18話 死人は出た
――七月七日午後二時半頃
「……天井?」
「あー。やっぱ君は生きてたんだね! ふしぎ~」
「あ?」
「✕✕✕のこと忘れちゃった? ねえねえ。心配しましたよホントにさー迷惑なヤツだまったくー」
「……」
「なんとか言えし」
とりあえず、見覚えはあるが部屋の天井じゃない。それと寝かされていることも分かった。だが、
(コイツ誰?)
「睨んでもなんも出やせんよ? いや返事は返してるけどさあっはっはー。てか覚えてない感じ? いやそもそも君じゃないのかな? うーん分からんけどとにかくおしゃべりしよーぜ! 折角だし!」
……騒がしいヤツが現れた。
◆┃◆┃◆┃◆
――七月七日正午頃
「アタラナイコトヲ、イイカゲンワカレ」
「随分と自信があるようで。魔物が自信持ち始めるとか世も末だな」
睨みあい、いがみ合う。どちらが悪かなんて、誰もが言ってきたように立場次第だろう。海魔側からしたら、晶斗や寧はかなり悪人のように振る舞っているものだ。悪役から見たヒーローとも、チンピラから見た巡回中のお巡りさんとも、一夜漬けで挑んだテストとも別物である。
正直、晶斗が踏み込み切りかかるが、ひょいとすんででクリメーターは身をかわす。それを双方素早く繰り返すだけの時間がしばらく続いた。
しかし、相手の力量も読めない状態で、技を出すわけにはいかないのだ。躱されたら? 耐えられたら? 効く効かないの試験紙には丁度いいかもしれないが、ちょっとした技も組み合わせ次第で化ける。無駄打ちはしない。
ということで化学物質をひたすら燃焼させる大剣を振り回し剣捌きだけでどうにかしようとしている晶斗と、とりあえず避けに徹するクリメーターは千日手を繰り広げる。
「あらよっと」
時折寧が2つ着けているベルトの内、袈裟で掛けていない方、少し傾けて腰に着けている方のベルトに着いているホルスターのハンドガンを撃ったりもするが、ハンドガンは通らないらしい。ガキンガキンと跳ね返るだけだった。
「その背中のは?」
「悪いけど使えない」
そしてそれを首をだらしなく傾けて眺める雀。
(やっぱり、微妙だなぁ……。思ってたよりは「善き」だけどまだまだだな。アキくん……やっぱ面白いなこの呼び方……アキくんはどんな法規なのかな。法規抜きでは流石に厳しいけど)
「じーっ」
「それは声に出さなくていい」
「ケッ。つまんないの。あとまた上から来るよー」
そう、先程から定期的にクリメーター目掛けて光柱が降り注いでいるのだが、これが全く当たらず、しかもどこから誰が仕掛けているのかも定かではないという微妙な状況だった。
目標に当たり損ねた光柱は直進してそこかしこに激突し、あったものを抉り取っている。場合によっては当たりかねないので近づけず、その度距離を取らされる。クリメーターとの距離を詰めきれないのもそういった理由もあった。
「わーしも手伝いたいのはヤマヤマなんだけどさ。魔方陣みたいなのわーしにしか見えてないらしいじゃん。見過ごしたらアキくん吹っ飛んじゃうしさあ」
「分かってるって」
光柱の軌道やら発生位置、タイミングはこの場では雀、『白』にしか見えないらしい。これまた理屈は意味不明。
「私も零装組み立て終わったら手伝うからー!」
「そっちも分かってる」
相も変わらず千日手を繰り広げる饗庭に叶恵も私だって役に立てると主張する中、一人だけふわふわしていた。
「え? なに。そもそも『ボク』の『私』って帰り道のために呼ばれたんでしょ? なんか何もしなくてもどうにかなりそうだしいいかなーって、思ってたんだけど、ダメ?」
「……いやいいんだが。あーそうそう……」
バチッと一瞬火花が散った。
「アノナ、ナニモセズヨケツヅケルワケナイダロ」
「げっ」
「シツレイナ!」
何か分からないが、何かしたらしい。
――この辺りまでしか思い出せない。
◆┃◆┃◆┃◆
「とー。ここまでが君の覚えている範囲内とゆことでおけまる? おっけーかな? ダイジョブそーだね!」
「ぅるさい」
晶斗が状況の説明を要求すると、「ならば君から先に覚えてることを話してもらおうかな? 要求するからには要求されても文句言えないよねえ?」と色々聞き出されていた。
「で? ここはどこだ」
「話を急くなバカヤロー。モテナイゾ?」
「……」
「文句ゆーなよ」
「何も言ってない」
何がなんだかはっきりしないが、晶斗は現状長く話すことを望まれていることだけは理解した。
「しっかしねえ君がちょちょっと呑まれると思えないし何か思惑があるのかな? ああ楽しんでるだけかも知れないねだってこんな意地悪してっちゃうなんて酷いよなあそう思うだろ少年?」
「?」
「あひょっとして気づいてない? いやいやホントに意地が悪いねえなんなんだか。かわいそうだなしょーねん!」
先程から早口で捲し立ててなんなのだコイツは。といった感じのことを感じながら、肩をポンポンと叩かれてなんとも言えない気分になる晶斗。
「どういう意味だ……」
「いやいや、覚えてないってことが分かっててそこには行きつかないんだね」
「何が言いたい」
「仕方ないなーお姉さんが教えてあげるよお姉さん優しいからねええっへへ~感謝してよね驚愕の事実に恐れ慄いてよねー?」
「早くしろ」
「もー! まあいいや。君はさっき、正確に言うと一時間とちょーっと前に……」
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――七月七日午後四時頃
先程の意味不明な状況に理解が追いつかないまま廊下をとぼとぼと歩く。このくらいのことは慣れっこだったはず。そう自分に言い聞かせる。
ふと人影を見つける。先程まで一緒にいた人物だ。死んだはずの。
「へ? あ。え?」
「よっ」
「なんで生きてんの? 死んだはずじゃ……」
「それを俺に聞くな。さっき説明されて俺も意味不明だったんだ」
饗庭晶斗は、その日、七月七日午後一時半頃、死んだ。
一章終わりです。
ここまでお付き合いいただいたことにまず感謝したいと思います。
前座長いなと思った人も、急にバトル終わっててなんなんだ、
色々不明なこと多すぎないか、とお思いの方も
いらっしゃるかもしれませんが、
前座は前座ではなかったのです。本編です。
バトルの部分がストーリー進行のうえで失くなるのは
決まっていたことなのです。
不明な情報は少しずつハッキリさせていきますのでご容赦ください。
次回から新章です。
よろしくお願いします。




