第四十一章:祝い
領地に戻った日。
門をくぐった瞬間、
空気が違った。
人が多い。
声が多い。
そして――
明るい。
「……なんだこれは」
思ったまま口に出る。
その瞬間――
「領主様だ!」
誰かが叫んだ。
一気に広がる。
「戻ってきたぞ!」
「姫様も一緒だ!」
人が集まる。
あっという間に囲まれる。
「おめでとうございます!」
「聞きましたよ!」
「めでたい!」
次々に声が飛ぶ。
止まらない。
「……何の話だ」
俺が言うと、
一瞬だけ沈黙。
そして――
爆発するように笑いが起きた。
「何の話じゃねえですよ!」
「結婚ですよ結婚!」
「もう広まってます!」
姫が横で小さく息を吐く。
「……早いわね」
「早いな」
俺も同意する。
「今日は宴だ!」
「もう準備できてます!」
「酒も出しますよ!」
広場へと連れていかれる。
逃げる間もない。
並べられた机。
山のような料理。
焼かれる肉。
積まれたパン。
そして――
樽。
「全部、これか」
「はい!」
胸を張って答える村人。
「うちの領地の酒です!」
杯が配られる。
次々に。
断る暇もない。
「乾杯だ!」
誰かが叫ぶ。
「領主様と姫様に!」
一斉に杯が上がる。
「……すごいわね」
姫が呟く。
周囲を見ながら。
「ただの宴だ」
俺は言う。
「違うわ」
姫は首を振る。
笑っている。
誰もが。
自然に。
「心から祝ってる」
その言葉は、
少しだけ重かった。
音楽が鳴る。
誰かが踊る。
子どもが走る。
大人が笑う。
「領主様!」
呼ばれる。
振り向く。
「これ、どうぞ!」
料理を押し付けられる。
「作りました!」
「そうか」
受け取る。
「姫様も!」
別の皿が差し出される。
姫は少し驚いた顔をして、
それを受け取る。
「……ありがとう」
小さく言う。
その様子を見て、
周りがまた笑う。
「いい人だな!」
「領主様にはもったいない!」
「余計だ」
俺が言うと、
さらに笑いが広がる。
姫も、
少しだけ笑った。
しばらくして、
人の輪から少し離れる。
喧騒は続いている。
「……不思議ね」
姫が言う。
「何がだ」
「王都の祝いより、ずっと……」
言葉を探す。
「温かい」
俺は少しだけ考える。
「自分のものだからだろ」
「……そうね」
姫は頷く。
少しだけ沈黙。
遠くで笑い声。
音楽。
火の揺れる音。
「ねえ」
姫がこちらを見る。
「ここでなら」
少しだけ間。
「悪くないかも」
それだけだった。
俺は短く答える。
「そうか」
また、
それだけ。
だが――
距離は、
確かに縮まっていた。
宴は続く。
夜が深くなっても、
終わる気配はない。
領地のすべてが、
祝っていた。
その中心にいる男は、
やはりいつも通りで――
そして、
その意味を一番感じているのは、
やはり姫だった。




