17話 戦闘開始
ーーレベル3などと分類されているらしいが、稚拙ながら言語機能が備わってしまった個体をレベル3扱いでいいのか。
そもそも、海魔自体に知性はあったし、低能よりも遥かに高いと言えるのだが、まあ刺客は逃がしてばかりなので仕方ないのかもしれない。
分身を見つけただけだというのに、バカ真面目に観測している様子は面白かった。
分身を出せば出すほど全体の性能は落ちていくので、みすみす見逃す他はなかった。
しかし、今は違う。
先程から見られているのには気づいていたし、そもそも、ここまで来る途中にいた分身を全て消されたのだからもうそこにいるのは分からない方がおかしいのだが、仕掛けても仕掛けても消される。
当人達は気づいていないようだし、厄介でしかない。
さて。どうしたものか。
いずれ火葬屋と呼ばれる海魔は、座禅を組みつつ熟考する。
◆┃◆┃◆┃◆
「……どうしようかしら」
「声を出すのはおすすめしない、姉よ」
「……。いつの間に……」
「しーっ」
まあバレてはいるのだが、叶恵らは気づいていない。もちろん、時折背後にポッと出ては消えを繰り返す黒い影にも。
いつの間にか止めておいたはずなのに寧になっているネーレを見やり、木陰でコソコソ活動中。
「この状態もずっと持つとは限らないわよ、どうするの?」
「知るわけない」
「ていうか、木、減ってない?」
「マジで?」
『法規』としては、木が消えるのは当然なのだが、知る由もなく、効かない故にポンポン木は消える。そこそこ回りくどく複雑にした『法規』も結局意味をなさず。
クリメーターの『法規』自体は単純極まりない。見たものを燃やす。そして灰にする。
『灰帰病』は『領海』込みの複雑化した代物に過ぎないが、それでも工夫したものが全く通用しないというのは。
『灰帰病』にはパターンが二通り用意してあるのだが、どちらにしろ「同期」が必要なのだ。同期すら儘ならないのは手のつけようがない。
直接戦闘が今この瞬間においてはよい選択なのだろうが、上からずっと見られているし……
突如、蛇が降ってくる。大きな大きな白い蛇。ソレは口を開けまっすぐ落下した。丸呑みにせんばかりの勢いで。
「うおっ」
「わっ」
風が吹き荒れる。落ち葉が舞う。叶恵達は慌てて屈み身を縮めた。
様子をうかがうと、避けたらしき件の海魔が立っているだけ。蛇はいない。
「何よお……」
「そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないかな?」
寧が指さすその先を、ばっと物怖じもせずに見やる。こちらを見つめるその海魔。赤い眼光が鋭く光った。
「離れないでね!?」
「了解!」
――上空にて
「外した、か。まずったかな?」
◆┃◆┃◆┃◆
「何あれダイジョブなわけ?」
「とりあえず急げ。ありゃ多分まずい」
「いやあ、あれは違うと思うけど。んまあいっか」
よく分からない大蛇の出現に、流石に緊張を覚え、駆け足でそちらへ向かう二人を追いかけつつ、波澄は見覚えがあるので大して焦らずだった。
「姉貴はあれ知ってんのか?」
「知らない訳じゃないけどさ。うまくいってないんじゃないかな。降って終わりなら」
「平気なの? わーしアレは初見だし分からん」
「病原野郎がどう動くかじゃないよね。どう動いても多分平気なんだけど、問題はネーレちゃんが離れてないかどうかだけど……」
まあネーレのことだしその点は平気だろう。しかし、ここで。
「悪いけど離脱しちゃうね? ちょっと用事」
「マジかよ」
「居なくてもいけるんじゃない? ファイトっ」
右に曲がって何処かへ行く波澄を、今は引き留めることも叶わず、そのまま目的地へと急ぐ。
「何か分かる?」
「知るか。急げ」
「へいへい」
◆┃◆┃◆┃◆
「ヤッパリ燃エナイノカ」
「げえっ。喋ったわよコイツ」
「うら若き乙女をガン見するとはエロジジイ宛らだね」
「失礼ナヤツラダ」
片言だが、はっきりと喋るソイツを前に、さらっと自分の意見を述べる叶恵らに一拍置いて問いかける。
「今ノヘビハ、オマエラカ?」
「さあねえ? どうかしら」
「うわっ。真顔でガン見すんなよ気持ち悪い」
「オマエ、クチワルクナイカ」
「叶恵兄の分身の時も思ったけど喋ってることは脳内に流暢な感じで流れてくるね。口では片言なのに。頭痛いからやめてくれない?」
イライラした様子で悪態をつく寧。しかし、真意は別のところにある。もちろん、実際にそう思ってはいたが、本当の望みは別にある。
(あんな大きな蛇が出たんだ。時間は稼ぐ。流石に急いできてくれるよな?)
「オマエ、ソウイウノキラワレルゾ」
「世の害獣にそんなこと言われちゃったら後がないかもなあ。てかさあ? ボクの専門は遠距離なんだけど? 近くに来られると気分悪くてやってらんないよね?」
「あなた『そんなん』でいいの?」
「ネーレの時の、晶斗から得た学び。こっちの記憶はあげてないけど、ネーレの記憶はボクにも見れるからね」
「あなた僕っ娘なの?」
「……ノーコメントで」
痺れを切らしたクリメーターが周囲の木に視線を反らす。虫眼鏡を当てた黒い紙のようにボッと燃える。
「直接ダメナラマワリヲ燃ヤソウ」
「マズイな。火傷くらいは姉にも想定内だろうし……」
クリメーターの脇腹に大剣がぶつかる。
そしてようやく。この瞬間をもって。
「ゴアッ!?」
「硬っ」
――饗庭晶斗・涸沼雀、合流。
「これ平気なやつか? わーしは働きたくないけど」
「お前は刀折ったし自己判断でいい」




