第四十章:対価
隣国の王都。
石造りの城は、重く静かだった。
「……久しぶりね」
姫が小さく言う。
「ああ」
短く返す。
前とは違う。
今は――
“呼ばれて来た側”だ。
謁見の間。
玉座の上。
隣国の王がこちらを見る。
「よく来たな」
低い声。
威圧ではない。
だが、重い。
「領主」
名は呼ばない。
それで十分だった。
「要請があったから来ました」
俺はそれだけ言う。
王はわずかに笑う。
「相変わらずだな」
視線が横に動く。
姫を見る。
そして――
戻る。
「単刀直入に言う。」
間を置かない。
「そなたのお陰で国が救われた。」
「褒美を与えたい。」
「不要です。」
即答。
空気が止まる。
王は気にしない。
「そう言うと思った」
むしろ納得している。
そして――
言った。
「ならば、形を変える」
一拍。
「姫をもらってくれないか」
沈黙。
一瞬で、
場の空気が変わる。
姫の肩がわずかに動く。
だが何も言わない。
視線も動かさない。
「理由は四つだ」
王が続ける。
「一つ」
「お前の力は、もはや一領主のものではない」
「二つ」
「我が国は、その恩を受けている」
「三つ」
わずかに笑う。
「娘が望んでいる」
姫の目が、
一瞬だけ揺れる。
「四つ」
「貴国と友好関係が結ばれる。貴国の王も了承済みだ。」
俺は答えない。
少しだけ考える。
「断る理由は?」
逆に聞く。
王は面白そうに目を細める。
「あるのか?」
「面倒だ」
正直に言う。
玉座の間に、
わずかな笑いが漏れそうになる。
だが誰も出さない。
王は笑った。
「だろうな」
否定しない。
「だが」
少しだけ身を乗り出す。
「これは取引ではない」
「縛りでもない」
「好きに扱え」
その言葉に、
姫がわずかに眉をひそめる。
だが何も言わない。
「拒否してもいい」
王は続ける。
「だが――」
視線が鋭くなる。
「それでも、我が国はお前と繋がる」
つまり、
どちらでも結果は同じ。
「……合理的ね」
姫が小さく言う。
俺は一度だけ息を吐く。
そして――
「本人はどうだ」
姫を見る。
初めて、
話を振った。
姫は少し驚いた顔をする。
だがすぐに戻る。
いつもの表情に。
少しだけ考える。
ほんの一瞬。
「……悪くないわね」
静かに言う。
「少なくとも」
俺を見る。
「退屈はしなさそう」
それが答えだった。
俺は頷く。
「じゃあ、受ける。」
あまりにも軽い返答。
王が笑う。
「決まりだな」
重いはずの話は、
あっさり終わった。
だが――
意味は重い。
帰りの廊下。
人がいない。
静かだ。
「……いいの?」
姫が聞く。
「何がだ」
「今の」
少しだけ間。
「結婚よ?」
「そうなるな」
姫が止まる。
俺も止まる。
「……もっと悩むと思った」
「必要か?」
姫はしばらく黙る。
そして、
小さく笑う。
「そういう人だったわね」
少しだけ前に出る。
振り返る。
「でも」
わずかに柔らかい声。
「悪くないわ」
その距離は、
もう――
前より近かった。




