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緋の暁光《あけのぎょうこう》  作者: KY
一章 ごく普通の日々
16/24

一/七 嵐の前の、なにがしか

 放課後。

生徒会の仕事がある雫ちゃんと別れて、帰り道を一人で歩く。


「………。」


 お昼休みの、瑠佳ちゃんの話を思い返す。

体を(えぐ)られた遺体。人や動物には付けられない、異様に形の整った傷痕。


 わたしは知ってる。

人や動物じゃない、人の認識外の存在が世界に居ることを知ってる。そもそも、わたしが居ること自体がその証明になる。

 そして、わたしと同じような存在を他にも知ってる。


 十一年前、突然現れて佐堂さんの命を奪ったバケモノ。『それ』が、今回の事件の犯人かもしれない。

 遺体を直接見た訳じゃないし、絶対とは言い切れない。わたし達以外にも、『そういう存在』がいる可能性もあるかも。


 でも、同一犯の可能性も十分高いと思う。

もし、本当に…同じ存在(モノ)がやったんだとしたら。今もまだ、人の命を奪い続けてるんだとしたら――――


「白羽。」


「わっ…!」


 突然、後ろからひょっこり顔を出されて、びっくりして声を上げた。

 視界の半分くらいが顔で埋まる程、近い距離。


「灰くん…!どうしたの…?」


 声を掛けてきたのは、灰くんだった。学校外で灰くんに会うのは珍しい。

 …というより、一度も無かったと思う。そもそも、通学路でわたし達が会う理由が無い。


「家、反対方向だよね?態々(わざわざ)こっちに来るなんて、何かあった…?」


「ああ、お前に用があって。」


「わたしに…?」


 なんだろう。家と反対方向に来てまでの用事なんて、よっぽどのことな気がする。

 これは、心して聞かなきゃ…!


「白羽…この後、時間あるか?」


「うん、あるよ。」


 どうやら、時間の掛かることをするみたい。天宮さん達に心配かけないように、遅くなり過ぎなければ全然大丈夫だと思うけど、一体何をするんだろう?


「…なら、ちょっと俺と何か食いにでも行かないか?」


「…?わたしはいいけど、用事ってそれだけ?」


「ああ、それだけだ。」


 態々(わざわざ)、放課後に時間を掛けてしたいことが、わたしとの食事だけ…。わたしは勿論嬉しいけど、灰くんは本当にいいのかな…?


「一応、いくつか候補は考えてきたんだが、お前が食べたい物があればそっちを優先しようと思ってる。何かあるか?」


「カツ、好きだよ。」


 灰くんの真意は汲み取れてないけど、折角誘ってくれたんだからちゃんと応えよう。そう思って、灰くんの質問に素直な返事をした。けど、灰くんは少し困惑した様子。


「この時間にカツって、夕飯は大丈夫なのか…?」


「大丈夫だよ?」


「大丈夫なのか…。」


 わたしの答えを聞いて、灰くんは少し悩んだ後、


「……メンチカツを一つずつ、でいいか?」


 そう提案してきた。



   ―――――――――――――――――



「はい、お前の分。」


 カツ屋さんの前で待っていたわたしに、灰くんが買ってきてくれたカツを差し出す。


「ありがとう…!いくらだった?」


 お礼を言って受け取った後、お財布を出して値段を聞く。そんなわたしを見ながら、灰くんは当たり前のことみたいに、


「いいよ。これは俺の奢りだ。俺の誘いに乗ってもらったんだから、そのお礼代だ。」


 そう言って、お金を払おうとしてるわたしを止めた。そんな風に考えられるのは、灰くんの良いところだと思うけど、やっぱりちゃんと払わせてほしい。


「お礼なんていいよ。灰くんとお話しできて、わたしも嬉しいから…!」


「――。」


 わたしの言葉に、灰くんは少し驚いたような表情(カオ)をした。

 …どうしてだろう?おかしなことは言ってない筈だけど…。


「…白羽は、良いやつだよな。」


「…?ありがとう…?」


 特に何もしてないのに、突然、褒められちゃった。よく分からないけど、灰くんも凄く良い人だと思う。

 こうやって誘ってくれて奢ろうとしてくれた上に、相手のことを褒めるなんて。灰くんは素敵な人。


「あっ、でもお金はちゃんと払うからね。お礼代は無し!自分の分は自分で払います…!」


 突然褒められて流されそうになっちゃったけど、これは大事なことだから、改めてちゃんと言っておく。


「お前、割と頑固なときあるよな。……仕方ない、今回は受け取ろう。カッコつけるのはまたの機会に、だな…。」


「?」


 灰くんは十分、格好良い人だと思う。そこは、気にしなくて良いと思うけど。


 …今日はなんだか、灰くんの真意が掴めない。去年、同じクラスで過ごした分の経験を、わたしが活かしきれてないのかもしれない。もっと、頑張らなきゃ…!


 と、そんな風に気合いを入れ直していたところで、


「あれ?セカイと白羽じゃん。おーっす!」


 少し遠くから声を掛けられた。


「あ、若山くん。こんにちは。」


「おう、こんにちは!」


 声の主は、去年同じクラスだった若山くん。フレンドリーだけど、一人で行動してることも多くて、広く浅くな交友関係を築いてる男の子。何かに縛られるのが苦手だから一人の時間が結構好きだけど、いざ集団で行動するってなったら皆で楽しくやろうとするから、周りの人から愛されてる。

 本人曰く、『協調性がある割にぼっち』と誤解されやすいけど、実際は順番が逆で『一人が好きな割にまあまあ周りと上手くやれてる』タイプだから、そこは間違えないでほしい、むしろ褒めてほしい、とのこと。


「てか、放課後に二人っきりって、もしかしてデートだったりする?俺を置いて彼女持ちになっちまったのか、セカイ…!?」


「なってねぇよ。あと、その渾名(あだな)やめろって言ったろ。」


 若山くんは、灰くんのことを『セカイ』って呼んでる。『アヤセ カイ』から『アヤ』を取ったら『セカイ』になることに気付いて、そう呼び始めたみたい。


「えー、何でだよ。良いじゃん『セカイ』!カッコいいだろ?」


 気に入ってる呼び方を本人に拒否されて、不満そうな若山くん。それに対して、灰くんは真剣に、


「荷が重いだろ。セカイなんて名前を背負える程、上等な人間じゃない。」


 そう言って答えた。

それを聞いて若山くんは、数秒固まってから豪快に笑い出した。


「うっはははははははははははは!!!おっまえ、そんな理由で嫌がってたのかよ!真面目に考え過ぎだろ!ははははは!!」


「……。」


 真剣な答えを笑い飛ばされて、不服そうにする灰くん。若山くんはひとしきり笑い終わってから、灰くんの肩を叩きながら話し始めた。


「いや悪い、そんな顔すんなって。良いと思うぜ、お前らしくて。」


「別に、大して気にしてねえよ。こんなので怒る程、器が小せえつもりもねえ。それはそれとして、セカイ呼びはやめろ。」


「気に入ってんだけどなぁ。まあ、この話は後で決着をつけよう。あんまり邪魔しちゃ悪いもんな。俺は、このあたりでお(いとま)しよう!」


 じゃあな!と手を振りながら去っていく若山くん。邪魔なんてことはないと思うけど、なんだか気を遣ってくれたみたい。


「アイツ、結局デートだと思ってねぇか…?いや…そこまで馬鹿でもねぇか。俺個人に対して気を遣ったのかもな…。」


「?」


 食べ終わったメンチカツの袋を鞄に入れながら、灰くんの言葉の意味を考える。

 でも、やっぱり良く分からなかった。今日は、とことん冴えてないわたし。

 しょんぼり。


「……白羽、やっぱり急に誘うのは迷惑だったか?」


 しょんぼりしたわたしを見て、そんなことを聞いてくる灰くん。

 目の前でしょんぼりし始めたから、勘違いさせちゃったみたい。これは、とても申し訳ない。


「ううん…!ごめんね、ちょっと個人的な反省を…。灰くんが誘ってくれたのは、凄く嬉しいよ…!」


 誤解を解けるように、真っ直ぐ目を見て素直な気持ちを伝える。

 ちゃんと気持ちが伝わったみたいで、灰くんも納得してくれたような様子。


「なら、良かった。内容は知らねぇけど、反省も程々にしとけよ。お前に限った話じゃねぇけど、笑ってるのが一番だからな。」


「………あ。」


 その言葉を聞いて、気付いた。灰くんが今日、わたしを誘ってくれた理由。


「もしかして…元気付けようとしてくれた?」


「?何の話だ?」


「灰くん、今日わたしに元気がないと思って、態々(わざわざ)声を掛けてくれたのかなって。」


 お昼に瑠佳ちゃんの話を聞いてからは色々考えてて、元気の無さそうな表情(カオ)をしちゃってたのかも。灰くんはそんなわたしを見て、心配してくれたのかもしれない。

 そう思って質問してみたんだけど…どうやら当たってたみたい。


「まあ…それも理由の一つではあるけどな…。けど、大半は俺の個人的な事情だよ。前から一度、お前を誘ってみようと思ってたってだけだ。」


 だから、自分はそんなに良い人じゃない、って言いたげな感じで話す灰くん。

 でも、誘ってみようと思ってくれてたこと自体嬉しいから、灰くんが良い人っていうわたしの認識は変わらない。

 一年生の頃から、こんな風に気にかけてくれたことは何度もあった。だから、わたしと灰くんは仲良くなって、それから灰くんと雫ちゃんも仲良しになった。


「ありがとう、灰くん…!わたし、元気になったよっ…!」


 心遣いがとっても嬉しくて、自然と笑顔になってお礼を伝える。

 そんなわたしを見て、灰くんは、


「……お前、本当…………。」


「…?」


 不思議な反応をしてた。嫌がってる訳じゃなさそうだけど、言葉で表すのが難しい表情(カオ)をしながら、右手で口を押さえてる。

 折角、誘ってくれた理由が分かったのに、また分からないことが増えちゃった。改善するには、きっと日々の精進が必要。


 そんなやりとりをしていたところで、辺りに午後五時を知らせる音色が響く。


「あっ、もう五時だ…!そろそろ帰らないと、灰くん遅くなっちゃうでしょ?」


「まあ、そうだな。じゃあ今日はこの辺で、だな。付き合ってくれて、ありがとな。また来週、学校で。」


「うん…!わたしの方こそ、ありがとう…!またね、灰くん!」


 手を振って、灰くんと別れる。明日は土曜日だから、学校がお休み。次に会うのは、来週の月曜日になる。

 わたしは学校が好きだから(凄く珍しいみたいだけど)、お休みの日はちょっと寂しいけど、この十一年でお休みの日ならではの楽しみ方も色々教わった。


 灰くんに元気をもらったし、明日は外に出て体を動かすのも良いかも…!

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