高く高くその手を掲げて!S・S・S~(セインステッキストーリーズ)よりAct5
ワタシが・・魔王っ娘!?
姫那は、嫌だった。勉強するのがではない。あの魔獣鬼の女が・・蜘蛛女魔獣鬼マギキが、嫌いなだけだった。いずれ訪れる別れを予感して・・・。
「姫様!魔王姫様!何処です!?」
ワタシを探している声がする。
ー見つかったら、また閉じ込められちゃう。ー
そのまま門番の部屋の片隅で、息を殺してじっと隠れる。
「早く出てきなさい。魔術学の時間です。このマギキがお教え致しますから、早く出てらっしゃい。」
ーまた、あの魔獣鬼が呼んでいる。あの蜘蛛女、嫌い。だって、ワタシを泣かすんだから。-
ワタシはボソッと、口走る。
「あの魔獣鬼の女、何時もワタシが失敗すると笑う。魔王姫のくせにこんな事も出来ないなんてって。何時もお母さんの悪口を言う。だから、人間とのハーフは駄目なんだって。嫌い、マギキなんて、大っ嫌い!」
ワタシは、膝を抱えて小さくなって隠れていた。
「姫様、またこんな所で・・・。良いのですか?マギキ様が、お探しになられているのに。」
優しく声を掛けてくれる方に顔を向ける。そこには、この城で唯一人ワタシの味方をしてくれるコヨーテの魔獣鬼犬端が、立っていた。
「あっ、ケンパ。静かにして、見つかっちゃうから。」
「姫様、お戻りになりませんと。また後で酷い目に合わされますよ。」
心配そうな顔で、ケンパが言ってくれる。
「ねぇ、ケンパ。またお話を聞かせて、そうしたら戻るから。ねぇ、お願い。」
ワタシを見つめて、ため息を吐いて、
「それでは、約束して下さい。お話を聞いたら、お戻りになられると。」
ワタシは微笑んで、
「うん!約束する。」
そんなワタシを優しい目で見て、
「それでは、何をお話しましょうか?」
ワタシは、今一番のお気に入り、
「じゃあ、人間の、人間界のお話をして!」
無邪気にお願いした。
「ははは、また・・ですか?・・それでは・・。」
ケンパが、お話をしてくれる。ある人間の話を、人間界のお話を。ワタシは、夢心地でケンパの語るある男の人の話を聞いた。
<ガゴオオッ>闇の住人に、魔導剣が突き刺さり、一瞬にして粉々になる。
男の名は龍牙。龍の鎧を身に纏った獅騎導士。
「やりましたね。龍牙先輩。」そう言う聖導士に、
「この様なザコ等、話にもならない。もっと強い相手と戦って勝ち、レベルを上げなくては。」
龍牙が、聖導士に告げる。
「そして、オレは伝説の騎士となる。黄金の騎士に。」
自らの希望を口にすると、剣を振り下ろして鎧を解除する。龍牙は、黒い聖導衣を靡かせて立ち去る。
「まっ、待ってください。龍牙先輩!」慌てて聖導士も、後を追う。
「早くしろ!優那。置いていくぞ。」
ぶっきらぼうに言う龍牙の後を、ちょこちょこと付いて行く美しい聖導士、優那。その顔は、龍牙に憧れている少女の顔。愛する人を見つめている瞳は、美しく輝いていた。
「・・・。愛するって何なの?」
ワタシがケンパに訊くと、
「はっはっは、人の世界で最も大切な事ですよ。そこに人間の力が有るのです。覚えておいて下さい姫様。」
ケンパが、ワタシの頭を撫でて、こう言った。
「ふーん。人間の力の元ってことか。愛って・・。」
「人間が、恐るべき力を発揮する事が出来るのも、愛あるが故ですから。」
「ワタシ達には、脅威って事ね。で、続きを聞かせて。」
ワタシはお話をせがむ。
「はいはい。では、その勇者のお話の続きを・・・」
「西の魔王、怒留斗!お前を倒して、オレは黄金騎士となる!」
龍牙が剣を振り上げ、魔王に挑む。
「龍牙先輩、気をつけてください!」
優那が、右手のブレスレットから魔法陣を作り、
「聖音玉!」龍牙に力を与える。光り輝く龍の鎧を着た龍牙が、魔王に剣を振る。
西の魔王怒留斗は、よろめきつつ呪を放つ。
その闇の呪法を剣で受け流して、さらに強力な技を発動した。
「獣王壊破斬!」龍牙の全力剣波が、怒留斗を斬った。魔王は、もろに斬られて最期の呪法を放った。
「闇界変魂」
魔王の呪いが龍牙を包む。
「龍牙先輩!」優那の叫ぶ声と共に、魔王は粉々に砕け散った。
闇のオーラに包まれた龍牙を、優那が呼ぶ。
「龍牙先輩、大丈夫ですか?」
龍牙を包んだ闇は、程なく消えさった。・・だが、
「龍牙先輩!魔王を倒せたんですね。良かった。」
ほっと喜ぶ優那に、龍牙は振り向きもせずに言い放った。
「ふっ、ははっ!優那。オレはなったぞ!」
そんな龍牙に、不思議そうな顔をして優那が聞き返す。
「?何になれたのですか?」
龍牙が、優那に振り向いた時、その顔は不気味に笑っていた。
「!せ・・ん・・ぱ・・い・?」
「はっはっはっ!オレは、最強になった!誰よりも強くな!」
そう叫ぶ龍牙の瞳は、血を流したよりも赤黒く、澱みきっていた。
「龍・・牙・・・先輩?」
優那は、訳が判らず龍牙の傍に立ち尽くしている。
「オレは、西の魔王。この世で最も強い男だ。」
「龍牙先輩?何を言ってるんです。貴方は獅騎導士、守りし者なのですよ?」
「はーっはっはっはっ。それは今迄の事。これからオレは、闇の支配者、ダークホラー龍牙だ。」
優那はやっと理解した。怒留斗の呪法で、龍牙は闇へ落とされてしまった事に。
「いっ、嫌です。龍牙っ、目を醒まして下さい!」
龍牙は優那に言った、闇の王の言葉を。
「優那、オレと共に来るのだ。最強の王の元へ。」
優那は思った。その想いは、真っ直ぐだった。
ー私は龍牙を、救いたい。その為なら闇の中でも、何処へでも一緒に行きたい。愛する龍牙を救う為なら。-
優那は龍牙を見つめて、
「行きます。あなたと・・・龍牙と共に。」
龍牙の差し伸べた手を握って、優那は闇に飲まれていった。西の魔王と共に・・・。
「・・・・。ケンパ、ありがとう。」
ワタシは震えながら、礼を言った。
「姫様、続きは・・御自身で、お調べ下さい。これが私の知るあらましですから。」
ケンパは変わらず優しい瞳で、ワタシを見ている。その瞳に、真実を語れた安堵を浮べて。
「うん。知りたくなったら・・・お父様に訊くわ。」
「・・・。お答えには・・ならないでしょう。それから、あの女官にはくれぐれもお聴きにならない様に、ご注意くださいませ。」
「うん。ありがとうケンパ。またお話聞かせてね。」
「姫様が、お望みなら。私は姫様の、お父様のお味方ですから。悲しい時は何時でもお呼び下さい。何処へでも参上いたしますから。」
「うん!ケンパ、宜しくね。」
ワタシは、門番の部屋から城の奥へと戻った。そしてお父様の部屋へ行く。確かめたい事があるから。
「お父様、いらっしゃいますか?」
ワタシの声に、
「何か用か、姫・・那・・よ。」
玉座に座ったまま、お父様が私に訊く。
「お父様にお伺いしたい事があります。」
ワタシは、意を決して訊く事にした。ケンパが言った様に答えは返ってこないものと思ったが。
「お父様は、どうして魔王になられたのです?どうしてお母様は、死んでしまったのです?どうしてワタシが、産まれたのです?どうして・・・。」
ワタシが必死に訊くのを、手で制して、
「姫・・那。お前は魔王の姫として生まれた。その運命は、変えることは出来ぬ。それが事実。私が魔王なのも事実。変える事が出来ぬ事実なのだ、」
ーお父様はやはり、答えてくれない。-
ワタシは悲しくて、下を向く。涙が零れて床にポツポツと落ちていく。その時、
「!え!?」
ワタシの頭に、優しく手が乗った。
見上げると、お父様がワタシの頭を撫でてくれている。
ーお父様?どうして?-
ワタシは、こんな優しいお父様を始めて知った。
「姫那。何故泣くのだ。その涙は誰に向けてのものだ。」
ワタシは素直に答えた。
「ワタシ、悲しくて。お父様に本当の事を教えて欲しいのに、答えてくれないから。お父様は、何時も一人で悲しそうな瞳でワタシを見るから。」
頭を撫でてくれていた手が止まる。ワタシは、そっとお父様を見上げると、その顔が、瞳が悲しげに歪んでいた。
「お父様?」ワタシが心配になって訊くと、お父様が苦しそうに頭を押さえて、
「すまない、姫那。すまない、優那。」
お父様の口から、信じられない謝りの言葉が出る。そう、その名は。
「姫那の母を殺したのは、この私なのだ。この西の魔王、龍牙なのだ。」
ーどうして?お父様。何故お母様を殺してしまったの?-
ワタシは泣きながら、お父様を見上げる。
「姫那の母は、優那はオレを闇から救い出そうと何度も試みた。そう、何度も。オレを愛するが故に。姫那、お前が生まれたのも、優那がオレを愛するが故。・・・だが、魔王の呪いは強い。オレは闇から抜け出せず、優那を救えなかった。優那は、オレの前で・・呪いと闘って敗れて・・そして・・オレが殺した。この手で。」
あまりにも、ショックだった。ワタシは目の前が、真っ白になって行くのを感じて、足をガクガクと震わせてお父様の話しを聞いている。
「お父様?どうして?話してくれたの?今、お父様は闇から解放されてるの?だったら。」
「だめだ、姫那。優那の時もそうだった。呪いは強い。まもなくオレは、また闇に堕ちるだろう。それに、オレは汚れてしまった。もはや、守りし者へ戻る事は叶うまい。」
「そんな・・。お父様、だったらせめて闇の魔王を辞めて。ワタシと一緒に何処か遠くへ行こうよ。誰にも見つからない所へ・・・。」
ワタシが泣きじゃくりながら、お父様へ願うが、
「姫那。許してくれ。お前の言う通り、魔王は辞める事になる。・・が、その時私も消え去る事になる。それは、私の願い出もあるのだ。姫那、一緒に行く事は出来ない。私は新たな魔王によって、滅ぼされる事になる。そうする事だけが優那に逢える唯一の方法なのだ。だから姫那、お前は人間界へ逃れろ。力を隠して人間界で人として生きるのだ。いいな、解ってくれ。」
ーお父様、ワタシ一人でどうして生きていく事が出来るの?嫌だ、嫌です。ワタシも一緒にお母様に元へ逝かせて。-
「嫌!ワタシもお父様と一緒に滅ぼされたい。お母様の元へ行きたい。」
必死にワタシは、お父様に願うが。
「姫那、駄目だ。これが父の最期の願いだ。優那と約束したのだ。姫那だけは、闇から救うと。闇に囚われない様にすると。・・間も無く私は次の魔王となる者に滅ぼされる。その時お前までが滅ぼされては、優那との約束が守れない。」
ワタシを諭す様に言うお父様が、
「さあ、今すぐこの城から出て、人間界へ行け。供に、この男を付ける。ケンパよ、近くに!」
お父様の招聘で、ケンパが現れる。
「ケンパ!魔王の命だ。我が娘、姫那を守って人間界に行き、命ある限り娘を守りぬけ。」
ケンパは、ワタシとお父様の前で跪き、
「御意。」と、一言告げた。
そしてワタシの前に進み出て、
「姫様、お供致します。さあ、参りましょう。」
そう言って、ワタシを抱き上げた。
「まっ、待ってケンパ!ワタシはお父様と離れたくない!お父様と一緒に滅ぶっ!」
ワタシはケンパから離れようともがくが、
「姫様、お許し下さい。龍牙様の命ですので。」
そう言って、魔獣界のゲートを開いた。
「嫌っ、嫌ぁっ!お父様っ、お父様ぁっ!」
ゲートに入る時、最期に見えたお父様に届かぬ手を伸ばして、ワタシは声を限りに叫んだ。
「姫様、姫那様。」
ケンパの声がする。
ワタシは泣き疲れて、眠っていたみたいだ。
「う・・ん。ケンパ?ここは・・何処?」
見開いた瞳に眩しい光が差し込んでくる。
「人間界です。・・ここは、人間界。」
ケンパがワタシを抱き起こして言った。
「・・ここが・・人間の住む世界。夢にまで見た人間界・・なんだ。」
ワタシの目には、緑の山や、青い空。それに遠くに見える街並み。
「そうです、ここが人間の住む世界、人間界です。」
ワタシの肌に、気持ち良い風が触れる。
「?これは・・何なの。気持ち良い。」
ワタシが不思議そうにケンパに訊く。
「これが、”風”と言う物です。姫様。」
ワタシは立ち上がって、全身に風を浴びる。ワタシのドレスが、風に靡いて踊る。
その姿を眩しげに眺めているケンパが、急に険しい顔になって、
「姫様、危険が迫っています。どうぞ此方へ。」
ケンパがワタシの手を手を取って、林の中へ走る。
「どうしたの?ケンパ。」
ワタシが心配になって訊くと、
「どうやら人間に、守りし者に嗅ぎ付けられた様です。今見つかれば闘う事になりましょう。それでは、姫様をお守りする事も出来なくなってしまいます。ここは隠れてやり過ごす事にしましょう。」
「うん、ケンパがそう言うなら。」
ワタシとケンパは、林の木陰で息を殺して隠れた。そして・・・。
「ダークホラー!隠れても無駄だ。出て来い。」
人間の男が現れて、ワタシ達を探している。
ワタシが声を潜めてケンパに訊く。
「あれが・・守りし者・・なの?」
「そうです姫様。ヤツは守りし者、獅騎導士。聖なる剣士です。レベルは、解りませんが手強い相手には違い有りません。」
「ふーん、そうなんだ。」
ワタシは目の前に迫るその男に、興味を持った。
「ケンパ、あの男ってどれ位強いの?ワタシより強い?」
そう言って、もっと良く見ようと少し背を伸ばしてしまった。
「いっ、いけません!姫様!」ケンパが止めるより早く、獅騎導士に見つかってしまった。
「そこかっ!ダークホラーめ!」
男は右手を高く掲げて、光の中から剣を出してうむを言わさず、斬りかかって来た。
「きゃあっ!」
ワタシを狙って、剣が振り下ろされる。光の剣波が、襲い掛かって来た。ケンパが咄嗟にワタシを庇う。
「ぐっ!」
庇ったケンパが苦痛に呻く。
「ケンパ!大丈夫?」
ワタシは慌ててケンパを見ると、背中を浅く斬られている。
「ケ・・ン・・」
その傷を見たワタシの心に、黒い怒りが湧き起こる。
「ケンパを傷付けた。ケンパを斬った。ワタシを守ったケンパを傷付けたな。許せない。許さない。」
ワタシの体から闇のオーラが湧き、瞳が紅く輝きだす。
「くそっ!女の子の姿のダークホラーか。」
獅騎導士はそれでも、剣を振り上げ鎧を召還し、
「ダークホラーならば関係ない。切り捨てるまで。」
そう言ってワタシに斬りかかろうとして、剣を振り上げた。
「許せない。」
ワタシの片方の瞳が金色に輝き、怒りに任せて胸の奥から湧き出た呪文を男に放った。
「魔導炎弾!」
ワタシが右手を振り払って、男に手を向けた。その手の先に魔法陣が現れて、強大な炎の玉が獅騎導士に炸裂した。
「ぐああっ!」
もろに喰らった男は、吹き飛ばされて、戦闘不能になった。
その倒れた姿を見て、ワタシの怒りは治まっていく。それと同時に、闇のオーラも消え、瞳の色も元の栗色に戻る。
「ケンパ!ケンパ大丈夫?」ケンパに訊くと、
「姫様、私は大丈夫です。姫様はいかがですか?」
「うん、大丈夫っ。」ワタシはケンパに涙ぐんで謝る。
「ごめんね、ケンパ。ごめんなさい。」
そんなワタシを優しく抱きしめて、
「姫様、お優しい私の姫様。もう泣かないで、泣かないで下さい。ワタシが必ず、必ずお守り致しますから。」頭を撫でて、ワタシを落ち着かせようとしてくれる。
「う・・ん、ケンパ。守ってね、ワタシの事を。」
ワタシはケンパの頬に、そっとキスをした。そして、
「ねぇ、どうしてそんなに優しいの。どうしてワタシの事を守ってくれるの?」訊いてみた。
「それは・・姫様の事が大事だから。姫様だけが私と仲良くして下されたから。・・です。」
ーそう、ケンパはワタシと同じ・・。何時も一人ぼっちで、悲しそうな顔をして、城の門番として勤めていた。そんな彼と仲良くなるのには時間は掛からなかった。-
「そっか、・・ワタシね。ケンパの事、好きだよ。」
そう言って、ケンパの胸に抱きついた。
「ひっ姫っ!姫様っ、いけませんっ。下僕にその様に言われましては。」
ケンパが動揺して、ワタシを押し退ける。そんな彼に、
「ケンパと一緒なら、何処へでも行ける。どんなに苦しくったって、我慢するから、離れないで離さないでね。お願い。」
ワタシの願いに、顔を赤くして。
「このケンパ、姫様とでしたら、何処へでも参りましょう。生得る限りお守り致しましょう。」
誓いの言葉と、手の甲にキスをして、生涯の忠誠を誓ってくれるケンパ。
夕日が赤く照らす中ワタシとケンパの影が、長く伸びていく。
そしてケンパとワタシの旅が、始まった。やがて追ってくる魔の手から逃れる為に。
あの日が来るまでは・・。あの娘と、出会うまでは・・・。
ヒナの、幼き日々は、凄惨な出生の秘密と供に、明らかにされていきます。そして、
同じく凄惨な過去を持つ者と出会い、心を通わせていくのです。
次回!出会い
次回も読んでくれなきゃ駄目よーん!




