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共和国魔眼事件エルゼターニア-共和の守護者-【完結】  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『共和国魔眼事件』
105/110

オアシス解放戦線、英雄たちの戦い・8

 セーマがシーラと向き合い、別動隊が関所を越えて獅子奮迅の大暴れをしているまさにその頃。エルゼターニアとアインは『オクトプロミネンス・ドライバー』の急激な速度で、中央オアシスユートピアの拠点たる首都を目指していた。

 遥かに霞んでいた都市の姿も、気付けばもうすぐそこだ。臨戦態勢へと移行しつつ、英雄たちは言葉を交わす。

 

「見えてきてますね……とはいえ広い町っすから、どこに首魁がいるのやら」

「一応、ジナさんからお借りしてる中央オアシス首都の地図はあるけど……何しろ戦前の本だし、変わり果ててない保証もないとも言われてるよ」

「15年前っすか! それはまた、年季が入ってますねえ」

 

 懐から古びた地図を取り出すアイン。ジナの所有物だというそれは、15年程前の中央オアシス領全域をそれなりの精確さで記しているのだという。首都を始め要所にある町村の紹介もしており、それなりに見応えのある逸品だ。

 本来であればもう少し新しい地図が欲しいところであるのだが、そうもいかなかった──何しろ戦争中は地図の刷新どころでなく、戦後には『魅了魔眼』によって中央オアシスそのものが掌握されている。恐らくは今手にしているこの地図が、最新最後の中央オアシスの地図なのだろう。

 

 地図と見えてくる実存の首都を見比べ、エルゼターニアは呟く。

 

「……うーん。パッと見は大きく変わったところ、違ったところは見当たらない感じっすねえ」

「いくつか家が違うとか、くらいかな? 行政施設なんかは昔からあるんだろうし、特に変化もないのか」

 

 見えてくる首都の姿は、いかにも砂漠都市と言った風情だ。大きな湖があり、緑はその周辺ばかり。建築物は石と砂、土とで構成されており、乾いた色が延々と広がっている。

 その中を歩く人々はそれなりにいるが、皆どこか虚ろげなものにアインには見えた。ふらふらと力ない様子であるし、誰一人として他者とふれ合っている感じでもない。

 

 昼間の賑わう都市にあっては、無視できない違和感だ。まるで意志を失っているような──

 そこまで思い至り、少年はまさかと呟いた。

 

「『魅了魔眼』の、力なのか? ここにいる人たち、全員操られて意識がないっていうのか」

「ありえますね……関所の人たちも見るからに1000人近くいましたが、やっぱり同じような感じでした。恐らくは『魅了魔眼』、本当に中央オアシス全域の人間を操作してると見て良いっすね、きっと」

「それも何年間も……!」

 

 とんでもない話だと、アインは戦慄した。エルゼターニアも同様で、背筋に走るおぞましさを隠しきれない。

 人間の意識を乗っ取り、己の尖兵として思うがままに操る力。それが悪用されてしまうとこうなるのだ。国が一つ、完全に掌握されている。

 

 生気を完全に失くした町を見下ろして、二人は急ぎ、敵の首魁のいそうな場所を探していく。一刻も早くこの国の、このような状態を解放したかったのだ。

 とはいえこのままではただ闇雲のままだ。どうすべきか……エルゼターニアは考えた。首魁たる者の来歴から、何かしらヒントが得られるかもしれない。

 

「敵は人間……元はオアシスの政治家で、『オロバ』に資金提供をしていた。『魅了魔眼』を手に入れた直後、すぐにオアシスを支配して鎖国状態に持ち込んでいる」

「理由や内実はともあれ、今は国のトップか……だとすると、そんな立場に見合う場所にいるかも」

「政治家にとって、見合う……議事堂?」

 

 アインの意見も参考に、さしあたりの目星を付けてみる。敵が今現在、事実上の中央オアシスを統べる王であることから、それ相応の場所にいることも十分に予想し得る。

 となれば地図を見る。都市の中央、湖のほとり。この辺りでは珍しい木材による建築物──政治家たちの集う行政施設、議事堂だ。

 

 炎竜を向かわせればすぐに辿り着く。華美ではないが実直な印象のある施設で、少なくとも三階建てではあるのだろう、それなりの高さだ。

 接近し、注意深く観察する。すぐに当て推量が存外、核心を付いていたことに二人は気付いた。

 

 一番の高層にある部屋。その窓から一人、男がこちらを見上げていた。他の操られた者には見られない明らかな意志の光と共に、エルゼターニアたちを見据えていたのだ。

 

「当たりっすね。あれが魔眼の使い手かはともかく、恐らく操られていない人物ならば」

「シーラ共々、自発的に首魁の手先をしている可能性があるってことか。なら……!」

 

 呟きと共に『オクトプロミネンス・ドライバー』を急降下させる。アインはここに至り、即断即決だった──奇襲ならば奇襲らしく、不意をつくやり方で突入させてもらう!

 不意にエルゼターニアを抱き寄せる。突然のことに一瞬、戸惑う少女だったがすぐに彼の意図を把握し、頷いた。

 

「アインさん、頼みます!」

「跳ぶよ、エルちゃん! ──『オクトプロミネンス・ドライバー"スプレッドバースト"』ッ!!」

 

 そのまま議事堂の直上から跳び下りる。同時にアインは技を放った。『オクトプロミネンス・ドライバー』が派生形の一つ、"スプレッドバースト"だ。

 炎竜を無数に分散させ、広域を制圧し足止めや牽制を行うこの技は、今回目眩ましにも用いられた。議事堂の周辺を目映い程に飛び交う小さな炎が、件の男の目をも引くことだろう。

 

 であればこの好機、存分に衝くべし。エルゼターニアもまた行動を起こした。

 ルヴァルクレークにボトルをいくつか装填する。内一つは50%の出力解放を行うためのものであり、すぐさま秘めたる力が発動していく。

 

「『ルヴァルクレーク"クイックフェンサー"』! 直下、部屋を撃ち抜きます!」

「任せる! ──『ヴァーミリオン』!!」

「──『プラズマスライサー』! 、削り、穿ち、撃ち抜けぇっ!!」

 

 身体機能の大幅な向上を果たす『クイックフェンサー』を発動。それと同時にアインも『ヴァーミリオン』を発動し、エルゼターニアを抱き寄せつつも真紅のコート、そして『焔星剣』を発現させる。準備完了。

 そして──ルヴァルクレークを一振りし、『プラズマスライサー』は放たれた。いくつかの電磁光輪が飛び交い、降下中の二人の真下、敵のいるであろう部屋の真上を切り裂く。

 

 一撃、二撃、三撃。とどめの四撃で以て議事堂の床には大穴が空いた。部屋への直通ルートが拵えられたのだ。

 後は重力に任せて降下するのみだ。エルゼターニアでは身体機能を増幅させたとて厳しい高度からの落下であったが、抱き寄せるアインは亜人にも匹敵する頑健さを誇る。この程度ならばまったく問題なく飛び降りることができた。

 

「……っと! よし、降着!」

「共和国治安維持局特務執行課、『特務執行官』エルゼターニアだ! 中央オアシスの現状、及び『オロバ』との関係について取り調べを行う! 大人しく指示に従え!」

 

 着地して直後、エルゼターニアの大声が響いた。天井を撃ち抜いたことでいくらか瓦礫と粉塵とが舞う視界の中、窓際にたしかに男が一人、立っているのを見る。

 スーツ姿の中年男性だ。登頂部はいくらか禿げており、肥満体型と相まって健康そうな風貌はしていない。それでいて瞳はどこか凪いだ、落ち着き払った静かさを孕んでおり、ただ者ではないことを二人に示していた。

 

「……ようこそ中央オアシスユートピアへ。まずは諸君らを歓迎しよう。外敵であれ、我が理想郷へとやって来たからには私は喜ぶとも。ああ、嬉しいとも」

「我が理想郷……貴様が、『魅了魔眼』か!?」

「いかにもその通り。『オロバ』より得た神力たる魔眼にて理想郷を構築した、私こそが中央オアシスユートピア大総統」

 

 鷹揚に両手を広げ、微笑みと共に告げる。奇妙なまでの余裕と自信が感じられる仕草と共に、男は──中央オアシスユートピア大総統は名乗りをあげた。

 

「──ザロンストンである。『特務執行官』エルゼターニアとやら、そしてそこの……誰かな、少年?」

「……S級冒険者、『焔魔豪剣』アインだ」

「ほほう? ふむ、それなりの手合いと見るが……」

 

 アインの、S級冒険者という肩書きを耳にして意外そうに方眉を上げる。そんな動作にすら余裕が垣間見える男、ザロンストンはやはり満足げに笑う。

 いちいち芝居がかった男だ。どことなく全体的に本音の見えてこない相手というのが、ひどく薄気味悪く思える。そんなエルゼターニアたちに向け、やはり大総統は過剰な手振りと共に言った。

 

「喜ばしいぞ、我が理想郷に新たなる戦士が増える。君たちの仲間も含め皆、心から頼れる同士となるだろう」

「同士? ……まさか、僕らを操るつもりか!?」

「無論のことだ! のこのことよくやって来てくれたな力ある無能たちよ!!」

 

 突如ザロンストンの瞳が煌めいた。白い光を放ち、無限エネルギーを現出させていく。途方もない熱量だ……制御など微塵も考えられていないかのような渦巻く力の奔流。

 『魅了魔眼』が来る。察知して身構えるエルゼターニアとアインに、無駄だと中央オアシスユートピアの大総統は嘲笑いの叫びをあげる。

 

「中央オアシスユートピアはこれで磐石のものとなる! 私の、私による、私のための理想郷がより完璧なものとなるのだ!!」

「エルちゃん!」

「分かってます、防御を!」

「無駄だ無駄だ無駄だ! 洗脳し、操り、好き放題にしてくれる──『魅了魔眼"ワンダフル・ワールド"』ッ!!」

 

 能力の発動と共に、ザロンストンの瞳から無限エネルギーの波動が拡散して放たれた。空間を著しく揺さぶる衝撃がエルゼターニアとアインにダイレクトに響き、その脳髄を犯さんと五感全体を刺激する。あまりに気持ちの悪い衝撃。

 

「ぐっ、う──!?」

「これが、魔眼の……っ!!」

 

 呻くエルゼターニアとアイン。体にへばりつくような、粘膜とでも表現できそうな質量のあるエネルギーが、彼女と彼のすべてを支配せんと目論む。精神を凌辱する波動。

 ──これこそが『魅了魔眼』の真髄であった。対象の肉体に纏わり、五感に異常をきたさせ、精神を都合の良いように改竄するおぞましい洗脳。これを以て男は、中央オアシスの人々を一人残らず洗脳したのだ。

 

「まずは二人。次いで仲間の連中も洗脳する! ふふふ……わざわざ国に殴り込みをかける輩どもだ、相当な実力者ばかりだろう。精々ありがたく使わせてもらうとしようか──」

 

 新たな手駒が増えたことを確信し、ザロンストンは鼻息も荒く笑った。何しろ『特務執行官』はよく分からないが男の方はS級冒険者という話だ。いささか若すぎる気もしないではないが、先程の謎の炎を見れば実力ある戦士ということに疑いはない。

 シーラをも超える力を我が物とできた。そしてその仲間たちも直、掌中に収まるだろう。人間であるならば必ずや支配できる無敵の能力なのだ、『魅了魔眼』とは。

 

 これにて中央オアシスユートピアはより磐石となるのが確定した。ますます、理想郷は理想郷となるだろう。

 やり遂げた笑みを隠すことなく、ザロンストンは目の前の新たな手駒たちを見る。今は抵抗しているが、すぐに反抗しなくなるはず──

 

「まて、抵抗だと? 私の、『魅了魔眼』にか」

「──こんなものか、大総統ッ!」

「無限エネルギーよ、僕らを護れっ!!」

 

 本来ならば抵抗などできるはずもないものを、抵抗している二人の様子に訝しさを覚えた直後だった。エルゼターニアとアインは纏わりついていた洗脳の波動を、己の持つ無限エネルギーにて吹き飛ばした。

 それぞれエルゼターニアは『転移魔眼』とルヴァルクレークから。アインは星の端末機構としての権限から。『魅了魔眼』に匹敵するかそれ以上の力量を解き放ち、支配せんとする力に打ち勝ったのだ。

 

「な──っ!? 馬鹿な、私の、星の無限エネルギーを!?」

「何の手立てもなくここまで来ると思うか、ザロンストン! 私もアインさんも、無限エネルギーを扱える!」

「お前の『魅了魔眼』は僕らには通じない……覚悟しろ。人を操る邪悪な目玉、今ここで潰してやる……!!」

 

 余裕一点、心底から驚愕するザロンストン。反して気炎をあげ、武器を構えるエルゼターニアとアイン。

 『魅了魔眼』封殺。英雄たちの攻勢が始まろうとしていた。

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