13話 見えない二人と見えてる二人
――饗庭&涸沼ペア+???――
「なっつかしー! 大きくなったねーアキ君! わしゃわしゃー」
「もう何が何だか……」
「アキくうん? ふうん。へえ。ほおおおん?」
昔からそうだったのか、晶斗にべたべた絡む『姉貴』と呼ばれた女と、だる絡みされても諦めたような目をした無抵抗な晶斗を見聞きしつつ、面白いおもちゃを見つけたように含みのある喋り方をする雀。
仮面の下では恐らくかなりニヤついている。
「ん。コイツ姉の波澄。こういうやつだ」
「あーお姉さんなの? 全然似てないね」
「こういうやつって何よーこのこのーうりうりー」
波澄と呼ばれた女性は、叶恵によく似ていた。長い黒髪は晶斗とあまり変わらない色をしているが、それ以外にあまり晶斗に似た面影はない。やけに明るいせいだろうか。しかし晶斗曰く彼女もまた対海魔科の人間だったらしい。消えたから今は知らないと言っていた。確かに似た感じの服を着ているなと涸沼は思う。それと同時にこうも思った。
(コイツ嫌だなあ……。こわ)
いずれ闘うことになったとしても絶対にそれは後回しがいい。順番については自分にも選択権はあると、もう一人の自分を抑えておく。
(そもそもわーしばっかり働くのおかしいよな……)
うんざりしつつ『黒』を止めながら、いつ頃この苦行から解放されるのかな、と『白』は考えていた。
◆┃◆┃◆┃◆
――叶恵&ネーレペア+???――
「随分と大人っぽくなったなあ。お兄ちゃんはうれしいよ」
「は、あはは……」
(かなえちゃんの様子がおかしいな。コイツ……)
ネーレから見ると、どう見てもソイツは黒い人型の靄に目の部分だけぽっかり穴が開いた不気味な奴でしかない。どう見ても人間ではないのだが、鵜ノ崎が「夏兄」と呼んだということは叶恵には少なくとも人間には見えているようだ。まさかお兄ちゃんはお化けなの的なものってことはないだろうし……、と思考を巡らせ続けるが、たぶんバレてはいけないやつだ。表面上は眠そうな、とぼけたようなにまにまとした笑みを浮かべている。いつもアホみたいな顔をうかべて生きてきたのは、処世術の一端だった。叶恵や晶斗の前では本気でにまにましているが。
(ていうかあきと君なにしてんのー!? はぐれちゃうとか無いよホントにー!!)
「て、ていうか夏兄って、さ。い、今までどこ、い、行ってた、の?」
「そんなのは今いいだろ」
「ご、ごめん……」
そのままどうでもいい話を続ける二人はさておき、とりあえずは斜め上に瞳を向け、猫みたいな口をして本気で阿呆を演じるネーレは考えていた。
(よく分かんないけど本人と何かあったのかなあ。異様なおびえようだ。てか口ないのにどっから喋ってのアレ。声もヴーヴーって機械音みたいにしか私にゃ聞こえないし。でも頭には何言ってるか入ってくるの気持ち悪いなあこれえ)
「んー。まあとりあえず着いてこい」
「うん……」
「ほえ?」
とりあえずがもうおかしい。とりあえずは違う気がした。
(まずったなああああ!! これ大玉のもとに連れていかれるやつじゃんっ! 私気づいてないフリしないとだしさあああああ! うあああああああああああああ!)
ネーレは全くふざけた表情を変えないまま心の中では大慌てしていた。
◆┃◆┃◆┃◆
――饗庭姉弟&涸沼チーム――
「ていうかあ。アキ君たちもここの病原野郎の任された感じ?」
「まあそうだけど」
「お姉さんもですか?」
「お姉ちゃんはちょーっと頼まれてヘルプに来ただけでーす。彼ももうじき来るみたいだけどたぶん会えないんじゃないかな? 秘密主義だから」
「へー」
雀はあくまで友好的に接する。敵意もなさそうだが、コイツは怒らせたら今はまずい。そう思い警戒すら悟らせないように徹していた。いたのだが。
「ていうかそっちのおチビちゃん何? アキ君ロリコンだっk」
「失礼なこと言うな。なんでいるのかはコイツに聞いてくれ。俺も知らん。ついでに言えば会ったの今日」
「いけずー。まあいいや。そんなに怖がらなくていいからできれば教えてほしいな~、なんて」
「え、エット……のーこめんつ」
「がーんっ!」
大きく仰け反るハイテンションな波澄から、冷や汗だらだらで顔を背ける雀。顔を背けずとも元より顔は見えていないのだが、自分が嫌になってきただけである。
(なんで警戒してるのバレてんの~!? ていうか思っていたより優しいし。いやーちょろいなわーしも。あーあーもういいよ世界を悲観的にとらえるのが悪いってんでしょわーしが間違ってんだろ! なんでこういうやつばっかり来るかなあ!! お役目があ……。いやお役目はわーしじゃないもん、邪魔しなければわーしは楽しくやっていいって話だしー! なんならよく邪魔してるし怒られるのなんて慣れっこだしーー!!)
「ひゃっほーーーう!!」
「頭おかしい子も私好きよ~」
「あ、アタオカ言うなあ!」
「騒がしい……」
しばらく領海内にも関わらずワイワイガヤガヤする三人。思い出したように波澄が話を戻す。
「あーそうそう病原野郎がどこか私わかるよ? 今から行こうと思ってたんだけど。一緒にどう?」
「「へ?」」
◆┃◆┃◆┃◆
かくして、二チームは同じ場所へ向かうこととなる。段々と日が暮れてゆく中、それぞれ何かに誘われて、歩みを進めていた。
それを上空から眺める影もまた、同じ場所へ向かっていた。
「結局危ない綱はわたらせちゃったか……」
そう嘆きながら中空を歩く。




