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世界混合  作者: あふろ
第四章 未来への道程
70/145

70.ウィザード

『「榴弾砲」だッ!』


 青木の口から突然出て来た聞いた事のない単語に、全員が首をかしげた。

 かなり危険な物である事を伝えたい。だが、どう説明すればいいのか。考えているうちにも榴弾砲が火を噴いてしまう。


『なにそれ?』

『でかい銃みたいな物だ!』


 投げやりな返答をする。一言で言えば大砲なのだが、生憎この世界にそんな物は存在しない。銃だと言っておけば、最悪ミクシードだけでも理解してくれるだろう。

 魔法を撃つにしても、少し距離が離れている。ジータがミクシードにアイコンタクトした。


『……銃? ふーん、とりあえず銃なのね?』


 言いながら、ミクシードがマスケットを構える。

 二発の銃声が鳴った。

 遠距離まで簡単に魔法を飛ばせるのが魔法銃の利点だろう。一瞬のうちに砲身が氷漬けにされる。

 砲口を塞がれた榴弾砲が暴発し、周りのスケルトンを巻き込んで黒煙を上げた。


 絶え間なく現れるスケンルトンを、ジータが魔法で蹂躙しながら進む。

 青木も微力ながら小銃で応戦するが、すぐにマガジンが空になってしまった。急いで予備と取り替えていると、ふと、スケルトンの持っていた機関銃に目がいった。

 わざわざ貴重な弾丸を使わずとも、その辺に転がっているこれを使えばいいのではないか。

 そう思って機関銃を拾い上げる。


『それ使う気?』


 ジータが青木に尋ねる。


『そのつもりだが……駄目なのか?』

『別にいいけど、あまり役に立たないわよ』

『どういう事かね?』

『それはスケルトンの一部、魔力体よ。しばらくしたら魔力が迷宮に吸収されて、蒸発してしまうわ』

『ふむ……』


 そういう物なのかと思う一方で、どうしても納得がいかない。

 手に伝わる感触、重さ。紛れも無く本物だ。

 試射してみる。連射音と共に弾丸が飛び出し、硝煙の匂いが鼻をくすぐった。これが消えて無くなってしまうとは、にわかに信じがたい。


『しかし、やべえな』


 バーニィが汗を拭う。

 スケルトンの猛攻はいつの間にか止み、周囲は不気味な静寂に包まれていた。

 ジータがいなければ、最初の時点で間違いなく全滅していた。この迷宮は、最難関とされる監獄迷宮の最深部にも匹敵する。


『あとどのくらいだ?』


 バーニィの声には後悔の念が入り混じっていた。どう考えても、報酬額と仕事の内容が釣り合っていない。

 入ってしまった以上、進む以外に道はないのだが。


 そこからは静かなものだった。まだ成長途中の迷宮で、魔獣(スケルトン)の数もそれほどなのだろう。完成してしまえば、と思うとぞっとする。

 進むに連れて、前衛二人の表情が険しいものになっていった。どんどん魔力が強くなっている。迷宮の核がそろそろ近いらしい。


『どう思う?』


 アルガンが独り言のように呟く。

 それはこの静けさの事を言っているのか、それとも異人の武装をした魔獣(スケルトン)の事を言っているのか。


『どうってそりゃ、こりゃ、あれだろ』


 迷宮を満たしている魔力の事だ。

 入った時は微かなものだったが、ここまで来るとはっきりとしたものになった。

 やはりこの魔力は知っている。二年前に嫌というほど感じたものだ。


『なに?』

『何かね?』


 ミクシードと青木の声が重なる。

 二人が知らないのも無理はない。ミクシードは二年前、この地にいなかったのだし、青木はそもそも魔力を感じる事ができない。

 バーニィが少し言いにくそうにしながら、


天使族(エンジェル)の持ってた魔力なんだよ』

『二年前にあなたたちが戦ったっていう?』


 ミクシードが反応した。

 二年前にあった創世の女神との戦争の事はミクシードも聞いていた。もちろん青木もだ。

 この大陸で暮らせば嫌でも耳に入る。


『こんな時に何なんだがよ、お前、何者だ?』

『おい、バーニィ』

『アルガンは黙っててくれ、おかしいだろ? 見た事ねえ種族で、しかも女神大戦の事も知らねえってどういうこった? まさかお前もアオキと同じで異世界から来たってか?』


 まくし立てる。


『ワタシ、ジータノツクッタ、マホウニンギョウ』

『嘘つけ!』

『うん、正解! 嘘だってよくわかったね、もしかして天才?』

『二人ともそろそろ黙って、何か来たわ。アオキ、あれは何?』


 バーニィとミクシードの言い合いが遮られた。

 前方からは、図体のでかい車両が向かって来る。榴弾砲があったのだ、これくらいはあってもおかしくない。


『そんな……』


 頭の片隅にはあった事だ。

 だが、実際に目の前に現れると、どうしようもない無力感に襲われる。


『「キュウマル」……。戦車と呼ばれる物だ。突き出た筒から爆発物を発射する。とにかく硬い』

『そう、ありがとう。でも硬さなんて関係無いわ。美しく散りなさい、破滅の恋歌ルイナ・デル・アモール


 生身の人間がセラミック系複合装甲を持つ戦車と張り合って、勝てるはずが無い。そんな青木の絶望を嘲笑うかのように、一瞬で決着が付いた。

 ジータの魔法ひとつで戦車が大破する。閃光に目が眩んだかと思うと、爆発して玩具のように転がっていた。


『主が来るわね』


 ジータの声は騒音に掻き消された。

 青木だけが、騒音の正体を知っている。少し懐かしくも思うローター音だ。

 同時に、建物の隙間から吹き付ける爆風に身体がぐらつく。かなりの近距離にいるらしい。

 ここまで巨大な物は存在しなかった。これも魔力の悪戯なのか、通常では考えられない大きさのヘリが、町並みに浮かび上がった。


 やや太い胴体に機首のセンサー、ローターマスト上にはロングボウレーダー。見間違えるわけがない。

 あれは混乱の中で奪われたはずの戦闘ヘリ、AH-64Dだ。全長約十八メートル、全高約五メートルだったはずだが、優にその三倍はある。

 当然、武装も冗談のように大きい。

 二基ある七十ミリのロケットランチャーは、もはや戦車のそれだ。十九発、それも二基分で三十八発が飛んで来たとなると、周辺一帯は跡形も無く消し飛ぶだろう。

 巨大化した対戦車ミサイル、AGM-114ヘルファイアに至っては、どれほどの威力を秘めているのか想像も付かない。


 馬鹿馬鹿しい。ちっぽけな人間の抵抗に、一体どれほどの意味があるというのだろうか。

 ジータの言葉通りであれば、消耗品はいくらでも湧いて出る。彼女の障壁がいつまでも耐え続ける事ができるとは思えなかった。


『なんだ、ありゃああ!』


 バーニィが狼狽えている。

 ヘリもそうだが、その声はまた別の部分に向けられていた。

 注目するのはコックピット。乗務員はスケルトンではなかった。

 金色の光を纏う、背に翼を負った女性の姿がそこにあった。ただし、力無く項垂れていて、おそらく意識は無い。


『この魔力の正体はやっぱり天使族(エンジェル)だったか!』


 バーニィが吼える。戦意を失うどころか、むしろ高潮していた。

 ゆっくりと浮上するヘリに視線を向けたまま、ジータが青木に訊く。


『あれの弱点は?』


 弱点と言われても咄嗟には出てこない。最強と謳われる戦闘ヘリだ。

 狙うならばローターか、積んである武装だろうか。狙えるのであればの話だが。

 その程度の事しか思い付かない。


『そう、よかったわ。簡単で(・・・)


 青木の聞き間違いか。

 聞き返す間もなく、ジータが魔法の生成に入る。


『――彼を永遠にあたしだけのモノに、憎愛の凶刃フィロ・エルオディオ・アモール


 高速回転のローターが急激な上昇を見せる。反対に、機体は重力に負けた。

 飛ぶ術と切り離されたそれは、無様な音を立てて地に伏せた。

 一部始終を見届けた青木だったが、何が起きたのか理解が追い付かない。


 最強のヘリは最強のウィザードを前に、何の力も示す事ができなかった。

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