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緋の暁光《あけのぎょうこう》  作者: KY
一章 ごく普通の日々
10/12

一/一 幕開け

 暖かくて優しい日差しが、カーテン越しに差し込んでる。

一日の始まりを彩る光に照らされて、意識が少しづつ覚醒する。


「緋乃、朝よ。起きなさい。」


 目覚めかけの脳に、この家専用の目覚ましの(おと)が響く。

優しくて、だからこその厳しさもある(おと)

その(おと)は凄く好きだけど、まだ意識が目覚めきってないときに聞くと、少し頭が痛くなるから不思議。


「ん…。もうちょっと…待って……。」


 今日は丁度良い暖かさで、もう少しこの気持ちよさに浸ってたい。そう思って、起き上がるのを渋るわたし。


「なに、学校嫌いの奴みたいなこと言ってんのよ。むしろ、学校好きでしょうに。遅刻するわよ。」


 無情にも、わたしのお願いは却下された。とはいえ、言ってることはごもっとも。

 わたしとしても、学校にはちゃんと行きたい。


「…わかった、起きる。おはよう…雫ちゃん。」


 頑張って体を起こして、(おと)の主である雫ちゃんに朝の挨拶をする。


「はい、おはよう。じゃ、下で待ってるから早く来なさい。」


「うん…。」


 わたしが起きたのを確認したら、すぐに下に降りていった。

 雫ちゃんは、朝から活発に動けるタイプ。さっき、わたしを起こした時点で、既に着替えも終わってた。


 わたしも、すぐに着替えよう。

服を着るのも慣れたもの。パパッと着替えて、一階のリビングへ。



   ―――――――――――――――――



 ――――あれから、十一年。

わたしと雫ちゃんは十七歳になって、今は高校二年生。


 あの日、佐堂さんが死んじゃって、わたしが意識を失った後、天宮さんが現場に来て、わたしを拾ってくれたみたい。


 そして、わたしを天宮家に置いた後、佐堂さんの遺体をちゃんと埋葬してくれたって聞いた。話を聞いた直後はやっぱり悲しかったけど、天宮さんが佐堂さんの為に夜中でも頑張ってくれたことと、わたしを拾ってくれたことは嬉しかった。


 佐堂さんには、血の繋がった家族がもういなかったらしくて、それなら、遺品はわたしにって天宮さんが預けてくれた。おかげで、わたしの手元に、佐堂さんの形見が残った。


 それからわたしは、天宮家に住ませてもらえることになった。

 それだけでも凄くありがたいことだったけど、天宮さん達は、平日の日中にわたしが一人ぼっちになっちゃうことを気にしてくれた。

 わたしは『大丈夫だよ』って言ったけど、『寂しい思いをさせたくない』って天宮さんが言ってくれて。でも、仕事はしなくちゃだからどうしようって悩んでた天宮さんに、雫ちゃんが『学校に入学させればいい。私が面倒を見るから』って言った。


 それで、わたしは雫ちゃんと一緒に小学校に通うことになった。たくさん迷惑をかけちゃうかもって心配だったけど、雫ちゃんは『全然平気』って言いながら、困ったときは助けてくれた。

 なんで、そんなに簡単そうに助けてくれるの?って聞いたら、


「だって、簡単だもの。周りのフォローとか、いつもしてるし。今更、一人増えたくらい、大したことじゃないわ。」


 とのこと。それを聞いて、やっぱり雫ちゃんは凄いって再認識した。

 …今思えば、当時のわたしは、他のクラスメイトの子より何倍も手のかかる子だった筈だから、いくら雫ちゃんでも、きっと本当は大変だったと思うけど、わたしを安心させる為に澄まし顔でいてくれたんだと思う。


 改めて、本当に凄い人。

寂しがり屋で世間知らずのわたしの手を引いて、一緒に歩いてきてくれた、大切な友達。


 そんな雫ちゃんのおかげで、わたしは楽しく学校に通うことが出来た。

色んな人との交流も、たくさんのことを学べる授業も、凄く楽しくて。今は、無事に、高校二年生の春を迎えてる。



   ―――――――――――――――――



「いただきます。」


「はい、召し上がれ。」


 現在、時刻は午前七時十六分。

わたしたちの通う東新布(とうしんふ)高校の始業時刻は、八時半。天宮家からは少し距離があるので、八時前には家を出る必要がある。

 雫ちゃんは、余裕を持っていつも六時半に起きる。わたしは大体、七時頃に起きて少し急ぎめに準備をする。でも、別に困ったりはしてない。

 いつも、家を出る頃にはちゃんと準備が終わって、遅刻したことは一度もないから。


 とはいえ、わたしも早く起きるときはある。朝ご飯が、わたしと雫ちゃんの当番制だから、当番の日は早めに起きなきゃ。

 今日の当番は雫ちゃん。雫ちゃんは比較的、和食を作るのが得意なので、今日のメニューも和食となっている。


「雫ちゃん、今もその量で足りるの?」


 テーブルの上に用意された、わたしと雫ちゃんのご飯の量を見比べて、疑問を投げかける。雫ちゃんの分は、わたしの分の半分以下。

 小さい頃から、いつもそのくらいの差がある。


「足りるわよ。何度も言うけど、私の方が平均的な量だから。ほんっとよく食べるわよね、アンタ。」


「そうかな?」


「そうよ。なのに、ずっと細いし。お腹にも胸にも行ってないなら、食べた分のエネルギーはどこに行ってんの?って話でしょ。」


 確かに、体に取り入れたエネルギーは血や肉になる、というのが自然。

 ただ、それはあくまで、普通の生き物の話。


「もしかしたら、本当に、どこかに行っちゃったのかも?」


 わたしは、普通の生き物じゃない。

自分が何者なのか、まだ、ちゃんとわかったわけじゃないけど、これだけは確かだって、十一年前から知ってる。


「まあ、緋乃の場合、それも絶対にないとは言い切れないでしょうけど…。」


 わたしの意図を察して、返答する雫ちゃん。

雫ちゃんは、というか天宮家の人は、わたしが人じゃないことを知ってる。


 天宮さんは、最初に佐堂さんとわたしがここに来たときに、佐堂さんの言葉から察していたみたい。

 そして、わたしをこの家で預かると決めたときに、奥さんである凪葉(なぎは)さんには伝えておいたそう。


 雫ちゃんには、わたしが自分で話した。どう思われるか分からなかったけど、自分が何者なのかを知る為には、これは誤魔化しちゃいけないと思ったから。

 雫ちゃんは、


「だから、知らないことが多かったのね。じゃあ、私がちゃんと教えてあげる。しっかり聞きなさいよ?」


 と言って、あっさり受け入れてくれて、逆にわたしがびっくりした。

 あまりにも簡単に受け入れてくれたから、もしかして、普通に人に言っても大丈夫なのかな?と思ったけど、『やめときなさい』って止められて、ちょっと困惑したりした。


 ――そんなこんなで、他愛のない会話をしながらご飯を食べて、時刻は七時三十七分。


「ごちそうさまでした。」


「ごちそうさま。本日もいつも通り、量に差があるのに食べ終わるタイミングは同じ、と。」


 少し呆れたように、雫ちゃんは言う。そう言われても、普通に食べてるだけだから、どうしようもない。


 食器を片付けて、歯を磨いて、髪を整えたら準備完了。

すぐに出発出来る状態になったところで、最後に、


「行ってきます。佐堂さん。」


 天宮さんが用意してくれた佐堂さんの遺影に、挨拶をする。そこに佐堂さんがいるわけじゃないけど、きっと佐堂さんの魂は、本人が言ってた通り、世界を動かす力になって今も生き続けてる。

 だから、わたしの想いもちゃんと届いてるって信じる。信じて、一生懸命考えながら、わたしは生きる。


「……よし…!」


 鞄を持って、玄関へ。

あの日々に受け取った想いを、胸に抱いて歩き出す。


 今日から新学期。高校二年生の日々が、始まる。

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