12話 遭遇
昔から、世のためにだとか、祖国のためとか、ほんっっっとうにどうでもよかった。はっきり言えば嫌いだった。
誰とも知れない不特定多数のために何かすることになんの意味もやり甲斐も感じなかった。
大義とか理念とかどうでもいい。そんなものは全体しか見ていない。大抵多少の犠牲は容認する。全部じゃなく『全体』さえ変えられれば『一部』は捨てられる。
犠牲、と一言で言っても何もかも死とは限らないのは分かってる。どうでもいい。
犠牲がどうとかじゃない。全部どうにかしろとかでもない。なんなら全部どうなろうと知ったことじゃない。
ただ身近にあるものだけ、目の前の、すぐ手が届く小さな世界を――
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まだまだ明るい昼下がり。背の高い木ばかり並ぶ森をひたすら歩く。
文明が衰退したとは言っても偏りがある。都市部は一部のみかなり発達したまま残っているが、『柵』の向こうは、完全に自然と化した地帯もあれば、苔やら蔦やらに覆われて、所々木の根やら断層やらで凹凸やら地割れやらがある地域もある。後者は時折探索隊が出たりもする。古代零装が出たり、旧時代遺物が見つかったりするせいだ。
全盛期から衰退したというだけで、地中に電線が大抵移っていたこともあり電気系はまあ21世紀初頭程度くらいには維持されている。
一部以上に衰えているのは『柵』の外の市街地(と呼ぶより村)に、講座敷などがいい例だ。
つまりは文明レベルがある程度維持されているのは都市部のみ、ということだ。
ここ、燈森はどの都市圏からも離れた場所にあり、『禁足地』のひとつでもある。
対海魔科も、この島国、まあ昔は日本とかなんだとか言ったらしいが、ここにいくつも支部を持っている。都市部は一部にしかないが、対海魔科支部は、元都道府県一つにつき少なくとも一つはある。例外はなくもないが、この『アキタ』にもそれはあり、今回はそこからの依頼だった。
『禁足地』に居ついた領海所有の確認される海魔の撃破。及び『禁足地』に迷い込んだ生存者の確保。
『禁足地』と呼ばれるものには現在いくつかの種類がある。
今晶斗達がいるのはお偉いさんの取り決めた一般人立ち入りを許可しない安全確保の済んでいない地域。
他にはそもそも誰も立ち入っていない未踏の領域のため封鎖された場所。
または、巷で噂されるタイプの上が関わっていないが誰も入ってはいけないとされる都市伝説に近い場所などだ。
最後のものに関しては、封鎖体制は全くない。
二つ目に関しては調査を進め続々と減っている。
一つ目は二つ目に述べた方の禁足地よりも優先度が低いとされ、放置されがちといった具合だ。
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本当に何も起こらないまま歩みを進める四人。こんな現実に嘆く。
「上の方々ももう少し情報渡してほしいもんだ。一応ほとんど確認は済んでるはずなんだし地図くらいくれてもいいんじゃないか?」
「あてもなく彷徨うのも楽しいわよ?」
「お前は楽しそうでいいよなホントに」
晶斗と違って叶恵はかなりの頻度で目的もなく散歩に出ることが多い。こういう状況に慣れているかいないかで、精神的な疲労はかなり違うものだ。楽しみつつある叶恵と、いよいよ帰りたくなってきた晶斗を、雀はただ眺める。ふと思いついたように口に出す。
「お前分かってないよね。たぶん」
「何を」
「わーしのことなんも知らんのに警戒してくれないじゃん」
全くもって何が言いたいのか伝わらなかった。あまりに要点を得ない発言に、もう戸惑うばかりだ。
「結局何?」
「いやさ。あーの。まあいいんだケド」
「歯切れ悪いな」
何か言いたげだがいつまでも躊躇い続ける雀。うんうん唸って頭を抱えたり考え込む動作(なぜか多様なパターン)を繰り返す。見ている側だと仮面が不気味で仕方なかった。
十分ほどしばらく唸ってようやく言葉を返した。
「……なーんも分からん相手をそう簡単に信じる君はバカってだけぇんあっ? なにすんのマジで……」
チョップをお見舞いした。
「ちょっとイラっとしただけ」
「そんなんで人の頭にチョップいれないでよっ! このDV男っ!」
「Dの部分いらない」
「うっさいなあ! 暴力の部分は認めるのかよ! ボディにブロウをお見舞いしてやろうかっ!」
(ぺしってしただけだし、多分本気で痛がってはないんだろうけど。にしても急にうるさいな)
先ほどの様子はどこへやら、騒がしくなった雀を適当にあしらいながら、周りの静かさに今更気づく。いくら見渡しても、雀以外の人間が見つからない。目に映るのは今この状況を嗤うかのように鮮やかな緑色をした森と、よく騒ぐ変な仮面だけ。
「おい。不味いんじゃないかこれ……がっ」
「はっはー! ボケっとしてたからお返しボディブロウだよ?」
「……」
「……デコピンされてもお面だし痛くないケドナー」
ともかく、良くない状況である。はぐれるのは予想外だった。ここは前から森だったようで電波もない。決まった道があったわけでもない。どうしようもない。
どうしようかと思った傍ら、耳に聞き覚えのある声が響いた。
ソイツは横からすっと出てきてこういった。
「アキくんおひさ~。元気してる?」
「は……? 姉…貴??」
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そしてこちらもまた、少女の知るものが姿を現す。
「カナエ?」
「んえ? 夏兄?」
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その遭遇を、完璧な平然を装って、白の少女と仮面の少女はそれぞれで眺めていた。
その目に映る真実に、気づかないふりをするように。




