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緋の暁光《あけのぎょうこう》  作者: KY
二章 人間参加、怪物胎児
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二/六 家族会議

「それじゃあ、緋乃ちゃんが危ないことをした件について、家族会議を始めるわね?」


 穏やかな笑顔でそう口にしたのは、天宮家の頂点に君臨する女性、天宮 凪葉(なぎは)さん。


 路地裏の怪物退治を終えて、無事に家に戻ってきた後。一度寝てから朝になって、現在、日曜日の午前十時五分。

 事件について調べてた天宮さんと、話を聞いた凪葉(なぎは)さんが家に帰ってきて、わたしは状況説明を求められた。ある程度、事の顛末を伝え終えて、今はお叱りタイムに入ってる。


 凪葉(なぎは)さんも優しい人だけど、怒ると一番怖いのは凪葉(なぎは)さんだと思う。

 いつも通りの穏やかな口調、穏やかな笑顔。その筈なのに、底知れない圧を放ってる。雫ちゃんの優しいのに怖いところは、凪葉(なぎは)さん譲りだと思う。


「緋乃ちゃん。私がどうして怒っているか、分かる?」


「…っ!」


 凪葉(なぎは)さんの問い掛けを受けて、体が一瞬震える。路地裏で怪物と戦ったときよりも、遥かに緊張感がある。それでも勇気を持って、ちゃんと目を見て答える。


「い、命懸けのことをしちゃったから…?」


 昨日、雫ちゃんに心配をかけちゃったのもそれが理由だった。凪葉(なぎは)さんが怒ってる理由も、同じものかも知れない。


「そうだね。僕らにとって、緋乃ちゃんは家族同然だ。緋乃ちゃんが傷付いたら悲しいし、それにそんなことになったら、先輩にも顔向けできない。」


 わたしの言葉に、凪葉(なぎは)さんの代わりに、天宮さんが真剣な表情(カオ)で答えた。

 確かに、わたしも逆の立場だったら、きっと心配する。天宮さん達の気持ちは凄く嬉しい。でも、やっぱりあれは、やるべきことだったと思う。

 だから、皆がそう思ってくれてたとしても、わたしは、


「違うわ、はるくん。私が怒ってるのはそういうことじゃない。」


「ごめん、違ったらしい。」


 違うみたい。凪葉(なぎは)さんにバッサリ否定されて、ばつが悪そうにする天宮さん。

 ちなみに、『はるくん』というのは天宮さんのこと。天宮さんは晴昭(はるあき)って名前。


「私が怒ってるのは、私達に相談する前に行動したこと。いい?緋乃ちゃん。あなたがちゃんと考えて決めたことなら、私は尊重するわ。でも、だからこそ、あなたの考えを、先にちゃんと聞かせてほしいの。あなたを()()()()()()()()()()()を、ちゃんと私達に背負わせてほしいの。」


「…!」


 ……そっか。『知らないところで勝手に』だったのが、凪葉(なぎは)さんは嫌だったんだ。

 大切な人が、知らないうちにいなくなったら、きっと凄く戸惑う。わたしも、佐堂さんが亡くなったのが、わたしの知らないところでだったら、もっと心の中がぐちゃぐちゃになってたと思う。

 だから、ちゃんと伝えてほしかったんだ。もしも、わたしがいなくなったとき、わたしがここに残したものを、ちゃんと受け取って繋ぐために。


「そっか……。うん、…そっか。」


 十一年前の怪物のことを思い出してたのもあって、わたしは気が急いてたのかも。大事なことを見落として、余計に心配させちゃった。


「ごめんなさい、凪葉(なぎは)さん。今度は、ちゃんと先に言うね。」


「ん、よろしい。何事においても、報告、連絡、相談は大事なんだからね?」


 凪葉(なぎは)さんの言葉に、力強く頷く。正にその通り。だから今のうちに、ちゃんと宣言しておこう…!


「わたし、これからも怪物退治、続ける…!状況によっては、事前に連絡できないこともあるかもしれないから、そのつもりでお願いしますっ…!」


 きちんと頭を下げて、お願いする。一つの事件ごとに、直前に連絡はできないかもしれないから、今ここで(まと)めて伝えておこう…!


「………………。緋乃ちゃん、顔を上げて?」


 凪葉(なぎは)さんに促されて、顔を上げる。すると、上げた瞬間、ほっぺたを軽く引っ張られた。


「そういう話じゃないのよ、緋乃ちゃん…?」


「??いひゃい、にゃぎはひゃん、いひゃいでひゅ…!」


 言われた通り、ちゃんと事前に伝えた筈なのに、まだ少し怒ってるみたい。どうしてだろう。

 ふしぎ。


「全く……言われたことを額面通りに受け取るだけじゃなくて、応用を効かせられる分、ちょっとズレちゃうことがあるんだから。そこも、緋乃ちゃんの魅力かも知れないけど…。」


 少し呆れながら、ほっぺたから手を離してくれる凪葉(なぎは)さん。どうも、わたしにはまだ変なところがあるみたい。頑張らなきゃ。


「さて、次はあなたね、雫。」


 穏やかな笑顔に戻って、くるりと雫ちゃんの方を向く凪葉(なぎは)さん。声を掛けられたことに反応して、暫く会議の様子を見てた雫ちゃんが、少し体を震わせる。流石の雫ちゃんも、凪葉(なぎは)さんに怒られるのは怖いみたい。

 小学生の頃、男の子と二、三回殴り合うくらいの喧嘩をして、ボロボロに泣かせたことで怒られて、自分の部屋で信じられないくらい縮こまってたこともあった。ちなみに、元々は相手側に非がある喧嘩だったから、雫ちゃんが怒られた理由は、『殴り返すにしても一発にしないと、ダメージが同じくらいにならないから、今回のはやり過ぎ』というものだった。


 笑顔の凪葉(なぎは)さんが、雫ちゃんの目の前に立つ。雫ちゃんは、臨戦態勢のように、少し腰を落として相対する。


「雫、あなたが連絡してくれても良かったのよ?」


 そう言いながら、顔を近づけて圧をかける凪葉(なぎは)さん。それに対して、雫ちゃんは負けじと言葉を返す。


「忙しいだろうなと思っての、娘なりの配慮よ…!緋乃には、危なくなったら(うち)に戻るよう言ったし、私が絶対死なせないつもりでっ…!」


「えい。」


 雫ちゃんの主張の途中で、凪葉(なぎは)さんはおもむろに、雫ちゃんのほっぺたを引っ張り始めた。


「いたっ、ちょっ…おかあさん…!やめっ、いっひゃっ…!?にゃんかっ、ちょっとちゅよくにゃい!?」


 訴えは届かず、ほっぺたをもちゃもちゃに引っ張られる雫ちゃん。凪葉(なぎは)さんは、目を細めながら雫ちゃんを叱る。


「子供が親に、そんな配慮するんじゃありませんっ。危ない目に遭いそうなら、ちゃんと言って。あなた達の無事に比べたら、他のことなんてどうでもいいんだから。」


「……!」


 凪葉(なぎは)さんの言葉を聞いて、少し赤くなる雫ちゃん。愛されてる自覚はあると思うけど、改めて口にされるとやっぱり嬉しいみたい。

 ほっぺたから手を離して、真っ直ぐ雫ちゃんを見据える凪葉(なぎは)さん。雫ちゃんの言葉を待ってるみたい。雫ちゃんも、凪葉(なぎは)さんの意図を察して、真っ直ぐ目を見て謝った。


「…ごめんなさい。」


「よろしい。さて、それじゃあ最後は、はるくんねっ?」


「えっ、僕?」


 凪葉(なぎは)さんの予想外の言葉に、目を丸くして驚く天宮さん。天宮さんが驚くのも無理はない。だって天宮さんも、わたし達から詳しい話は聞いてなかった側だから、怒られる理由はない筈。


「はるくんも、雫に事件を調べてほしいって言われてから、すぐに私に連絡しなかったでしょう?」


「あ……。いや、それは……。」


 少し跳ねるようなトーンで話す凪葉(なぎは)さんと、たじろぐ天宮さん。近づいてくる凪葉(なぎは)さんに、天宮さんは、どんどん壁際に追い詰められてく。


「な、凪葉(なぎは)…。落ち着いて、ゆっくり話し合おう…!」


 圧をかけてくる凪葉(なぎは)さんを、天宮さんはどうにか宥めようとする。だけど、凪葉(なぎは)さんは変わらない様子のまま、


「勿論、私もそのつもりよ?二人でゆっくり、話し合いましょう?」


 そう言って、天宮さんの手を握って階段の方に歩き出した。


「ちょっと待って凪葉(なぎは)!?どうして僕だけ場所を移すの!?怖い!!子供に見せられないような酷いこととか、しないよね!?」


 意図が読めない行動に、大慌ての天宮さん。そんな天宮さんの様子を楽しそうに見ながら、凪葉(なぎは)さんは言う。


「それは、はるくんの態度次第かなぁ?」


 小悪魔のような笑顔と跳ねるような足取りで、凪葉(なぎは)さんは進む。それを見た天宮さんは、引き攣った笑い方をして、


「二人共、僕に何かあったら、せめて骨は拾ってくれないか…。」


 わたしと雫ちゃんを見て、そう言い残した。


「ふふっ、久しぶりの、はるくんと二人っきりのスキンシップ〜♪」


 仲睦まじい夫婦の姿を見送って、わたしと雫ちゃんは目を見合わせて、


「……まあ、とにかく、改めてお疲れ様、緋乃。」


「……うん。心配かけちゃってごめんね、雫ちゃん。」


 少し苦笑いをしながら、そんな風に声を掛け合った。

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