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緋の暁光《あけのぎょうこう》  作者: KY
一章 ごく普通の日々
12/13

一/三 おしゃべり親睦会

「ね、二人は勉強できるタイプ?」


 新学期初日のお昼休み。

新しい友達と親睦を深めるためのおしゃべりは、瑠佳ちゃんのそんな一言から。


「雫ちゃんはできそう感が凄い。雰囲気が優秀な人間のそれって感じ。」


「人を見た目で判断しない方がいいわよ。まあ、私は勉強できるけど。」


 ほら、やっぱり!と予想が当たって、楽しそうにする瑠佳ちゃん。

 雫ちゃんの学力は、テストでいつも全教科九十点台を取ってるくらいの高さ。総合成績、学年二位を保ち続けてる。


「でも、私より緋乃の方が凄いわよ。」


「えっ、そうなの?」


「小学二年の秋頃あたりから、ずっと全教科満点だもの。緋乃より勉強できる奴はいないわ。」


「すっっっっっっっっっご!?嘘でしょ!?じゃあ、勉強苦手なの私だけ!?お願い、見捨てないでぇ〜!仲良くして〜〜!!」


 手をわたわたさせながら、懇願してくる瑠佳ちゃん。でも、仲良くしたいのはわたしも一緒だから、安心してほしい。


「大丈夫だよ、瑠佳ちゃん。わたし、瑠佳ちゃんのこと好きだから、見捨てないよ。」


「緋乃ちゃん…!ありがとう…私、楽しくやっていけそう!」


「私達が見捨てても楽しくやっていけるでしょ、瑠佳は。ちなみに、私は見捨てるわよ。成績悪いままなら。」


「ええ〜〜!?」


 バッサリとした雫ちゃんの言葉に、瑠佳ちゃんが悲しげな目線を向けるも、雫ちゃんの態度は揺らがない。

 雫ちゃんは、言うべきことはちゃんと言うし、それを途中で曲げることも絶対しない。そうすることが、相手の為にも自分の為にもなるから。雫ちゃんの厳しいところであり、優しいところ。


「ぬぐぐ……でも実際、平均点ぐらいは取れた方がいいもんね〜…。頑張らないとか〜。」


 瑠佳ちゃんも、雫ちゃんが意地悪で言ってるわけじゃないってわかってくれてる感じがする。うん、やっぱり瑠佳ちゃんはいい人。


「でも、全教科満点は凄すぎだよね。何か秘訣とかあるの…?」


 勉強の頑張り方を求めてか、そんな質問を投げかけられた。んー、秘訣…かぁ。


「…わたしは、昔からずっと色んなこと知りたいって思ってたから、勉強だけじゃなく『何かを知る』ことへのモチベーションが高くて。知りたいこと全部覚えていったら、自然と成績も上がっただけ…かな?」


「そっかぁ…。知識欲というか、世界への好奇心の差って感じかなぁ。私には真似できないや。」


「力になれなくてごめんね…。」


 十一年間、学校で色んな人と関わってきて気付いたこと。どうやら、大抵の人は色んなことを知りたいって気持ちがそんなにないみたい。

 人生の時間は限られてるから、態々(わざわざ)覚えておく物は自分の関心が強い物に絞って、それに没頭するのが好きな人も多いんだとか。

 その感覚に寄り添うのは、わたしにはまだ難しい。なので、興味・関心が持てないという悩みに、良いアドバイスをしてあげることが出来ない。もっと、皆の力になりたいと思うのに…。


「緋乃ちゃんが謝ることじゃないよ。そもそも、私がもっとちゃんとした人間になるべき!って話だから。」


 そう言って笑いかけてくれる瑠佳ちゃん。優しい。


「なんだ、分かってるじゃない。その通りだからちゃんと勉強しなさい、見捨てられないように。」


「うん、やるやる!……でも、そんなにすぐに結果は出ないと思うから、ある程度長い目で見てもらえると良いな〜って…。」


 雫ちゃんのかけた発破に元気よく返事をしたのも(つか)の間、出会ってから一番か細い声で慈悲を()う瑠佳ちゃん。


「長い目で見たらどうせやらないでしょ。ちゃんと教えてあげるから、そんな目してないで覚悟決めなさい。」


「うぅ…雫ちゃん、鬼…。」


「それはそうかも。」


 怖い顔で見てくる雫ちゃんから目を逸らす。…でも、こういうときの雫ちゃんは実際、容赦ないと思うよ?

 まあ、それはそれとして、


「大丈夫、瑠佳ちゃん。雫ちゃんは教えるの上手。だから、安心して。」


 実際に、勉強や色んなことを教えてもらったわたしだから、自信を持って保証できる。

 それに、雫ちゃんは面倒見も凄くいい。天宮家に来たばかりの頃、電子レンジ爆発事件を引き起こしてしまって落ち込んでいたわたしを慰めて、一人で料理が出来るようになるまで教えてくれたくらいに。


「おお…なんだか、説得力を感じる眼差し…!わかった、私、負けないよ!」


「何と戦うのよ。」


 良かった。瑠佳ちゃんに気合いが入ったみたい。少しは、力になれたかな。


「会って初日で、随分賑わってるな。」


「あ、灰くん。」


 わたし達の話し声を聞いて、灰くんが近くにやってきた。さっきまで教室には居なかったから、お昼ご飯は別の場所で食べてきたのかも。一年生のときも、校庭とか屋上(無断侵入)とかで食べてたみたいだし。


「あ、ねえねえ灰くん!灰くんは勉強、どのぐらい出来る?この二人が凄すぎて、味方募集中なんだけど!」


 新しい来訪者を、期待の眼差しで迎え入れようとする瑠佳ちゃん。さっき気合いを入れたものの、やっぱりまだ同士を求めているみたい。


「また唐突だな。…平均より、少し下ぐらいだな。正直、勉強は最低限の努力で済ませてる。」


「おお…!私よりはマシだけど、低めだぁ…!いいねいいね!肩組もう、灰くん!」


「組むなよ。女子が軽率に、男子に体を近づけない方が良い。」


「え?あっ、違う違う!ほんとに肩組むわけじゃなくて、気持ち的にね?……もしかして、灰くんって面白い子?」


 灰くんの反応が意外だったみたいで、瑠佳ちゃんがわたしにそっと質問してくる。


「うん、灰くんは面白いよ。でも、今のは伝わってなかったっていうより、肩組もうって言いながら瑠佳ちゃんが近づいたから、一応釘を刺しておいた感じじゃないかな?」


「ほえ、そうなの?」


 灰くんは、なんというか、人と真面目に向き合いすぎるところがある。だから、今のも意図が伝わってなかったわけじゃなくて、色々、気遣った結果の返しなのかなと思った。


「ああ、そういうつもりで言った。軽い女だと思ったわけじゃないが、お前が思ってるより手前で止まらないと、年頃の男子にはダメージが大きい可能性もあるからな。」


 わたしの言葉に同意して、補足を付け足す灰くん。(おおむ)ね、わたしの思った通りの考えだったみたい。

 ちゃんと汲み取れてたみたいで良かった。去年一年間の交流の成果…!


「なるほど、そういうことでしたか…!これは失礼。以後、気を付けますっ!」


 納得して、敬礼をしながら元気よく返事をする瑠佳ちゃん。話してて思ったけど、瑠佳ちゃんはかなり素直な気がする。相手の言葉を、すぐに受け入れているような。


 と、そんな風に考えていたところで、お昼休み終了五分前の予鈴が鳴った。


「おっと!そろそろ、お開きの時間だ。名残惜しいけど、またあとで、だね!灰くんと雫ちゃんはまだ喋ってないけど、大丈夫?」


 予鈴を聞いて立ち上がりつつ、会話をしてない二人に話しておきたいことがないか確認する瑠佳ちゃん。

 それに対して、二人は、


「問題ないわ。」


「だろうな。俺も、特には。」


 と、短い返事をした。


「ドライだねぇ…。緋乃ちゃん、この二人、ほんとに仲良い?ツンデレとかには見えないけど…。」


 二人の様子を見て、朝のわたしの言葉を疑問に思ったらしい瑠佳ちゃん。もちろん、わたしの答えは決まってる。


「わたしもツンデレじゃないと思うけど、二人は仲良しだよ。」


 朝と同じように、自信を持ってそう言った。


「わかんないなぁ…私には…。」


 胸を張るわたしと、困惑気味の瑠佳ちゃん。この日の親睦会は、そんな感じでお開きとなった。

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