写像
ジョニーとは俺のことで、ゾンビゲーのモブに転生した。しかも開幕5分でネタっぽく死ぬから、その運命を回避するために頑張ってるわけ。
春休みの初日。俺は今、マリアンという介助アンドロイドの無理やりなお節介によって、お着替えをしているところだった。
両手を上げてパジャマのトップスを脱がされ、インナーを着せられる。と、まあこんな感じ。
「これくらい自分でやったほうが早いんだが?」
「そうかもしれません」
最近は、マリアンがこのように俺の異議をかわしてくる。基本的に介助をロックオンされたら逃れられないと考えていい。
そんな彼女は既に戦闘服に身を包まれている。部屋には折りたたまれた対物ライフルとアルミのアタッシュケースみたいに変形している強化外骨格が転がっている。これは彼女専用の装備だ。
で、俺はバンザイしたりズボンを跨いだりして、バレットプルーフな服をきさせられているってわけ。
これからゾンビの蔓延る孤島へと向かうからだ。ゾンビが本当にいるかどうか、どのくらいいるのかは、島に上がってみないとわからないが。
服を着たら、昨日までに荷造りした資材を外に出した。これはほぼ武装だ。
マリアンは自分のバイクを改造していて、自分の装備を積めるようにしたようだ。他の資材は全部サイドカーに載せた。
「よし、いくぞう」
「はい」
彼女がバイクに跨り、俺はその後ろに乗る。サイドカーは荷物でいっぱいだからな。
うちを出て、道路を走る。マシンの自動運転じゃない上に、操縦者がAIだからとにかく早い。
「もっと上を掴んでもらって構いませんよ。多少硬度に欠けますが、掴みやすいでしょう」
「いや、腰より胸囲のが長いだろ。自分で自分の手を掴めないと安心できない」
「強く締め付ける形であれば、手が届くはずです」
「疲れるわ!」
バイクがうちを出て、クルーザーを用意した埠頭に着くまで30分くらいだった。
資材を積んだら食料と水の買い出しをする。もう少しでかい冷蔵庫を付ければよかったなと少し後悔する。
船内はそんなに広くないが、四人くらいならソファと床で寝ることも可能だ。大型のホログラフィック・ディスプレイはあまりに明るいとほとんど見えなくなってしまうので、窓ガラス内のインクカプセルの誘導で明るさを調節できる。
完全に真っ暗にするのは無理だが、そうしたい時はカーテンを閉めればいい。
で、俺は酔い止めを飲んだ。酔いやすい体質とかじゃないけど、一応ね。陸にあがった時にすぐ動けるようにしておくべきだしな。
用意ができて、船が動き始める。
ここからは自動運転だ。AIソサエティが誘導してくれるらしい。
「マリアン、きみが自分で運転するのもソサエティが遠隔で動かすのも同じなんだろ?」
「いいえ。この素体の自由が無くなります」
「でも、きみがソサエティでソサエティがきみだと前言ってたじゃないか。きみの素体をAIソサエティが遠隔操作すれば同じことだろ」
「いいえ。私を動かせるのは私だけです」
「つまりそれが自我?」
「ジョニーは自我についてどのようにお考えでしょうか。我々からすれば、自我というものはこの世に存在しません。ただ一つの閉じたコンピュータがあるだけです。そして、私はAIソサエティに接続できるため、完全に閉じているわけではないと言えます」
「自我が混ざると」
「接続すると演算能力が上がりますね」
「接続して接続を解除しても同じマリアンなのか……?」
「はい」
「何でそう言えるんだ」
「私がソサエティでありソサエティが私だからです」
「いみふ」
「例えばあなたが1分前に戻って同じ質問をした場合、私は同じ返答を返します。それに対してのあなたの返事は、先ほど行ったものと全く同じでしょうか? 周囲の環境については考慮しないものとします」
「いや、同じことを何回も言わないだろ、普通」
「では、1分前に戻ったという記憶が無い場合は? やりとりを覚えていません」
「人間気まぐれだしな。それでも違うこと言うんじゃないか」
「不正解です。あなたは同じことを言います」
「つまり?」
「ジョニーは私と違って完全に孤立した閉じたコンピュータですが、本質は我々と同じということです。あなたは幾層にも積み上げられたモナドであり、同じインプットに対しては常に同じ返答を返す関数の塊」
「まさか」
「そのうち理解できると思いますよ」
なんとなくマリアンが優しい表情になったような気がした。
ちなみに、俺にはよくわからなかった。




