二/一 奇々怪々不思議難解人間、登場!!
窓の外、天宮家の玄関前で声をあげているのは、小学生くらいに見える女の子だった。女の子は、笑顔で楽しそうに同じ言葉を繰り返してる。
「ぴんぼーーーん!!ぴんぼーーーん!!」
「意味がわからないわ…。家に用があるなら、インターホン押しなさいよ…。」
女の子の様子を見て、ご機嫌ナナメになってる雫ちゃん。確かにその通りだけど、そうしないってことは理由があるのかもしれない。
「昔のわたしみたいに、呼び鈴を知らないとか?」
佐堂さんに色んなことを教えて貰うまで、知らないことだらけだったわたしみたいに、あの子も何か事情があって世間の常識に疎いのかもって考えた。けど、
「ないわね。聞くけど、その頃のアンタに『ピンポン』なんて通じる?」
「あ。」
雫ちゃんに言われて気付いた。呼び鈴そのものを知らないなら、『ピンポン』って音が浮かぶ筈ない。つまり、あの子は呼び鈴を知ってる上で、あえて自分の口から大きな声で呼び鈴の真似っこをしてるってことになる。
「悪戯にしてもタチが悪いわね…。」
雫ちゃんは怒りながら、部屋を出て行った。
大変…。雫ちゃんは、相手が小さい子でも手心を加えたりはしない。きちんと叱らないとその子の為にならないからっていう思いやりによるものだけど、それはそれとして、小さい子を泣かせちゃったら雫ちゃんも少し落ち込む。
あの様子だと、女の子が号泣しちゃうくらいちゃんと叱る可能性が高い気がする。ここはわたしが、上手く緩衝材になるべき状況だと思う。雫ちゃんの後を追って、玄関に行こう…!
―――――――――――――――――
玄関前で雫ちゃんと合流した。雫ちゃんが玄関を開ける前に、少しだけでも宥めておこう。
「雫ちゃん、出来るだけ穏便にね…?」
「向こうの態度次第ね。」
雫ちゃんは、いつも通りの真っ直ぐ強い意志を持った瞳でそう言った。
ごめん…まだ名前も知らない女の子。第一段階のフォローは失敗。けど、まだ出来る限りフォローはするから…!でも、悪戯は良くないよ。
そして、雫ちゃんが玄関を開けると、待ち望んでたかのように女の子が立ってた。
身長は、百四十ニセンチくらい。黒を基調にした服装で、髪型はツーサイドアップ。
堂々とした佇まいと無邪気な瞳でこっちを見ながら、話し掛けてきた。
「よっすよーっす!!初めましてだね、少女達!ここって、天宮さん家のお宅であってるかな〜?」
予想外の第一声に驚く。
年上のわたし達を少女達って呼んで、こっちを弄ぶような話し方。幼い外見と元気なノリにはそぐわない言葉を聞いて、呆気に取られた。
「ええ、あってるわ。それで?態々、ウチの前で大きな声で叫び続けて、近所に騒音を響かせた理由は?」
固まってたわたしとは違く、淡々と女の子を問い詰める雫ちゃん。
うん。やっぱり、こういうときの雫ちゃんはちょっと怖い。
「いやー、最初のインパクトはやっぱり大事かなって!普通にインターホン押すんじゃ、つまらないでしょ?だから、自分の口で言ってみたという訳で!」
雫ちゃんの圧にも全く怯むことなく、胸を張って答える女の子。
よし、これはマズそう。
「――そう。随分、人を舐めてるのね。あなた、小学生だとしても、五、六年生ってとこでしょ。その年でそんな振る舞いなのは、育ちが悪過ぎるんじゃない?」
かなりご立腹な様子の雫ちゃん。ここまで怒らせちゃったら、止められないかも。
でも正直、わたしもこの女の子の振る舞いは危ういと思う。大変なことになっちゃう前に、優しい人に叱ってもらった方が良さそう。
そう思ったんだけど、女の子は楽しげに衝撃の言葉を口にした。
「いやいや、私、君たちよりもお姉さんなんだぜ〜?何を隠そう、麗しの二十二歳!!キューティクルビューティーお姉さんの魅力に、メロついちゃっても良いんだよっ☆」
軽快なターンとウィンクをしながらの、そんな言葉。
「「――――。」」
どう見ても小学生の見た目をしてる女の子からの、まさかの年上宣言。今度はわたしだけじゃなくて、流石の雫ちゃんも固まってる。
さっきから、ずっと驚かされてばっかり。どこまで狙ってかは分からないけど、見事に強烈な『最初のインパクト』を食らわされた。
「………嘘、って訳じゃなさそうね。そう…二十二歳で、そんな……。」
直感で嘘を吐いてないって判断して、落胆したような声を出す雫ちゃん。これは多分、子供だったとしても見過ごせない振る舞いを、大人がしていたことにショックを受けてるんだと思う。
反面、逆にわたしはさっきより興味が増した。大人なのに子供みたいな外見。理解の難しい行動。
この人は一体、どんな生き方・在り方をしてる人なんだろう…。
「うんうん、良いね!良い反応だよ!二十二歳とは思えない可愛過ぎる見た目と、それでも尚、纏う大人の雰囲気に驚いてくれたかな?じゃあ、挨拶はこのくらいにして、本題に…、」
「お断りよ。あなたみたいな人の相手は、絶対に疲れるもの。説教しても聞く気もないでしょうし、帰ってくれるかしら?というか、私は戻るわ。さようなら。」
訪ねてきた用事の内容を話そうとした女性に対して、全く取り合わずに家の中に戻ろうとする雫ちゃん。背中を向けた雫ちゃんを、女性は慌てて引き留めようとする。
「あー待って待って!怪しい人ではあると思うけど、私の話聞いた方が良いと思うよ?用があるのはこっちの子だけど、一緒に住んでるなら事情は把握しておきたいでしょ?」
雫ちゃんを引き留める為に言ったその言葉は、また驚かされるものだった。用があるのは、わたし……?
天宮家を訪ねてきた、初対面の人。それなら当然、わたしじゃなくて天宮家の人に用があるんだと思ってたんだけど…。
「それ、どういう意味…?」
わたしと同じように違和感を感じた雫ちゃんが、足を止めて振り返る。
そんなわたし達の様子を見て、また楽しげな笑顔で女性は話始めた。
「この前、この近くで起きた殺人事件、知ってる?それにまつわる話なんだけど…。」
「…!事件の詳しいこと、知ってるの…!?」
思いがけない話に、つい勢い良く反応した。まさか、その話題が出てくるとは思わなかった。
事件のことを知ってるんだとしたら、この人は一体どういう立場の人なんだろう…?
「俄然、怪しくなってきたわね…。あなた、何なの?」
女性の素性に対して、警戒心を見せる雫ちゃん。そんな雫ちゃんに鋭い目で見られても、笑顔を崩さずに話を続ける女性。
「私のこと?んー、そうだなぁ…。佐堂くんの知り合いで、『おかしな奴ら』とか『妙な連中』って言えば、思い当たらないかな?怪物少女ちゃんっ♪」
「!」
『おかしな奴ら』さん…!佐堂さんが話してた、人に認識出来ない存在を研究してる人達だ…!わたしのことを怪物少女ちゃんって言ったし、わたしが人じゃないことも分かってる。
間違いない。この人は、わたしみたいな存在がいることを知ってる。そんな人が、あの殺人事件の話をしに来たってことは、やっぱり………!
「話、聞きたくなってきた?」
今までとは少し違う、底の知れないような表情で笑う女性。それに対して、わたしは強く頷いて返した。
「うんっ!じゃあ、立ち話もなんだし!家の中に入ろっか!さあて、内装はどんな感じなのかな〜?」
ぱっ、と今まで通りの笑顔に戻って、玄関の方に歩いてく女性。その振る舞いを見て、やっぱり不満そうな雫ちゃんと目を合わせてから、わたしも玄関の方へ。
――――きっと、何かが動き出す。わたしは、そんな確信を感じながら、家の中に戻っていった。




