侵入
クルーザーは人工島の周囲をぐるぐると自動運転している。
相変わらず島のステルス機構は動いており、誰の維持もなく正常に電力供給が行われているのが不思議ではあるが、風力、波力、太陽光などの自然エネルギーが尽きることなく電力を供給し続けて、融合炉の燃料が枯渇せずに済んだということだろう。
俺は早くメアリーに会いたかった。何年待った? 12年か。
もっと早く来れたんじゃないかと考えてみるが、これ以上の前倒しでは、やっぱり確実性は担保できていなかったと思う。
必ず助け出す。
俺は装備を念入りに確認し、マリアンの手伝いを伴って全て装着した。
彼女は強化外骨格を着て、対物ライフルを背負っている。
「本当に一緒に来るのか? 一人でやるつもりで準備してきたんだけど」
「もちろんです」
「ウィルスに感染するかもしれないぞ。アンドロイドとはいえ、ほとんど人間と同じなんだから」
「問題ありません。理性的な部分に関しては脳殻の一時離脱を持って二日ほど維持することが可能です」
「つまり、やばくなったら首持って逃げろと?」
「その通りです」
「わかった」
クルーザーがゆっくりと埠頭に近づいて止まる。防毒マスクをしたら、ロープでボラードに船を結びつける。
ちなみにロープの根元はクルーザー内部の制御装置から切断可能なので、自動運転させることも可能だ。
久々の人工島。
そんなに長い間滞在したわけじゃないが、ここから俺の生存戦略が始まったと言っても過言では無い。
「いくぞ」
俺はマリアンを一瞥し、埠頭を走り抜けていく。シーガル氏に教わった音消しの足運びだ。
オブジェクトに身を寄せ、鉄砲を構えて扇を描くように角を確認する。
いちいちこうやって進んでいくのは、リスクを軽減するためだ。この世界、怪我から復帰するのが転生前の世界よりは容易でも、死者が生き返るわけでは無い。常に残機は0というわけだ。
今の所ゾンビは一切見当たらない。その亡骸すら無いのだ。ゾンビが活動できなくなると、肉は代謝によって最終的には溶けてなくなるが、骨は残るはず。
俺が脱出した後、何があったんだ? 俺がやろうとしたように、誰かがゾンビをトレインして倉庫に詰めたとか?
丁度埠頭近くの倉庫エリアに入ったので、俺はマリアンに言った。
「倉庫の中にゾンビがいると思うか?」
「内側から破壊しようとした様子も無いですが。少し音が出ますが、壁上部の窓から目視で確認することができます」
「頼む」
俺は対物ライフルを肩に乗せて倉庫に向かって歩いていく彼女の後ろ姿を見ていた。
彼女の着けている強化外骨格は、W●rframeとかそういうタイプの全身に纏うタイプのものではなく、本当に人間の骨格と関節を補強するためのものだ。主に高密度に編み込まれたカーボンナノチューブのフレームで出来ていて、かなり軽いのが特徴。重量のほとんどを占めているのは、腰回りと背中部分に積んである樹脂バッテリー部だろう。
強化外骨格がアンドロイドと相性がいいのは、脳殻とソケットで接続できる点にある。人間が同じようなことをしようと思ったら相当大掛かりな手術が必要だし、その方法で使えるようになるまで相当な訓練がいる。
マリアンは足元にライフルを置いて、高飛びみたいにジャンプした。
何回か繰り返し、死角が無いように窓を何回も覗き込んだようだ。
それから戻ってきて、声をひそめて言う。
「ゾンビは確認できませんでした」
「他に見つけたものは?」
「特筆すべきものは、白骨死体が一人分だけ」
「なるほどね」
俺がゾンビを倉庫に入れるのを阻んだ奴らは、みんな餓死したということだろう。




