第四十五話:王都献上――そして二つの都へ
王都。
すべてが集まる場所。
金も、権力も、そして――舌もだ。
順番が大事だ。
いきなり外に売ると、内側が腐る。
だから――
俺はまずは自国。
王を落とす。
謁見の間。
王は玉座に座り、こちらを見下ろしていた。
「例の料理を持ってきたか」
「はい」
短く返す。
余計な言葉はいらない。
結果だけでいい。
「では、始めろ」
執事が動く。
その場で火を起こし、鉄板を置く。
貴族たちがざわめく。
「ここで調理する気か……?」
「無礼だろう……!」
無視。
油が弾ける音。
肉が焼ける匂い。
そして――トマトの甘酸っぱい香り。
空気が変わる。
貴族たちがざわめく。
「……なんだ、この匂いは」
王が呟いた。
「食えば分かる」
完成。
フライドポテト。
そしてケチャップ。
それを肉に塗り薄く切ったトマトを挟ん出だハンバーガー。
「どうぞ」
王は迷わず手に取り――かぶりついた。
沈黙。
数秒。
そして。
「……ほう」
それだけだった。
だが――止まらない。
二口、三口。
ポテトに手が伸びる。
ケチャップをつける。
「……これは」
ようやく言葉になる。
「止まらんな」
王はゆっくりと頷く。
「広がるな、これは」
「もう広がってます」
俺は答える。
「農民も、商人も動いています」
「……ならば」
王は即断した。
「王都での出店を許可する」
ざわめき。
「加えて、食材輸送に便宜を図れ」
さらに一言。
「これは国の利益になる」
完全に通った。
その日。
王都に屋台が立った。
「これが例の……!」
「王様が食ったやつだ!!」
「並べえええ!!」
爆発。
列が伸びる。
金が動く。
噂が走る。
「……早いですね」
姫が呟く。
「王の一言は強い」
「違うな」
俺は首を振る。
「“うまい”が強い」
王は引き金にすぎない。
引き金を引かせたのは――味だ。
屋台は王都に根を張った。
そして――次の段階。
「使いを出させてこれを隣国に持っていけ」
俺は言い、羊皮紙を渡す。
「……これは」
「レシピだ」
姫の目がわずかに見開かれる。
「よろしいのですか?」
「いい」
俺はあっさり答える。
「どうせ隠しきれない」
なら――
「主導権を握る」
「……なるほど」
「恩を売る」
姫は静かに頷いた。
「父上にも報告しておきます」
「頼む」
使いの向かう先は――隣国。
「……本当に渡してよかったのですか」
姫が呟く。
「渡すから意味がある」
俺は言う。
独占は短期で強い。
だが長期では――
「広げた方が勝つ」
数日後。
隣国王都。
宮廷。
隣国の王が待っていた。
「来たか」
すでに期待の目だ。
「例の料理を」
「ああ」
同じ手順。
同じ匂い。
同じ音。
王がかぶりつく。
そして――
「……やはりこれだ」
即座に確信。
「もう一度食いたかった」
ポテトに手が伸びる。
「この赤いソース……素晴らしい」
姫が一歩前に出る。
「陛下」
「うむ」
「こちら、レシピでございます」
空気が変わる。
「……ほう?」
王が目を細める。
「条件は?」
来た。
「我が国の王都での出店許可」
「流通の自由」
「関税の優遇」
王は一瞬だけ考え――
笑った。
「安いな。――我が娘の婿殿との取引だ」
そして。
「いいだろう」
即決。
「すべて認める」
早い。
その日のうちに。
隣国王都にも――屋台が立つ。
「なんだこの匂い!?」
「並べ!!」
「また行列かよ!!」
再現。
いや――拡張だ。
「……二つの王都」
内と外。
両方に根を張った。
食は広がる。
止まらない。




