、つよいきもちを持ってるカオで、佐堂(さどう)さんはことばをつづける。


「ただ、俺はそれを、頑張れば少し変えられると思ってる。生きてる間に積み重ねたモンが、ちゃんと世界に残るんじゃねぇかって。」


 まっすぐ、わたしを見てる。

今まででいちばん、話したいことなのかも、と思うくらい、つよくてやさしいこえ。


「良いことをした分だけ、俺の魂が世界に良い影響を少しだけ与え続けて、悪いことをしたら、その反対のことが起きる。死んじまって、触ったり話したりは出来なくなっても、世界を動かす力として生き続けるんじゃねぇかってな。」


 わたしには、よく分からない。

きっと、ことばのいみを、はんぶんも分かってないと思う。

 でも、おぼえておこう。


「だからきっと、良いことをして生きた方が自分の為だ。俺が生きた意味が世界に刻まれて、その力で皆が元気に生きていく。そうしたら、たとえ死んでも、俺の魂は生き続けてるんだと思う。」


 いつか、いろんなことを知った後に、ちゃんとうけとれるように。

 このことばは、おぼえておこう。


 話し終わった後、佐堂(さどう)さんが、『はか』の方をすこしだけ見た。『うれしい』でも『さみしい』でもない気がする、ふしぎなカオをして。

 そして、すぐにまた、わたしを見て、


「って訳だ。いつか死んであそこに入った後も、生きてる奴らの活力として生き続ける為に、良い事して生きようぜ…!緋乃(ひの)。」


 元気なカオで、そう言った。


 さわったり話したりできなくなるのは、『さみしい』こと。

 でも、『さみしい』だけにならないように、いいことをしよう。今のは、たぶんそういう話。


 わたしはまだ、『さみしい』もちゃんと知らないから、この話を『いつかおきること』として、ちゃんとうけとるのは、むずかしい。

 そもそも、人にとっての『し』が、わたしにもあるのか分からない。

 でも、


「わかった。がんばって、『いきる』…!」


 わたしの『いきる』や『し』が、人とちがっても、がんばることはきっと、わたしにとっていいこと。

 ずっとなんとなく、そう思ってる。だから、がんばることは、わたしがわたしを知るために、ひつような事なんだと思う。


「そのためにも、いろんなことを知らなきゃ。つぎ、あっちに行こう…!」


「ああ、いいぜ。気の済むまで付き合ってやる。」


「うん、ありがとう…!」


 ぐあーっとしたきもちのまま、わたしたちは、つぎのばしょに歩き出した。



   ―――――――――――――――――



 あの後、たくさんいろんなばしょを見て、空がくらくなるまで、じかんがたった。


「午前中に家出たのに、こんな時間まで掛かるとはな。お前の知識欲を舐めてたぜ。随分遅くなっちまった。」


「…ごめんなさい。」


 ぐあーってなったきもちをそのままにして、いろんな話を聞きすぎちゃった。

 これは、よくなかったかも。


「謝らなくて良い。気の済むまでって言ったのは俺だからな。ちゃんと考えて言葉を選ぶべきだった。悪いのは、俺の適当さだ。天宮(あまみや)が知ったら、ゴタゴタ言ってくるだろうな。」


 そう言うけど、佐堂(さどう)さんはわるくないと思う。

ただ、たぶんそれ、天宮(あまみや)さんもわるくないかも…?


「お前が楽しかったなら、それでいい。そんで俺には、お前が楽しんでたように見える。だから、いい。俺も楽しかった。」


「…!うん…!」


 佐堂(さどう)さんは、いつもきもちがふわってなることばを言ってくれる。

 すごく、『うれしい』…!




そんなふうに、佐堂(さどう)さんとおしゃべりしながら歩く帰り道。そのとちゅうにある、すこしひろいばしょのまんなか。

 そこに、



「よォ。初めましてだなァ……!兄妹(きょうだい)…!」



 そこに――――――『運命』が()た。

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