第四十七話:この国の味になる
第王都の朝。
「いつもの二つくれ」
「はいよ、ハンバーガーとポテト!」
もう、説明はいらない。
誰もが知っている。
焼く音。
揚げる音。
香り。
それが、この街の日常になった。
「……増えましたね」
姫が街を見渡す。
屋台。
店。
看板。
どこにでもある。
「真似ばっかりですけどね」
苦笑する。
「いいんですか?」
「いい」
一言。
「もう回ってる」
誰がいなくても。
誰が止めても。
「手を離す方が、広がる」
市場。
「これ、うちの新作なんだ!」
「ポテトに香草混ぜてみた!」
「うちは三段にしてみたぞ!」
自由だ。
もう、誰も止めていない。
「……すごい」
姫が呟く。
「みんな、自分で考えてる」
「ああ」
それでいい。
それがいい。
「俺がやる必要、なくなったな」
ぽつりと言う。
姫がこちらを見る。
「寂しいですか?」
「いや」
首を振る。
「むしろ、楽だ」
「最初から、これが目的だった」
「え?」
「広げることじゃない」
一拍。
「根付かせることだ」
遠くの子供が、笑いながらかじっている。
油で手を汚しながら。
パンを崩しながら。
でも――
「うめえ!」
その一言。
「……本当に」
姫が静かに言う。
「この国の味になりましたね」
「ああ」
頷く。
数日後。
地方。
港町。
山の村。
どこでも――同じ匂いがした。
焼ける肉。
揚がる芋。
赤いソース。
違うのは――
少しずつ味。
少しずつ形。
少しずつやり方。
「いいな」
俺は呟く。
「バラバラで」
執事が言う。
「制御しなくてよろしいのですか」
「いらん」
「なぜ」
一言。
「その方が、うまいからだ」
食は、広がり。
食は、変わり。
そして――
食は、誰のものでもなくなる。
その手から離れたものは、
止まることなく広がり続ける。
もうそれはこの国の味の物語だ。四十七話:この国の味になる




