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緋の暁光《あけのぎょうこう》  作者: KY
一章 ごく普通の日々
11/12

一/二 わくわく新学期

 ぽかぽかの気持ちいい日差しを浴びながら、高校までの通学路を、雫ちゃんと一緒に歩く。天宮家から高校までは、徒歩で約三十分といったところ。

 自転車で通学してもいいけど、わたしは、のんびり歩いて登校するこの時間が、割と好き。雫ちゃんも、このぐらいの距離なら歩いた方が健康的でしょ、と言うので、満場一致(二人だけだけど)で歩いて登校することに決まった。


 ちなみに、小学校と中学校は、どっちも歩いて十分くらいの距離。途中の交差点で、曲がる方向が違うだけ。


「今度のクラスは、どんな人達がいるかな…!楽しみ。」


「どんな奴相手でも大抵楽しそうよね、緋乃は。私は、面倒なのがいなければそれでいいけど。」


「わたしと一緒じゃなくても?」


「『同じクラスだったらいいな』は前提でしょ。今更、言わなきゃ分からない?」


「言ってくれた方が嬉しいよ?」


 笑いながら、そんな話をして歩く。

と、そんなわたしたちに、声をかける人がいた。


「よーう、ガキ共!おはよう!!」


吾郎(ごろう)さん…!おはよう。」


「…おはよう。いい加減働いた方が良いわよ、吾郎(ごろう)さん。」


「おっ。お前さんからそのセリフが出るってこたぁ、新学期か!頑張れよ、若者共!」


「自分が頑張ってから言ってくれる?全然、響かないんだけど。」


 呆れた態度の雫ちゃんに負けずに、明るい調子を崩さない男性。

 この人の名前は、川島 吾郎(かわしま ごろう)さん。柄のないシンプルなデザインの半袖半ズボンを身につけて、陽気で快活な印象を放ちながら、毎日暇を持て余してる三十三歳の無職の男性。


「バカ言え!俺がこんなんだからこそ、頑張らねぇと俺みてぇになっちまう!って危機感を、学生諸君に与えられるってモンだろ!?」


「胸を張って言うことじゃないわよ。…実際、地元の学生には、多少効果は出てるでしょうけど。」


 吾郎さんは、町のちょっとした有名人。

吾郎さんのジョギングルートが、地元の学生の通学路と重なってるから、この辺りに住んでる学生は皆、吾郎さんを知ってる。高校のクラスメイトが地元の人かどうかは、吾郎さんを知ってるかどうかで判断できるくらい。


 吾郎さんは、わたしたちが小学生のときから、このくらいの時間にこの辺りを歩いてる。なんでも、油断すると外に出なくなってしまうから、朝のジョギングを日課にしているとのこと。


 健康面を気にする考えを持っているのに、働きはしないあたりに、吾郎さんらしさが表れている気がする。ところどころ、ちゃんとする部分がありつつも、基本的には駄目な人だと思われてる。

働かないことをお母さんに伝えたときに、

「俺は、自宅警備員になる!」と言ったら、

「へぇ。だったら、日中は家の前に立って怪しい奴がいないか見張り続けな。それも守れないなら殺すよ、穀潰しが。」と返されて、以来、ずっとその約束を守り続けてたりもするみたい。


「…まあいいわ。駄目な大人(ごろうさん)と話してても良い影響はないし、私がお説教する義理も時間もないから。行くわよ、緋乃。」


「あ、うん。」


「つれねぇなー。まあ、俺も母ちゃんが家出る前に戻らねぇといけねぇから、いいか!じゃあな、ガキ共!」


「うん。吾郎さんも頑張って。わたし、応援してる。」


「おう、サンキュー!……お、よーう、ガキ共!」


 別れの挨拶をして数秒後に、背後から元気な声が響く。振り返ると、わたしたちの後ろから歩いてきた子達に、吾郎さんが声をかけてた。


「ホント、無駄に元気よね。あの人。」


「うん。吾郎さんは、面白くて好き。」


「やめなさい。良くないわよ、あんなの。」


 わたしは吾郎さんのこと気に入ってるけど、雫ちゃんからの評価は悪い。でも多分、雫ちゃんも吾郎さんのこと、言うほど嫌いじゃないと思う。



   ―――――――――――――――――



 学校に着いた。下駄箱の近くに貼り出されたクラス分けの紙を見て、自分のクラスを確認する。


「えっと…わたしのクラスは…。」


 見つけた。二年一組の欄に『白羽(しらはね) 緋乃』と書いてある。

 白羽(しらはね)という名前は、苗字が無いのをどうしよう?という話になったときに、つけた。佐堂さんや天宮家の皆は大切な人だけど、家族じゃないから、その苗字を貰うわけにはいかないと思って、色んな名前を調べて直感で気に入ったモノを選んだ。


 同じクラスの欄に、雫ちゃんの名前もあった。今年も同じクラスみたい。嬉しい。


「お、私達、同じクラスね。じゃ、行きましょうか。」


「うん…!」


 雫ちゃんと一緒に教室に移動して、扉の前から中を見てみる。

 時刻は、午前八時二十二分。まだ全員ではないけど、教室には、それなりの人数が集まってた。

 早速、中に入ろうとしたところで、


「…お?」


「!」


 一人の女の子と目が合った。


 女の子は、たたっ!と弾むような足取りで、わたし達の目の前までやってきた。


「おはよう!初めましての子達だよね?私、倉科(くらしな) 瑠佳(るか)。これから一年、よろしく!」


 これまた弾むような声色で、挨拶をしてくれた。

声や仕草と同じで、見た目からも、弾むような明るい印象を与える雰囲気を(まと)う女の子。

 身長は多分、百六十五センチ前後。スラっとしていて、且つ、少し筋肉の付いた健康的な肉体。髪型は、頭の後ろで高めに結んだポニーテールにしている。解いたら、肩より少し下くらいの長さだと思う。


「初めまして、瑠佳(るか)ちゃん。わたしは、白羽(しらはね) 緋乃。よろしくね…!」


 挨拶を返して、手を差し出す。それを見て、瑠佳(るか)ちゃんはすぐに、差し出したわたしの手を握って握手をしてくれた。


「うんっ!よろしく、緋乃ちゃん!よし、次!あなたは!?」


 わたしの挨拶に、元気に返してくれた勢いのまま、今度は、雫ちゃんの方を見る。


「勢い、凄いわね…。天宮 雫よ、よろしく。」


 雫ちゃんは、いつもの調子のまま挨拶を返す。どんな人が相手でも、自分を崩さないのが雫ちゃんの良いところ。そんな雫ちゃんに対して、瑠佳(るか)ちゃんは、


「うん、よろしく!…でも、雫ちゃんは私の名前、呼んでくれないの?」


 わたしみたいに、名前を呼んでくれなかったことが寂しい、とアピールしてる。これが、瑠佳(るか)ちゃん流の仲良くなる方法なのかも。


「はいはい、よろしく瑠佳(るか)。」


「雑!?……でも、ちゃんと名前を呼んでくれたから、良しとしてあげましょう!」


 流すような言い方をしつつも、ちゃんと名前を呼んであげる雫ちゃんと、それに少し驚きつつも、笑顔で受け止める瑠佳(るか)ちゃん。

 うん、二人共、仲良しになれそう。


 と、二人のやり取りを楽しく見てたわたしに、背後から声がかかる。


「中、入ってもいいか?」


「あ、ごめんなさい…!」 


 わたしは、慌てて横にずれる。教室のドアの前で話し込んじゃったから、邪魔になってたみたい…。

 反省。


 怒ってないかな?と思って、声をかけてきた人の顔を見る。すると、


「あっ…!(かい)くん。」


「ああ。おはよう、白羽(しらはね)。」


 その人は、一年生のときも同じクラスだった男の子だった。

絢瀬(あやせ) (かい)くん。身長、百七十九センチ。体重、六十三キロ。部活はやってないけど、ちゃんと筋肉があって、運動神経はとてもいい。物静かってわけじゃないけど、はしゃいでるところを見る機会は、あんまりない。

 そんな(かい)くんと、わたしと雫ちゃんはお友達。去年、ちょこちょこお話しして仲良くなった。


「今年も同じクラスだね。よろしくね、(かい)くん…!」


「よろしく、白羽(しらはね)。天宮も。」


 わたしと雫ちゃんに挨拶しながら、教室に入っていく(かい)くん。それを横目で見ながら、雫ちゃんも挨拶を返す。


「よろしく。…絢瀬(あやせ)は、まあ、ギリ許容範囲ね。」


「何の話だ?」


「面倒臭い奴とは、同じクラスになりたくないって話よ。」


「……喜べねぇなぁ…。ギリって言われる程、面倒臭いか?俺。」


「案外ね。多くはないけど、たまに厄介事を持ってくるもの。」


 会って早々に、会話を弾ませる雫ちゃんと(かい)くん。

その様子を見てた瑠佳(るか)ちゃんが、


「むむ…、もしや二人は、犬猿の仲というやつ?」


 と、わたしに聞いてきた。二人の仲についてなら、自信を持ってすぐに答えられる。


「見ての通り、仲良しだよ。」


 一年生のときから、ずっとそう。

二人は仲良し。二人とわたしも仲良し。嬉しい。


「…成程。緋乃ちゃんは、これを仲良しと捉えるのかぁ…。」


「?」


 わたしの返事を聞いて、少し悩むような素振りを見せる瑠佳(るか)ちゃん。もしかして、なにか間違った返事をしちゃったのかな…。

 人との会話にも慣れてきたつもりだったけど、まだまだ勉強不足かも。頑張らなきゃ…!


「ところで、そろそろ始業時刻だぜ?席に着いといた方がいいんじゃないか?」


「…!」


 (かい)くんの指摘を受けて、時計を見る。時刻は、八時二十八分になっていた。

 (かい)くんと話しつつ、いつの間にか席に着いていた雫ちゃんを見ながら、わたしと瑠佳(るか)ちゃんは、慌てて自分の席に向かう。


「おっと!じゃあ、緋乃ちゃん、雫ちゃん、また後で喋ろ!!…あ!あと、(かい)くん!私、倉科(くらしな)瑠佳(るか)!よろしく!!」


 詰め込むように急いで喋りながら、席に着く瑠佳(るか)ちゃん。


「またね、瑠佳(るか)ちゃん。ありがとう、(かい)くん…!」


 わたしも瑠佳(るか)ちゃんに返事をして、(かい)くんに指摘してくれたことのお礼を言って、席に着く。


 新学期の始まりは、そんな、慌ただしくて楽しい一幕だった。

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