一/五 仲良しな二人
翌日の朝。
今日は雫ちゃんじゃなくて、わたしが朝ご飯を作る日。なので、昨日より早く起きて台所に向かった。
「おはよう、緋乃。」
リビングには、既に雫ちゃんがいた。朝ご飯の当番であろうとなかろうと、雫ちゃんはわたしよりも早起き。
「おはよう、雫ちゃん。朝ご飯、すぐに作るね。今日は、野菜炒めだよ。」
朝の挨拶を交わして、料理に取り掛かる。朝のお料理も、もうお手のもの。雫ちゃん直伝の腕を振るって、素早く完成。テーブルに運んで椅子に座ったら、背筋を伸ばして手を合わせる。
「「いただきます。」」
食べ物への感謝の意を告げて、しっかり味わいながら、今日の料理の出来を確かめる。うん、我ながら、本日も上出来…!
「そういえば。昨日、生徒会に行く前に、瑠佳と話したんだけど。」
ご飯の美味しさに満足してたところに、雫ちゃんが話をしてきた。ご飯の時間、最初はお互い黙々と食べ進めるけど、いつも途中でどっちかが話し始める。上手く言えないけど、その感じはなんとなく好き。
「瑠佳ちゃんと?生徒会の時間は、大丈夫だったの?」
「大丈夫じゃないわ。まあ、会長と瑠佳が姉妹だったみたいで、なんかお咎めなしだったけど。」
なんと。瑠佳ちゃんが生徒会長さんの妹だったとは。
びっくり。
「でも、態々そんなタイミングで話すなんて、よっぽど急な用事だったの?」
「いいえ、大した事じゃなかったわ。私達と絢瀬の三人が、いつから知り合いなのかって話と、小・中学校のときの思い出話よ。」
それは確かに、急な用事ではないみたい。焦らなくても今日も学校で会えるし、後でも良かったかも知れないけど…。
「どうして瑠佳ちゃんは、そのとき話したかったんだろう?」
「深い理由はないと思うわ。あの手のタイプは、出来たばかりの友達と話したかっただけじゃない?」
「…成程。瑠佳ちゃん、人と話すの大好き!って感じがするもんね。」
昨日、話したときもずっと、にこにこ笑顔で楽しそうだった。折角、出来た友達と、たくさん話したい気持ちは凄く分かる。
「ね、小・中学校の思い出ってどんなことを話したの?」
その頃の話なら、わたしに関係のある話もしてたかも知れない。どんな話をしたのか、気になる。
「…そっちは、またあとで。今、話したいのはそっちじゃないから。」
断られちゃった…。話したいのがこっちじゃないと言うことは、今したいのは、わたしと雫ちゃんと灰くんの話?
「私が絢瀬をどう思ってるかが引っ掛かってたみたいなんだけど、緋乃、何か知らない?特別、不思議に思われるような態度をとった覚えはないんだけど。」
「ああ、それなら昨日、瑠佳ちゃんに『二人って仲良し?』って聞かれたよ。」
二回も聞かれたから、どうしてかは分からないけど、瑠佳ちゃんは、二人の関係が結構気になってるのかも。
不思議。
「そんなの聞かなくても、見れば分かるでしょうに。……ちなみに、アンタ、それなんて答えたの?」
「二人は仲良しだよ、って言ったよ。」
瑠佳ちゃんに聞かれたとき同様、雫ちゃんの問いかけに、胸を張って答える。それこそ、聞かなくても分かる話。わたしが変なことを言っちゃってないか、確認の為の質問だと思うけど、雫ちゃんも心配性なんだから。流石にわたしも、二人の仲が分からないほど節穴じゃいたたたたた。
「どうひひゃの、ひじゅくちゃ…!ほっへひゃ、ひっぴゃって…。」
「緋乃、アンタ昔から私のこと、大体の奴と仲良しだと思ってる節あるわよね…!吾郎さんだの、絢瀬だのも…!」
思ってる節もなにも、実際に雫ちゃんは沢山の人と仲良し。優しくてカッコよくて器も大きいから、色んな人と仲良くなれる。
それこそ小・中学校の頃も、クラスの皆と仲が良いのは勿論のこと、他のクラスや学年が違う人とも仲良しだった。何も間違ったことはない筈だけどいたた。
「全く…。賢いくせに、そこだけは学ばないんだから。」
「学んでるよ?だって、雫ちゃんが最初に言ったから。『本気で怒ったら、グーで殴る』って。わたし、ちゃんと覚えてるよ?」
「…………。」
雫ちゃんと初めて出会った、大切な日に聞いた言葉。ずっと忘れずに覚えてる。
だからこそ、ほっぺたを引っ張られただけの今は、本気で怒ってる訳じゃないって分かってる。吾郎さんのことも、灰くんのことも、嫌いじゃないんだって思える。
「……余計なこと言ったかしら、ホント…。」
片手で口元を覆いながら、何かを呟く雫ちゃん。かなり小さな声だったから、わたしには良く聞こえなかった。
「はぁ…。まあいいわ、そう言うことなら私自身の責任だもの。瑠佳の認識については、私が自分でどうにかすべき話ね。」
自分の中でちゃんと納得がいったみたいで、瑠佳ちゃんの件が腑に落ちた様子の雫ちゃん。瑠佳ちゃんの認識を変える必要はないと思うけど、スッキリしたなら良かった。
「ごちそうさま。それじゃ、学校に行く準備しましょうか。」
丁度良くご飯を食べ終わり、食器をもって立ち上がる雫ちゃん。わたしも食べ終わったので、雫ちゃんに続いてごちそうさまを言って、食器の片付けに取り掛かる。
そこからの流れはいつも通り。歯を磨いて、髪を整えて、最後に、佐堂さんの遺影に挨拶をしてから出発。そして、通学路で吾郎さんに遭遇する。
「よーう、ガキ共!おはよう!」
「吾郎さん、おはよう。」
「はいはい、おはよう吾郎さん。」
昨日と同じように挨拶を交わして、少し話してから別れる。いつも通りの日常風景。
「ふふっ…。」
「ちょっと。吾郎さんと話した直後に、そんな綺麗な笑い方するのやめなさい。そんなレベルであの人を気に入るのは、マズいわ。」
突然笑ったわたしを見て、怪訝そうな表情の雫ちゃん。どうやら、吾郎さんと話したことで笑ったんだと思ったみたい。
「吾郎さんは面白いけど、今のはそうじゃなくて。やっぱり雫ちゃん、吾郎さんのこと嫌いじゃないんだなって思って。」
今朝、仲良しじゃないなんて言ってたばかりなのに、吾郎さんにちゃんと挨拶を返してた。
本当に嫌なことは、きちんと線を引くみたいに自分の領域に踏み入らせないようにするから、それだけで雫ちゃんが相手をどう思ってるか分かる。
「〜〜っ…!ホントにちゃんと怒るわよ、緋乃…!」
「ひひゃい。」
そう言いつつも、やっぱりほっぺたを軽く引っ張るだけに留めるあたり、雫ちゃんは、結構分かりやすくて可愛い。




