5話 森への誘い
例のうるさいテレパスが無茶振りしてきた。
『――聞こえますかあ?』
「……ああ」
脳に直接話しかけてきておいて聞こえる聞こえないはないんじゃないかと思いつつ、饗庭は投げ槍に応える。毎度耳、いや頭が痛い。
『恐らくモノは強くないんですがねえ? 何やら 「領海」を持っているようでしてえ、かなり広いんですよぉ』
「語尾がムカつく。普通に話してくれ」
嫌みったらしく言うと向こうも嫌みったらしく返す。いつもこんなだなと思いつつ。
『そう言われましてもまだ幼いものでえ。領海は何かしらの病と推定されますがあ、範囲がおおよそ半径20キロ前後なんですう。上が押しつk……この程度の海魔に特等はもちろん一等が出るほどではないということでよろしくお願いしまあす』
「レベルは?」
「概算値3ー。お似合いではあ?」
その声にムッとするが、言葉に苛立ったのではない。『聞こえ方』が変わった。
「わざわざ何しに来た」
「嫌ですねぇ。パス役がどこにいるかを教えに来たんじゃないですかあ」
ピンクのショートにだぶだぶの白衣、紅色の眼鏡の奥には黄色の瞳。青いワイシャツに白の短パン。
はっきり言って見覚えしかない。何度見たことか。昔からこの姿だな。
「綷賀通吏」
「おやあ? 嫌うわりには覚えてくれたんですかあ」
「で? パス役って? 何? どこ? 誰?」
不満を面に出す少年に相変わらずにこにこと笑みを浮かべる綷賀。どことなく見た目に相応しくない態度に一つ気づく。
「また換えたのか」
「そういえば君は知ってるんだっけえ? いやあ、あの法規がよく出るやつで助かってるよぉ」
一部にしか分からない会話。この意味を知らないものには、綷賀は成長しない子供に見える。実際の年齢は饗庭も知らない。
「おっとお。誰かに聞かれるのはお望みじゃないのでえ、このくらいにしといてくださいねえ?」
「わざわざ直接伝達に来る必要あるか? いつもみたいにテレパスすればいいだろ」
「君は少し感情を押さえたらどうですかあ? 見知った顔にはいつも『気だるげ』か『イライラ』じゃないですかあ」
「……長い」
正直、確かに綷賀の発言は概ね正しい。仕事以外の初対面にも基本敵意を隠さないのと、一部には普通に接している点が違うが。
ネーレに対してはかなり良い方である。雑ではあるが普通に接するし、特に嫌なこともないので真顔でもなんでもなく普通の顔をして関わっている。
ちなみに鵜ノ崎より饗庭の方が料理がうまいので食事は饗庭の担当である。そこでもうだうだ言うネーレの注文も聞いたり。なんだかんだで饗庭も気に入っているのだった。
ともかく。
「会わないと説明できないってことですがあ。そんなことも分からないんですねえ」
「……なんで俺の回りには特殊なのしか来ないんだ」
「一応、褒め言葉として受け取っておきますう。まあ分からなくても仕方ないんですがあ。今回はネーレちゃんをつれていって欲しいんですう」
「は?」
意味が分からないと隠しもせずに顔に出す。正直ネーレはなんの役にも立たない気がする。あれだし。途中でバテて背負わされ、おまけにそのまま眠ってより重くなり、到着までにはへとへとになるような気がする。
あるいは勝手にどこかへ行き、はぐれ、捜索に手間がかかり、入れ違いで長い時間歩き続ける気がする。
要するに、迷惑しかかけないと思う。
(絶っっ対嫌だ……!)




