最終話:この国の未来の味
城の朝は、静かだった。
だが――
「やだ!それちょうだい!!」
その静けさは、一瞬で壊れる。
「……また始まりましたね」
執事が、どこか嬉しそうに言う。
「元気で何よりだろ」
俺は肩をすくめる。
中庭。
小さな手が、皿に伸びていた。
「これは父上のだ」
「やだ!同じの食べる!!」
俺の息子だ。
まだ小さい。
だが――
「目の付け所はいいな」
苦笑する。
「ちゃんと自分のがありますよ」
姫が皿を差し出す。
「ほら、あなたの分」
そこには――
少し小さめのハンバーガーと、ポテト。
「……同じだ」
子供はじっと見比べる。
「当たり前だろ」
俺は言う。
「同じもの食わせるために作ってる」
一口。
かじる。
そして――
「……!」
目が、見開かれる。
「うまいか」
聞く。
小さく頷く。
そして次の瞬間、
夢中で食べ始めた。
「……似てますね」
姫が笑う。
「美味しそうに食べるあなたと」
「やめろ」
「随分、広がりましたね」
姫が窓の外を見る。
街。
人。
煙。
「もう、どこでも食べられます」
「ああ」
頷く。
市場でも。
屋台でも。
宮廷でも。
この国のどこでも――
同じ匂いがする。
味。
流れ。
人。
国。
全部。
「だから、やめない」
領主も。
料理も。
どっちも。
「……欲張りですね」
「否定はしない」
執事が報告に来る。
「本日の議題ですが」
「後でだ」
「……承知しました」
少しだけ呆れている。
「先に飯だ」
それが優先だ。
「父上!これも!」
子供がポテトを差し出してくる。
ケチャップまみれだ。
「つけすぎだろ」
「いいの!」
笑う。
受け取って、食べる。
「……うまいな」
「でしょ!」
誇らしげだ。
「なあ」
俺は聞く。
「大きくなったら、何やる?」
子供は少し考えて――
「これ!」
ハンバーガーを掲げる。
「作るのか?」
「ううん」
首を振る。
「もっとおいしくする!」
一瞬、言葉が止まる。
そして――
笑った。
「上等だ」
それでいい。
それがいい。
姫が静かに言う。
「受け継がれていきますね」
「ああ」
頷く。
俺が始めたものは、
俺のものじゃない。
国のものになって、
人のものになって、
そして――
次の世代のものになる。
「……これでよかったんですね」
姫が呟く。
「最初からな」
中庭に、笑い声が響く。
油の匂い。
焼ける音。
それはもう、
特別なものじゃない。
当たり前の、
日常の味だ。
かつての最悪の領主は、
今日も領を回しながら、
鉄板の前に立つ。
そしてその隣で――
次の“誰か”が、
新しい味を夢見る。
この国は、きっと大丈夫だ。
味が続く限り。
人が笑う限り。
――完――




