二/五 怪物退治の始まり
動かなくなった怪物から、ナイフを抜き取る。すると、怪物の体は崩れて、小さな塵の山だけが残った。
わたしが、この怪物の命を終わらせた。気持ちは良くないけど、後悔もしない。この怪物は、ただここを通っただけの人の命を奪った。
だから、あなたの命を終わらせることを、可哀想なこととは思ってあげられない。
「……。」
初めて見た、わたしと似た存在の『終わり』。わたしも、いつか『終わり』がきたら、こんな風になるのかな…。
もし、そうだとしたら、十一年前の怪物も同じ?あの日、意識が途切れて元に戻った後、近くに塵の山はあったっけ…?
…思い返してみても、結局あんまり意味はなかった。あのとき、周りの地面はガチャガチャになってて、塵なんて沢山あった。それがあの怪物のものだったのかどうか、判断する方法は無い。
(あのときの怪物が生きてるかどうかは、まだ分からないなぁ…。)
今回のことが、別の怪物が起こした事件だとしても、なにか手掛かりがあればと思ったけど、そう簡単にはいかないみたい。
「おーい、緋乃ちゃーん!終わったみたいだねー!」
「!紗羅さん。」
怪物が倒されたのを確認して、紗羅さんが駆け寄って来る。そして、塵の山の前で止まって、満足気に頷いた。
「うんうん!流石の手腕だね!ご褒美に、頭を撫でてあげようか!」
そう言って、腕をわたしの頭に向けて伸ばしながら、無邪気に笑う紗羅さん。その仕草は、子供みたいで凄く可愛い。
「とりあえず、これで終わりかな…?わたし、帰っても大丈夫?」
「うん、良いよ〜。後始末は私の方でやっておくから、緋乃ちゃんの今日の仕事は、ここで終わり!」
少し屈んで頭を差し出して、撫でられながら話をする。事が済んだら、すぐ帰って来るように言われてるから、ちょっとあっさりしてるけど、やるべき事が終わったなら、今日はもう帰ろうと思う。
ただ、解散する前に一つだけ、紗羅さんに聞いておきたい事がある。
「ねえ、紗羅さん。人に危害を加える怪物って、他にもいるの?」
紗羅さんは、今までも人に危害を加える怪物を、観測したことがあるって言ってた。その怪物達は、今も生きてるのかな…?
「いるよ。観測はしたけど手に負えなくて、放置してる奴とか、これから新しく観測したり、今この瞬間、生まれて来る奴もいるだろうね!」
そっか。考えてみれば自然な話だけど、新しい存在が生まれてくることもあるんだ。十七年前に、わたしが『発生』したときみたいに。
つまり、今、存在してる危険な怪物を全部倒しても、それでもう安心って訳じゃないんだ。
「……紗羅さん。わたし、怪物退治、続けたい。誰かが傷付くのを止められるなら、わたしはそうしたい。だから、もし危険な怪物を見つけたら、また場所を教えてほしい。難しいかな…?」
今回、紗羅さんがここに来たのは、『怪物退治』の目的があったから。でも、普段から怪物退治が目的って訳じゃなさそうだった。
佐堂さんも、紗羅さん達はわたし達の存在を研究してる人達だって言ってた。本来は研究に忙しくて、怪物退治に割ける時間は、あんまりないのかもしれない。
だから、協力してもらうのは難しいかもと思ったけど、
「元々、そのつもりだよ?私達じゃ対処できない怪物も、同じ怪物の緋乃ちゃんなら、いけるだろうし!前向きにやってくれるなら、こっちとしても助かっちゃう!」
親指を立てながら、快くわたしのお願いを引き受けてくれた。良かった、お互いの利害は一致してるみたい。
「ありがとう、紗羅さん…!じゃあ、またね。お疲れ様でした…!」
「うん、お疲れ様〜!また後で、家に行くからねー!」
挨拶をして、手を振りながら別れる。初めての怪物退治は、危なげなく終わった。
これから、怪物退治を続けて色んな人を助けることで、佐堂さんに貰った想いを繋いでいけるかな――。
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事件が終わった後の路地裏。怪物少女の背中を見送った後、小さな塵の山を見つめる、研究者の小さな女性。
現場に残っているのは、塵になった怪物と、その怪物が生きていたときに流した血のみ。立ち去った怪物少女は、一切の傷を負っていない。
「まあ、そりゃそうだよねぇ。あの子は『アレ』と同格だから、このレベルの怪物じゃ相手になる訳ないっと!」
軽快なトーンの声で喋りながら、その場にしゃがむ。女性は相変わらずの楽しそうな様子で、小さな塵の山を調べ始めた。




