愛情
メアリーが言うには、マイケルが秘密裏に研究を進めていたことは確実だそうだ。
彼の研究、「心肺機能の相対的強化」は行けるところまで行き着いてしまって、この事態が起こってしまった。
心肺停止状態でも活動可能な肉体を作り出してしまったのだ。
もうそれってゾンビだよね。死んでるんだから。
「俺たちも感染してるのか?」
「検査しないと分かりませんが、検査する方法がありません。つまり、検査できないということです。ただ、火事の時に水を降らすための設備、スプリンクラーがこの建物にはあって、さっきそれが稼働しました。建物内に水が降ったんです。そして、マイケルはウィルスを拡散させるために、スプリンクラーの水の中にウィルスを仕込みました。ウィルスが水に混じって建物に降ったんです」
「俺たちはその水を少なからず浴びている」
感染している可能性が少なからずあるということだろう。
「強化ウィルスで遺伝子を操作していると感染しないというデータがありました。ジョニーさんは、先日強化されているので、かからないかもしれません」
「メアリー、きみは……」
「私はジョニーさんのように強化していないので、感染したかもしれません。私は強化した人じゃないんです」
他人事ではなく、それは俺を絶望させた。
いや、本当に感染してるかどうかは分からない。ただ、特徴として心肺機能が強化されるのだから、その効果が感じ取れないなら、その可能性は低いんじゃないだろうか。
詳しい原理は俺にはあまり理解できなかった。
マイケルが作ったのは、導入された遺伝子によってある種のアミノ酸が新しいアミノ酸に置き換えられ、そこで得た熱を利用するらしい。
知らんけど、ヤバいんでしょう。
「資料によれば、元になるアミノ酸、それは私たちの新鮮な肉体にたくさんあるそうです。だからこそ、生きている肉はフレッシュなんです」
「俺も、きみの肉体が欲しい」
「非常時なので、イチャイチャしている場合ではないんです。でも、こういう時こそ、恋人らしくすべきかもしれません。もう私たちは付き合っているので」
「メアリー」
「ジョニーさん」
しばらく俺たちは見つめあったが、メアリーが小さく咳払いをして話を続けた。
「人間には考えなくても求める欲望がありますが、何かわかりますか? それは本能です。感染した人は、死んだりしても体が動きます。本能で動くんです」
「むずかしいな」
「何も考えずに私たちの新鮮な肉体を求めるということです。本能だからです」
「なるほど。俺たちは常に彼らの食料であると」
「はい」
「これからあいつらに遭遇したら、それを警戒しなくちゃいけないってことね」
「襲いかかってくるかもしれません。襲撃されます」
「ふむ」
テリーを6Fに強制送還できたのは、かなり運がよかったのかもしれない。
もしかすると、俺自身はまだ5歳なので可食部が少なく、それであまり本能を刺激しなかったのかも。
メアリーみたいに着痩せするタイプで、むちむちしている場合、ものすごくあいつらの欲望を掻き立てる結果になるのかもしれない。
そう考えると、マリーはガリガリなので無事でいることだろう。
俺はいろいろ考えたが、もう諦めてもいい気がした。
みっともない死に方をしなければそれでいいや。
俺はため息を吐いて、メアリーの顔を見た。
むちむちでゾンビの本能を刺激する?
いやいやいや、許せんでしょ。
メアリーは俺のカノジョだ。
「やれやれ」と肩を竦める。
俺はどうなってもいいが、さて、彼女をどうやって守る?




