序/三 わたしの『いばしょ』
「着いたぞ。ここが俺の家だ。つっても、家に居ないことも多いからな。あんまり綺麗じゃねぇが、許せ。」
そう いいながら さどうさんは 『いえ』のいりぐちを ひらいた
さどうさんが いえのなかに はいるのをみて わたしもついていく
「わ…!」
なかに はいると そととは ちがうにおいがして みたことのない ものが たくさんあって 『いえ』は しらないことだらけの ばしょだった
びっくり
「とりあえず、家にあるものをざっと説明しとくか。それが終わったら、お前の服を調達してくる。」
そうして さどうさんから 『いえ』のことを いろいろ おしえてもらった
まずは『りびんぐ』 そして『せんめんじょ』 『といれ』 『おふろ』 『だいどころ』 『さどうさんのへや』 『ものおき』
どこに なにがあって どんなふうに つかうばしょなのか たくさん おしえてくれた
「…大体こんなとこだな。どうだ、気になることはあったか?」
「ぜんぶ、きになる。でも、だいじょうぶ。さどうさんが、たくさんはなしてくれたから、いまはそれでじゅうぶん。」
もっと きいてみたいことは あるけど あんまり さどうさんを こまらせちゃいけないから それはまたこんど
「そうか。なら、そろそろ俺は服の調達にいってくる。…縛りつけるようで悪いが、外には出ないで待っててくれ。」
「うん、まかせて。ちゃんとできる。」
「そりゃ良かった。俺の部屋ぐらいなら、多少ボロボロにしてもいい。気になることをどうしても試したくなったら、俺の部屋でやってくれ。」
さどうさんは わらって そういった
けど それは なんていうか
「…しないよ?わたし、『ちゃんとできる』っていった。」
あんしんして もらえてない きがして すこし きもちが ぐにゃっとする
「…!へぇ、そういう顔するんだなお前。」
わたしをみて さどうさんは そんなふうに いった
いま わたしが どんなカオをしているのか わたしには わからない
「悪かったな。『ちゃんとできる』なら安心だ。お前を信じる。」
そう いいながら わたしのあたまを なでる さどうさん
であってから なんどめかの ふしぎなきもちに なった
―――――――――――――――――
そうして 『ふくのちょうたつ』に いった さどうさんを まっているあいだに 『いえ』にある いろんなものを みていると きになることが できた
(あの『きごう』は…。)
いろんなところにある 『かみ』にかかれてる『きごう』 ――たしか 『もじ』って いうもの
その『もじ』をみて それぞれの いみを かんがえてみる
……なるほど ぜんぜん わからない
そういえば 『もじ』を ちかくで みたことは なかったから よみかたをしらない
『ひと』について しるなら 『もじ』の よみかたを しっていたほうがいい きがする
そんなことを かんがえているうちに さどうさんが かえってきた
「よぉ、利口にしてたか?…あぁいや、してたよなお前なら。『ちゃんとできる』、だもんな。」
「うん、できる。」
「…よし!…じゃあこれ、お前の服な。一応いくつか用意してきたんで、好きなの選んでくれ。」
さどうさんが とりだした 『ふく』をみる
ひとつめは 『そらのいろ』と『みずたま』のふく
ふたつめは 『くさのいろ』と『しましま』のふく
みっつめは 『ちのいろ』と『ほし』のふく
「………うん、これにする。」
すこし かんがえて ひとつめの ふくをえらんだ
「お、少し意外だな。理由は?」
「これがいちばん、ふわってきもちになった。ほかのふたつが、ならなかったわけじゃないけど…。」
「つまり、一番お前好みだったわけか。なら、それでいいだろ。堅苦しい場でもない限り、服なんて自分の着たいもん着てりゃいい。…いや、よっぽど妙な服は別だが。」
おもいだした みたいに ことばをたした さどうさん 『よっぽどみょうなふく』を しってるのかもしれない
それはそれとして さどうさんのいうとおり このふくは わたしの『このみ』なのかもしれない
「このみ、かぁ…。」
もしそうなら それは わたしがわたしのことを すこしわかった ということかもしれない
それは すごくいいこと
「じゃあ早速だが、まずはその服を着てきてくれ。『これから』については、その後話そう。」
そう いいながら 『せんめんじょ』のほうをゆびさす さどうさん
きっと ふくをきるのは 『せんめんじょ』で してほしいってことだとおもう
わたしは 『せんめんじょ』にいって 『ふく』をきようとする
そのとき 『せんめんじょ』にある 『いた』のなかに みたことのない『ひと』がいて わたしはとまった
「……だれ?」
そのひとは わたしとおなじように とまってる
うごかないわたしをみて さどうさんが ちかくにきた
「どうした?何か気になることがあったか?」
「…このひと、だれ?」
そういって『いた』を ゆびさした
だけど 『いた』のなかにいるひとが いつのまにか ふえてた このひとは…さどうさん?
「そうか…!お前、鏡なんて見たことないのか。ってことは、自分の姿を今初めてみたのか…!」
「わたしの、すがた…?」
つまり この『いた』は 『いた』のまえにあるものを みせていて いまは さどうさんと わたしのすがたを みせてるってことなのかな…
だとしたら…
「これが、わたしのすがた…。」
すごく ふしぎなかんじ
わたしは 「ひと」と おなじようなかたちを してた
わたしは 「ひと」とは ちがうモノだから かたちが にてるとは おもってなかった
びっくり
(でも、かんがえてみれば。)
『ひと』と かたちが ぜんぜんちがったら 『ふく』も ぜんぜん ちがうかたちの はず
さどうさんがくれた 『ふく』のかたちをみて きづくべき だったかも
「…ねぇ、さどうさん。なんでわたしが『ひと』みたいなかたちをしてるのか、しってる?」
もしかしたら さどうさんは 『おかしなやつら』さんから なにか きいてるかもしれないから たしかめてみた
「ん?…あー、そうだな。お前が『どんな存在なのか』ってのについて、なんとなくの仮説…多分、こうだろうって話は一応聞いてる。ただ…。」
「?」
「それを教えるのは、なんつーか…そうだな…。例えるなら、自分が人間だって知らない奴に『お前は人間だ。そして、人間とはこういう生き物だ』って言うような話だ。」
「だめなの?」
それが わかるのは わるいことじゃない きがする
さどうさんが なにをきにしているのか わたしにはわからない
「人間にも色んなやつがいて、在り方はそれぞれだ。こうじゃなきゃいけないってモノはない。だってのに、『人間とはこういうモノ』なんて話を下手にすれば、そいつの生き方を縛っちまうかもしれねぇ。せっかくお前に、自分で『自分は何者か』ってのを考えようって気があるんだ。余計なことはしたくねぇ。」
「…そっか?」
ちゃんと わかったわけじゃない けど なんとなく さどうさんのきもちは うけとれた きがする
とにかく いまはまだ わたしには わからないことだらけ
いろんなことを しっていくために まずは『ふく』をきて さどうさんの 『これからのはなし』をきかないと
そしてわたしは 『ふく』をきることが できた ちょっと へたで おそかったかもしれないけど
「…きれた。さどうさん、まった?」
「おう、大丈夫だ。最初は何でも不慣れなもんだろ。」
「うん…むずかしい…。」
だいじょうぶだけど おそかったってことみたい
つぎはもっと じょうずに やれるように がんばる
「さて、じゃあ早速『これから』についてだ。まあ、そんなに改まって話すことでもねぇんだが。ひとまず、俺とこの家で暮らしながら色んなことを教えていく。そんで、ある程度人間の暮らしってもんが分かったら、俺以外の人間と関わる機会を増やしていく。」
「さどうさんいがいの…」
いろんな ひとと はなしをする
それはずっと きょうみが あったこと
きっと たくさんのことを しれて わたしがわたしを しるために ひつようなことが わかってくるんじゃないかと おもう
「まあ、何はなくともまずは人との会話に困らねぇぐらいの知識をつけねぇとな。会話さえ問題なくできるようになりゃ、わからないことがあってもなんとかなる。」
「わかった。がんばる…!」
なんだか きもちが わぁってなってる
がんばりたいって つよくおもってるかんじ
そういえば 『ふくのちょうたつ』を まってるあいだに しりたいことが できたんだった
まずは それをきいてみよう
「さどうさん。『もじ』、おしえて。」
「…文字か。なるほど、言葉の意味と書き方を同時に教えるのは、確かにいいかもな。書き残すってのは、頭に定着しやすいらしい。」
すぐに なっとくしてくれた
やっぱり 『もじ』のよみかたは しっておいたほうが いいことだったみたい
「じゃあ、まずは平仮名からだな。ちょっと待ってろ、準備してくる。」
そういって うごきだす さどうさん
でも さいしょに どうしてもしりたい『もじ』があって こえをかけて とまってもらった
「まって、さどうさん。わたし、さどうさんのなまえの『もじ』いちばんさいしょにしりたい。…あ、あとわたしのなまえの『もじ』も…。」
まずはこれを しっておかないと
これは いま わたしにとって いちばん だいじなものだから
とつぜんの わたしのわがままに すこし おどろいたようすを みせたあと さどうさんは すぐに もどってきてくれた
「俺の名前はともかく、自分の名前は確かに大事だもんな。この際、名前だけは平仮名、片仮名、漢字、全部教えておくか。」
そうして なまえの『もじ』を みっつ おしえてくれた
おなじことばに みっつも『もじ』があるとは おもわなくて びっくりした
…それはそれとして 『おれのなまえはともかく』 なんて いってたけど わたしとしては まずは さどうさんの なまえの『もじ』を しるほうがだいじ
「ありがとう。まいにちみて、おぼえる。」
「そこまでしなくても良いとは思うが…。とはいえ、使う機会がなきゃ覚えられねぇよな。日記でも書くか?」
「『にっき』…?」
「その日あったことを、紙に書き残すんだ。あくまで文字の練習のためだからな、大したことは書かなくてもいいが。」
なるほど
それなら わたしにも できそう
「わかった。『にっき』やってみる。」
「おう。…さて、そんじゃ続きは明日にして今日はそろそろ寝るか。結構いい時間になっちまった。」
「…?『ねる』…?」
また しらないことば
『ねる』って なんだろう
「―――まさか、お前。」
さどうさんは おどろいたカオを してる
『ねる』は しってて あたりまえのもの なのかも
「ごめんなさい…。わたしは、『ねる』をしらなくて。」
「いや、謝ることじゃない。…ただ、そうだな。かなり驚いた。お前、生まれてからずっと意識が途切れたことがないのか?」
いしきが とぎれる?
そういうことは なかった きがする
「とぎれないのは、へん?」
「変とかじゃない。俺が気にしたのは…、意識があり続けたのに、お前はずっと独りだったってことだ。それは、すごく寂しいだろ。」
「―――――え。」
とても おどろいた
『さみしい』というものは わたしには よくわからないものだけど なんとなく さどうさんと『さみしい』は あんまり つながらない きが したから
だから さどうさんが それをいったことに なんだか とてもおどろいた
「……わかんない。」
「……。」
「わかんない…けど、たぶんだいじょうぶ。だって、」
さどうさんのカオが ぐにゃってきもちのカオをしてるから それを どうにかしたくて
「いまは、さどうさんがいるから、だいじょうぶ。」
まっすぐ さどうさんの めをみて そういった。
「………そうか。なら良かった。」
さどうさんのカオが ふわっとしたカオに なった
さっきより げんきになってくれたみたいで よかった
「けど、そうだな。もし寝ることができるなら、寝た方がいいかもな。人は夜になると寝るんだ。当然俺も寝るから、一人で起きててもやることなくて困るだろうしな。」
「…そっか。わかった、『ねる』ができるかためしてみるね。」
「よし。じゃあ、とりあえず俺の部屋のベッドで寝てもらうか。」
―――――――――――――――――
そして ふたりで『さどうさんのへや』にいって わたしは 『べっど』のうえに ころがった
「寝れるまで話し相手になってやる。…まあ、結局寝れないってわかったら流石に寝させてもらうが。」
さどうさんは そういって 『べっど』のよこに すわってる
また ふしぎなことをするなぁ
「さどうさんも、『べっど』のうえにのらないの?」
「ん?いや、邪魔じゃないか?俺が隣で寝たら。」
「…?だいじょうぶだとおもうよ?わたしのからだ、ちいさいし。」
『べっど』の おおきさにたいして わたしのからだは はんぶんもない
あいてるところは たくさんあるから さどうさんがのっても はみでたりしないと おもう
「大きさはそりゃそうだろうが…横に俺の顔があったら寝づらくないか?」
「……???さどうさんが、となりにいるほうがいい。きもちがふわってなる。」
「…そういうもんか?」
そういうもん と こたえて 『べっど』のおくに いどうする
すこし してから さどうさんも『べっど』のうえに のってきた
「ねぇ、さどうさん。…どうして、わたしとはなしにきてくれたの?」
ふしぎなことが たくさんあって そういえば きいてなかった
わたしのこと みえるほうほうが あるからって わたしと はなしにくる ひつようは ないはず
だけど さどうさんは きてくれた
それは どうしてなんだろう
「わたしが『さみしい』っておもってるんじゃないかって、かんがえたから?」
「……どうだろうな。或いは、俺が寂しかったから、かもしれねぇな…。」
にかいめの『さみしい』に また おどろいた
やっぱり なんとなく にあわない きがする
そうおもうのは わたしが さどうさんのことを まだ よく しらないからかな…?
「さどうさんって、さみしがり…?」
「かもな…。」
みじかい かえし
いまの わたしには さどうさんのきもちを ちゃんと うけとることができない
でも
「じゃあ、いまはさみしくないね。」
さみしくて わたしに はなしかけたなら
「いまは、わたしがいるから。」
わたしが ここにいることが はなしかけてくれた もくてきを かなえることになる
「そうだな…。今は、ここが…お前の『居場所』だ。」
「わたしの、『いばしょ』…。」
「ああ。だから、今は俺もお前も独りじゃねぇな。」
なんだか すこし やわらかいかんじのカオで さどうさんは いった
『いばしょ』
そのことばは きもちが ふわってなる ことばで なんだか からだの ちからが ゆるくなっていくように かんじる
「…寝れそうか?」
いしきが ゆっくり とじていくような きがする
ひとりぼっちで つめたくて ただ そこにいるだけだった あのばしょ
いまは すぐよこに さどうさんがいて あったかくて わたしが ここにいることに なにかの いみがある
ここが わたしの『いばしょ』
それは なんだか すごく―――
「…おやすみ。」
ちいさな こえを ひとつ きいて わたしのいしきは とじていった




