11話 想定外と食い違い
ちょうど晶斗達が森に入った頃。
綷賀通吏は憂鬱だった。
「あんなの私に止められるわけないじゃあん。特別隊だからって自分勝手すぎませぇん?」
少し前、通吏は一人の男の行動を、全く止められなかった。後輩がいくら気に入っているからといって、ああも勝手に動かれては困る。
レベルが違う違わないに関しては上からの情報を伝えているだけで実際どうなのかなど知ったことではない。
(先に上に連絡してから行ってくれないと私『連絡班なのに何してんの』って怒られるじゃぁん)
「なあんでああもアイツらは扱いにくいんですかあ……」
手元にあった『ガラケー』に、やけに煩く電話のコールが鳴り響いた。
「……はあいもしもーし」
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一行は、さくさく森を歩き進めていた。
「ネーレは影響なさそうだし、やっぱり『法規』持ちなんだな」
「しらーん」
「にしてもやけに明るいわねー。ほとんど上は見えないのに、どこから光なんて届いてるのかしら」
「それもしらーん」
さくさくと言っても、ネーレに関しては別である。
永年外を歩き回ることなどなかった少女にしてみれば、今まで散々楽したとはいえ苦痛でしかない。むしろ楽したことで余計に辛く感じる。
へとへとのネーレを差し置いて、三人は歩き進める。この状況には本当にちょっとした少女の発言がそうさせた。
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――少し前
「あつい……」
背負われていたネーレは、口を尖らせそう言った。温暖化現象はもう進行していないとはいえ、春の陽気に『運び手』の厚着も相まって、相変わらずのぶかぶかTシャツでかなり薄着のはずだというのに少女は撃沈寸前だった。
「こっちだってお前体温高いしキツいんだが」
「あつーい!」
ぽかぽかと饗庭の肩を叩くネーレ。暑さにあてられ赤くなった顔で駄々をこね暴れれば、当然こう来るわけだ。
「じゃあ降りろ」
「なーっ!」
◆┃◆┃◆┃◆
そうして今に至る。怒っているわけではないが三人はなんの情けもなかった。完全放置。
怒っているわけではないので普通に話しかけたりはするのだが、手助けするしないの岐路にすら、かなりの訓練を積んできた対海魔科組は立っていなかった。
そして迷ったけど二人が何もしないならいいやと考える雀。
「……つかれた」
どうやら二人の耳は飾りだと理解した雀は大きくため息をつきネーレに歩み寄る。
「……実を言うとね。わーしが好感度を犠牲に頑張ればあなたを楽させてあげられるんだけど……まあ実のところわーしは微塵もやりたかないんだけど……やるかい?」
「好感度なんてたまってたのー?」
「ヒドイこと言う~」
仮面の上からでも苦笑いが想像できるくらい、結構傷ついた様子で茶化す涸沼。
「結局どう?」
「おねがーい」
あちゃー、と片手で頭を押さえる雀。そのまま続ける。
「あーもう文句言うなよ? ……えいっ」
足払いしてネーレを転ばせ、布団みたいに抱える。
「こんなんでおこったりしないよ?」
「いやごめんて……そらー!」
このまま運んでくれるのかと思っていた少女に一声謝って、思いっきり上にぶん投げた。
かなりよく飛んだ。30メートルくらい。
「あー。ネーレちゃんが危ないよー」
「はあ? どこ」
「上ー」
呑気に喋る雀はさておき、上を見上げると落ちてくる少女を発見した。
小走りで下に行き受け止める。
「うぉういぇー」
「お前な……」
投げられた少女も、睨まれたぶん投げた犯人も全く気にしていない素振りを見せる。というか被害者はむしろ満足げなのが普通とは異なる。
そのまま涸沼雀は頑張って胸を張って脅してみた。
「その子ってよわっちいし? 放置してたらまたぶん投げちゃうかもねー。あっはっはー。わっはっはー」
しかし、相対する晶斗も晶斗で、雀の意図を察したようで少しふざけていた。
(雀も考えることがなんか雑だな……ありがちっちゃありがちというかまあ。いいんだが)
「……ケッチャコ」
「……お前そんなノリいいの?」
「冗談だ。乗せりゃいいんだろ?」
「いやまあそうなんだケド。思ってたんとちがう」
「やりー。たかいとこ好きかもー」
どこに標的が居るとも知れない森の中、穏やかな春の陽気は場を緩ませ過ぎていた。油断していた。
何者かの視界に収められているとしても。
彼等はまだ気付いていない。
叶恵の馬鹿げた『法規』の適用範囲だったから、今は生き延びることが出来た。しかし、叶恵がはぐれ、そしてそれ等と遭遇してしまえば、他の面子は呆気なく死ぬ。
叶恵のような、その下位互換でも適性が基本必要不可欠の依頼だった。だから任された。そんな理由を彼等は知らない。
視界の主は灰となり散った。
今回も、生き延びた。
まだまだ道は長い。




