凍結
「細胞人体の入っていない冷凍睡眠装置はあるか?」
「一つしかないので、唯一みたいです」
「メアリー! それじゃあその冷凍睡眠装置に入ってる細胞人体を叩き出すんだ! 入っていないもう一つも稼働させて入れるようにしてくれ」
彼女をこの中でコールドスリープさせ、外敵から守るしかない。
ノックバック。ゲームでおなじみのこの概念だが、なんかこのThe Dead In The Waterにも存在するらしい。
レトロゲーみたいにいきなり後ろに弾き飛ばされるというわけではないのだが、例えば俺が今持っている鉄パイプで突いたとすると、ゾンビが殴ったときよりも大きく後ろに仰け反って後退するのだ。
リズムはだいたい一定なので、ノックバック中に再度突きを入れることでノーダメで後ろに動かすことができるってこと。
俺はこれを利用して、なんとかゾンビにそこまで肉薄せずに済むことができている。
とはいえジリ貧なのだ。
ゾンビの数が多いからな。
そうして、メアリーがインテグレイテッド・デスクを操作している間、近寄ってくるゾンビをはね退け続けた。
やがて、細胞人体の冷凍睡眠装置が動き始め、棺のような箱から細胞人体が現れた。
細胞人体模型の名前は、サトウ・テリヤキ。バッキバキに引き締まった体躯を持つ凍りついた人体の標本だ。
「すごい…… これは改良機のプロトタイプ、いわゆる試作品ですね。完全に解凍されるまでの時間がすごく短いみたいなので、すぐに解凍できるようです」
「解凍して外に出す。で、俺たちもこの中に入るぞ! 救援がくるまでやりすごすんだ」
「開始させたので、解凍が始まりました。救援がくるように、本社に救援要請を提出しています」
「いいぞ!」
もしこの世界に棒術スキルがあったらレベルが上がったかもしれない。
The Dead In The Waterは、プレイヤーキャラクターが成長していくタイプのゲームではないので望めないが、俺自身のスキルは上がっていくはずだ。
突きによるノックバックをリズミカルに四方へと与えることで接近を許さない。
解凍が終わるまで、おそらく20分はあったと思う。
その間、ゾンビを上手くノックバックさせながら、フロア内を動き回ってなんとか二人とも無傷でいることができた。
だが、おそらく隠しパラメータで存在しているのであろう、スタミナの値がどんどん減少していっているのだと思う。
倦怠感が強くなって、鉄パイプを振るのがだんだんと辛くなってくる。
「よし、解凍できたな。メアリー! テリヤキ氏を叩き出すんだ! 俺がこの場所を死守する!」
メアリーが頑張って、箱の中から細胞人体を引きずり出した。
「この後、どうすれば」
「メアリー、中に入れ。二人でコールドスリープするぞ」
「操作は?」
「ブ・ソア! メアリーの統括AIから冷凍睡眠装置の操作方法をインストールしろ」
「御意」とブ・ソアが言った。
「ジョニーさんはどうするんですか?」
「もう一つの方に入る。俺はゾンビを止められるから、先にきみが中に入るんだ」
「でも……」
「大丈夫! 必ず助けは来る」
「一人はいやなので、ジョニーさんと一緒がいいです!」
「二人で入った前例なんてないだろう。きみが先に入るんだ」
「生きている人間を冷凍した前例がないので、普通の人を冷凍したことはありません」
「わがままを言わないでくれ。俺はもう一つの方に入るから」
「……わかりました」
メアリーはしぶしぶ、石棺みたいな冷凍睡眠装置の中へと入った。
「ブ・ソア、よろしく頼むぞ」
「御意。液体呼吸機、オン。論文識別番号SL-8273872301の理論を応用します。冷凍フェーズ、開始」
メアリーがゲルに飲み込まれて、装置の蓋が閉じられた。
俺はメアリーに別れを告げなかった。ゾンビと戦うのに精一杯だったからじゃない。
必ずもう一度会う。
そう決めているからだ。




