もしかして:ハーレム候補?
オラオラと無双がしたい。
前の世界ではただひたすらに修行にあけくれた。
たまに漫画を読んだりゲームをしたりしたりしてストレスを発散させたりもした。
特に好きだったのが、漫画全般…そしてゲーム、とりわけ格闘物と無双物が好きだった。
無双、男なら誰もが憧れよう…有象無象どもを自分の槍や拳でばったばったと倒しまくる…前の世界で似たような状況に陥ったことはあったが、それは命がかかっていたし、敵は銃で武装していたりでとても楽しむ状況ではなかった。
動物相手に無双というのも、うるさい団体がいたりして無理だったし、どこにいくにも人がいるためすることができなかったのだ。
しかしこの世界は違う…人に対して無双は戦争でも起こらない限り無理だろうし、そもそもあまりしたくはない。
しかしどうだ、この世界には魔獣があふれている。
――無双できるのでは。
俺はそんな期待をさせる張り紙を、手に取っていた。
―――求む!ビックモンキーの討伐協力者!
どうやらビックモンキーとやらが発情期から繁殖期にはいり、大量発生するらしい。
毎年この時期になると張り出されるクエストだそうだが、今年は輪にかけて数が多いらしい。
1匹見ると30匹は覚悟、どこぞの黒いアレのようだ。
深い奥地では数百単位でいるとか言ううわさもある…。
それを見た俺は、リミッターの確認と、己が欲望のために受けることを決めたのだった。
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「こんにちは、シエルさん。このクエスト受けますー。」
「こんにちは、ケイジさん。わかりました、これBランククエですけど…まあ貴方なら大丈夫でしょうね。」
何を根拠に考えているのかはわからないが、彼女は元Aランク、リミッターをかける前の俺を見ているわけだし何かを感じとったのだろう。
さすが…さすがE…否Aか。
「そういえばプリメラちゃんは?一緒に行かないんですか?」
俺が彼女の家にお世話になっていることは、もう知っているようだ。
「ええ、彼女はしばらく安静にするみたいです…」
クエストにいくが、お前はどうする?と聞いた瞬間、プリメラはプルプルと震えだしトイレに駆け込んだ。
今度お見舞いの品でも持っていってやろう…シールさんにも世話になったしな。
「そんで俺も今日からは街の宿にうつるつもりです。
そういえば、どこかお勧めの宿ってありますか?
あんまり高くなくて、できれば飯つきのところ。」
「ギルドを出て東にいったところに、おいでやすー、って宿があるわ。
B・Cランクに人気の店ねー、高くもなく、料理がおいしいのよ!
そんでもって温泉がついてるの!!
夕方だと人が多くなるから、今から狩りに行く前に予約しておいたらどうかしら。
私の名前を出せばちょっと割引してくれるかもよ?」
彼女はウィンクをさせながらドキっとする顔で俺に言った。
落ち着け俺、勘違いするな、彼女は優しいのだ。
こんなむさくるしい俺に好意などあるわけがない。
って言うかなんだよ、おいでやすって!おまえ絶対京都だろ…
きたないさすが京都きたない…こんな言葉で俺の心を刺激するなんて…
悔しい…でもそこに行っちゃう…ッ!
「わ、わかりました。ではクエストに行く前に寄ってみますね。
ありがとうございます!」
―――ケイジは知らなかった。彼は俗に言うイケメンな部類に入ることを。
また前の世界ではむさくるしい筋肉も、この世界ではたくましく映るのだということも。
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シエルさんが言っていたのはここか…。
俺は木造のいかにもファンタジーにでてくるような、THE・宿屋!といったものの前に立っていた。
1階は半分が食堂兼酒場、厨房に管理人部屋、2・3・4階が宿屋らしい。
そんなことを考えていると…
「うるっさいわね!しつこいのよあんた!
私たちだけで大丈夫だっていってるでしょう!」
甲高い声がきこえたと思ったら、宿屋の扉がはじけるように開き、何かが飛び出してきた。
すぐに人だと認め――まあ気の気配で元からわかってはいたが――、それに手を差し伸べたところ…
むにゅっ…
「「~~~~~~~~~~~~~ッッッッ!!?1!?!?」」
俺と倒れこんできた女、二人は声にならない声を上げた。
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私の名前はエリーシア、Cランクハンターだ。
友人のノゾミ――彼女はBランクハンターで、たまたま同じクエストを受けてから仲良くなり、ここヒーヅルで共に活動をしている。
今日は私が、新しい素材が欲しいということでビックモンキーの大討伐を受ける話になっていたのだ。
ビックモンキーの群れの中にはボス的なものがおり、そいつが落とす素材が欲しい。
まともに戦えば、二人ではきついかもしれないが、罠等を有効に使えば勝算は十分にある。
いざとなれば逃げる手段も用意した。
宿屋で遅めの朝食をとりつつ――この宿の飯はおいしい――彼女とボスの倒し方について作戦を確認していたのだ。
すると、自称Bランクの男が手伝ってやろうと会話にはいってきたのだ。
女二人でPTを組んでいるのだ、こういった輩は多い。
どう見ても下心丸見えです、本当にありがとうございました。
声をかけてきた男…名前も覚える気はない、あいつはずっとノゾミの胸を見ていた、クソッ…彼女はFで私はAだ…違う!彼女はBランク、私はCランクだ。
おかしい、何の話をしているのだ、そうだ、とにかくあの厭らしい目をした男がしつこく食い下がってくるので、私はノゾミの手を取って宿を出ようとしたのだ。
しかし…急に引っ張ったせいかノゾミは立ち止まり、私はバランスを崩して倒れてしまった。
いや…倒れそうになったのだ……………
宿のドアにあたり、倒れこむ私…横から伸びてくる腕…そしてその腕が私のAランクの胸にあたり……………
私は声にならない声をあげたのだった…。
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これを読む前に言っておくッ!
おれは今ほんのちょっぴりだが体験した
い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『おれは目の前の倒れてくる、トラブルに巻き込まれたと
思われる人に手を差し伸べたと思ったら
いつのまにか自分がToラブるっていた』
な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
おれも何をしたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
ラッキースケベだとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
かなり素晴らしいものの片鱗を味わったぜ…
俺はいつからリトになったのか、いや俺はヒトだ。
我思う故に我在り、うむ俺は人だ。
倒れこんできた大きさ推定Aランクの女…キッと俺をにらみ付けると、彼女はそのまま右手を振りかぶった。
――パァン!
雷光一閃、彼女の右手は俺の頬にヒットした。
俺はよけようと思えばよけられたが、ここは男としてよけてはいかんだろう。
ありがとうございますありがとうございます。
「エ、エリー!?なにしてるのっ!」
エリーとはこの女だろうか…よく見るとかわいい。
金髪のポニーテール、綺麗な青色の瞳。
上は軽装備に胸当てをしている、ふむ彼女は弓使いか…肩にかけた弓と矢筒があった。
そしてエリーと声をかけた女の子、黒髪で髪を左右のおさげにしてそれぞれ肩の前に出している、おっとりした感じの顔だち、そして何より目を引くのがそのF…フリーダムだ、あれはあかんですぜ旦那…。
「ノゾミはだまってて!!バーカ!無神経!クーズ!クズ!バーカ!クズゥ!」
どこかの田中が喜びそうなセリフである、無論俺にも効果はある。
金髪ツンデレそうな美少女の胸をToラブるし、罵声を浴びさせられるのだ。
男として本望だろう。
エリーと呼ばれる女の子は黒髪の女の子の手を引っ張って、足早に俺の前を通り過ぎていった。
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俺は右手に残った感触を確かめつつ、宿屋の中に入った。
当初は喧騒にあふれていたが、すぐに落ち着きを取り戻し、静かになっていた。
先ほどの女の子に声をかけていた男だろうか、彼は舌打をして俺の横を通り過ぎていった。
俺が店の奥に行くと、THE・おばちゃん、といった感じの妙齢の女性が食器を片付けていた。
お残しは許しまへんでー、とか言いそうだ。
「すみません、宿を取りたいんですが…。シエルさんからここがお勧めといわれました。」
おばちゃんはシエルさんの名前を出した瞬間、驚いた顔をして、その後「ほうほう…あのシエルがねえ…」といやらしい顔つきをした。
「あいよ、どれくらい泊まる?飯に風呂がついて1泊3銀貨だよ。
あと私はこの宿のオーナーのサーナだ。」
3銀貨か…高いのか安いのかわからん、手持ちはこの前のクマタンの報酬の半分25銀貨がある。
しかし飯になによりも風呂!そうこの世界は風呂が普及している、ヒーヅル特有らしいが、温泉等もあちこちにあるらしい。
この宿屋は裏手に温泉があり、宿泊客であれば利用可能なんだそうだ。
何を隠そう俺は風呂が大好きだ、温泉は言わずもがな…俺はとりあえず8泊分の宿代を払うことにした。
「あいよ、24銀貨…確かに。部屋は402だ、よかったねぇ今ので最後の部屋だよ。
飯は仕込み時間とか早朝深夜以外なら出してやるよ、風呂は男女ごとに時間が決まってる。
更衣室の前に札がたってるから、間違っても女湯の時間に入るんじゃないよ?」
なるほど、時間制か…間違えないようにしよう。
もうあんなToラブるはこりごりだ…いやすまない是非おきて欲しい。
しかしせっかくの宿屋でいざこざは避けたい、シエルさんの顔に泥を塗ることにもなるしな。
「ちなみに…403がシエル、401がさっきの子たちだ…覗きなんかするんじゃあ…ないよ?」
おばちゃんがゲスい顔して俺にこそっと教えてくる。
当たり前だ、俺を誰だと思ってやがる。
――こちらケイージ、潜入に成功した。指示を頼む大佐。
うむ、覗かないぞ、決して覗かん、おうともさ!
「それじゃあノピ!お客様を案内してあげて!」
「はーいお母さん。」
そうやって俺の後ろから声を出したのは、彼女の娘…ノーピルちゃんだった。
彼女は父親似だろう…赤毛の長い髪を三つ編にして、白いエプロンをつけた彼女は…将来絶対美人になる、そんな美しさをかねつつも、幼い少女だった。
YESロリータ!NOタッチ!彼女がいくつかは知らないが、5年待とう。
彼女は4階にあがりながら、頬を赤く染めながらチラチラと俺を見ている。
ふふん、どうせ兄か、それとも父親あたりと姿を重ねているのだろう。
勘違いして欲望に突っ走って好感度ダウンなぞせぬわ!
彼女と簡単な自己紹介を行い、俺は当初の目的…ビックモンキーの討伐に出発したのだった。