10話 ダブルフェイス
「うぃー。あっぶなー! 殺す気?」
「おまいう」
「得物がないしムリムリ。こーうさん」
首を横に振りつつ両手を上げるソイツ。
晶斗が柄の後ろを引っ張ったり回したりするとバシュッと火は消えガシャコンガシャコンと妙に大きな音を立てながら『大蛇』はたたまれた。
(真意がつかめないな……)
「お前みたいに努力しないヤツは『白』の天敵だね。まったく」
「白ォ?」
「嫌だなあ。情報漏らすと思う? まだ機会はあるでしょ」
確かに、情報を吐かないのは敵対するものとして正しい。
(てかコイツまた襲う気かよ)
「睨むなよ。……仕方ないなあ。ま、少しくらいはいいよ?」
「余計怪しいんだが。信頼できないな」
「まあまあ。ちょーっと思想が過激なのは『黒』だしい? そこはね。これから一緒にやっていくんだよ?」
人の話を聞かないのではなく、無理にでも今は押し通したいといった感じに見える。かなりあやふやな喋り方だ。
(にしても想定外なことしか言わないなコイツ)
「あー。まあた睨む。いーじゃんわーし強いんだからあ。そこの子達が起きる前に『法規』ぐらいはある程度教えてあげよう。名前は後回しね」
駄々をこねる子供のように両手を後ろに伸ばして前のめりになる。
仮面がアレでは不気味でしかないが。
◆┃◆┃◆┃◆
ヘンテコ仮面の『法規』は『天使と悪魔』。
白あるいは黒の仮面を身に纏うことで『白』若しくは『黒』の人格にシフトして、それぞれに『法規』が付与されており使用できる。
『蓋世之才』が黒で、『困知勉行』が白、『天使と悪魔』を持つ本来の人格も合わせればトリプルフェイスだが、二重信仰ともかけてのダブルフェイスだそうだ。
「本当にある程度だけだな」
「そらそうでしょ」
白黒のヘンテコ仮面を着けているのはどちらにもなれるからだそうだが、人と話すときは基本白らしい。
それと単色の仮面の方が効果は高いと聞いた。
どのくらい違うかは話していない。
「詳しい身の上とかは不詳だけどサ。これからどうぞ、涸沼雀をよろしくネ」
怪しさやら不気味さやらと同時に、僅かな親しみを覚えさせるそんな言葉に、答える声はいつの間にか二つ増えていた。
「んぅ…よろしく…」
「よろしくね」
「腑に落ちないしお前ら起きてたのかよ」
「「今起きた」」
◆┃◆┃◆┃◆
一行に一人加わった。
「仮面は外せないケド、まあ仲良くいこう。てか今何してん?」
「……人探し」
「森に入れないから困ってるのよ」
「私は正直どうでもいー」
「おい」
見た目だけでこうまで不審なヤツとなぜすぐ打ち解けられるのか心底不思議でならない。
命を突然狙ってきた相手に警戒しないというのだから、確実におかしいのは二人の方だ。
そもそも、誰を狙って来たのかも分からない。叶恵はすぐ気絶させられていた。殺そうと思えば出来たはずだ。
(気絶させられてたってことは鵜ノ崎アイツに気付いてたのかよ……。マトモにやってすぐ負けるとか)
しかし四人ともなると騒がしい。
「ん? 普通に入れば?」
「あー森? 入れないから困ってるんだよ今」
「何か方法でもあるの?」
話がややこしくなりそうだから正直聞きたくない。こんなメンバーではマトモな統率役としては自分しか挙がらないこの状況で、面倒な役回りを任せられるのは困る。
だがコトはあっさり運んだ。
「いやわーしさっき森から出てきたんだケド」
「は?」
◆┃◆┃◆┃◆
――森へ向かうこととなった。
「あの陰湿の領海でしょ? 別に出入りには条件ないよ」
「陰湿……かどうかは知らないが、上からは出入り方法は手探りで探せと来てるんだが」
ならば何のために人探しなんぞしたのか。
今回の作戦は本部四班の嶺崎さんから発案されたらしいが、あの人は最低限しか伝達しない。伝言ゲームの途中で心配性の誰かさんが勝手に添えたのだろう。
「畝間か……余計なことを……」
「どしたあ。なんか思い当たったか?」
「美瑠ちゃんがどうしたの?」
「みるちゃん? あーあのあわあわしてるお姉ちゃんかー」
畝間美瑠。救護第二班のチーフにあたる人物だが、高身長のわりに心配性。
過干渉気味で饗庭は苦手だが、大抵の人からは慕われている。
今回の遠回りは恐らく畝間のせいと畝間を知る者達は考えていた。
「「「まっったく……」」」
「もう着くよ」
気付けばもう森はすぐそこまで来ていた。
いよいよ、というわけだ。
「あの陰湿を潰すのがキミタチの仕事って訳か」
「ん。ああ」
「……できる?」
「どういう……」
しかしこちらに喋らせることなく、涸沼は大きなため息で会話を切った。そして続ける。
「……まあ『法規』次第かな。やれるってんならやれるのか。じゃあまあ。行こう」
どうにも歯切れの悪い話しぶりだったが、詮索はさせてくれなかった。
face×faith




