9話 ふーあーゆー
森はまだ先だ。なぜ外側に犠牲者がいたのかは全くもって不明。
都市部から離れたこの辺りはやけに開けているが、他に人の姿は見えない。
「森に入っちゃいけないって言われても人がいないんじゃな」
「アレ。多分ふつうの疾患系じゃないわ。領海の外に被害が出るっていうのは前例ないし。おそらく人はいたのね」
(分からないことが多すぎる。上も情報は持っているが伏せているような雰囲気だ。なんというか……
「つかれたー。おぶってー」
「はいはい」
(なんというか、とにかく今回のは厄介になる。一度、都市部に戻るべ……
「あったかいねー」
「そうか」
(戻るべきか。作戦は練り直すべきだ。どう人間を探し……
「いい天気だねー」
「おう」
(探していこうか)
「すー……」
「寝やがった……」
如何なる時如何なる場所でもネーレはマイペースな気がしてならない饗庭だった。
◆┃◆┃◆┃◆
何時までも背負っているわけにはいかないということで、一度都市部と平野の境にあたる『柵』付近まで来た。
柵は所詮柵だが、一応警備ぐらいはいる。
柵から出ればもう平野で、内に入ればすぐ都市部。
かなりハッキリと分かれているが、柵の外側にも村はある。『領海』被害が出たのもそのためだ。
こんな文明でもカラオケぐらいはある。防音に関して文句はないので、作戦会議も兼ねて入店した。
「どうする?」
「どうするって何よ」
空いたソファにネーレを寝かせて訊ねる。
「これからだよ。この辺は少し遠いからアテになんないし」
「地道に人探ししていくしかないでしょうよ。それともなに? 貴方の『金庫』に任せてみるの?」
「それじゃ多分うまくいかないぞー」
少し俯いて考え直す。
『金庫』とは勿論、『法規』のことだ。信用している人間がそれを言語化することで、何かしら良い方向に運ぶというものだが、そこまで便利ではない筈だ。
それに信頼は恐らく数値化されて蓄積される。あまり使いすぎたくはない。
そういう考え方だと、『信用金庫』は色々とリスクが高い。
「これまで通り地道に行くっきゃないか」
「……ぶっ殺」
「は?」
顔を上げる。突如として現れた凶刃はもうそこに迫っていた。
咄嗟に身体が動く。手に持っていた『アタッシュケース』でなんとか防いだ。
「……」
「お前誰だ? ……っ。クッソ力強いし……さっ!」
勢いよく押し返すと襲撃者は軽やかに飛び退いた。
「……チッ」
「こっわ」
(長髪低身長に中性的な声。どっちか分からんがどうせ女だ……。ここ最近頼城先輩くらいしか男と会ってないし)
叶恵ではない。完全に落ちている。
ネーレが変身しているわけでもない。まだ横になって寝ている。
大分主張の強い仮面に作業着にオーバーオール。得物は……刀? そして何より目立つ色味の強い蒼い髪。全くもって見覚えがない。
「そんな感じなのにおさげでツインテールとはな。女は分からん」
「元より理解は求めてない。」
何か懐から、指に挟んで取り出し投擲してくる。
これは見覚えがある。
すんでで躱した晶斗は思ったことをそのまま言い放つ。
「クナイとかお前。忍者ごっこでもしてるのか?」
「言ってれば。なんなら手裏剣もプレゼント!」
またもやアタッシュケースで弾く。
威力は大したことはない一撃一撃だが、手数がそれを上回る。被弾はないが、面で受ける分衝撃は大きい。当然疲労はたまる一方だ。
(しかしいよいよ『くノ一』ごっこでもしているのかと疑うが、大きく避けるとネーレや鵜ノ崎に当たりかねない。徒手空拳で捌ききるのも限度はある。狙いだけは的確なもんだ。使うしかないか?)
カカカカカカッ、と何発も何発も撃ち出される凶器の数々を弾き続ける。お互いにまだ息切れすらしていないが、精神的にはかなり疲弊していた。
一頻の弾幕の後、ふと攻撃の手が止む。
「……こちらが言えることじゃないケドさ。お前努力しない質?」
「……どうしたァ急に。お前よりはしてると思うが?」
「ハッ。言う、ねっ!!」
居合というかなんと言うべきか。一瞬の内に思い切り踏み込み刀を滑らせ切り上げてくる。素手では防ぎきれる筈もない威力と速度の、一撃で刈り取るための攻撃だ。
だが。
饗庭にだって武器はある。このような状況に於いて、まさか使わずに済むとは思っていない。『何時』使うか。たったそれだけ。
ならばカウンターで決めきるのが理想。
喋り終わると同時にアタッシュケースのスイッチを押し、得物を展開してあった。不意打ちに来るのは見えていたからこそ、両手で握り締め、身体ごと大きく回して振り下ろす。
普通ならかなり隙は大きかったが、来る手さえ分かればタイミングだけだ。
悟られず、その上で自分も守りきれる、そういうタイミングを見計らった。
……饗庭の零装は特殊な大剣だ。
遠心力を駆使して使うのが想定されている先端ほど重い設計や、片刃でもう片方は叩くことを想定し、分厚く重かったり、そして何より。
――燃える。
「なぬっ!?」
「お仕舞いだ」
……バキッ、と刀の折れる音がした。




