表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最悪の領主に転生した俺、なぜか国を救ってしまう  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/41

第三章:初めての村救済 ― 敵ではないという発見

村に到着したとき、空気はすでに焦げていた。

煙がまだ細く立ち上っている。

焼けた木の匂い。

土は踏み荒らされ、畑は半ば潰れている。

「……酷いな」

思わず口から出る。

隣で執事が顔をしかめる。

「徴税隊と住民の衝突です。典型的な暴動鎮圧失敗です」

「典型で済ませるなよ」

馬から降りる。

その瞬間――

「来たぞ!!」

「領主の手先だ!!」

村の影から叫びが上がる。

石が飛んでくる。

「っ!」

兵士が盾を構える。

「旦那様、後ろへ!」

「いや」

俺は一歩前に出る。

「やめろ」

兵士が焦る。

「危険です! 矢が――」

「いいから下がれ」

俺は村人たちの方を見る。

「話せるやつ、出てこい」

沈黙。

そして、藁の陰から男が一人立ち上がる。

痩せている。

目は充血し、手は震えている。

「……何しに来た」

「見に来た」

「見に来ただと……?」

男の声が怒りで震える。

「仲間を殺しておいてか!!」

背後から叫びが上がる。

「徴税隊を返せ!!」

「子どもが倒れたんだぞ!!」

空気が一気に爆発する。

俺はそれを全部受け止めてから言う。

「それ、全部俺の命令だと思ってるだろ」

「違うのか!!」

即答だった。

俺は少し間を置いてから言う。

「違う」

一拍。

「少なくとも“今日の俺の命令じゃない”」

村人たちが止まる。

執事が小声で言う。

「旦那様……それでは責任の所在が……」

「あるよ」

俺は即答する。

「前のやつだ」

そして、そこでふと“奥”を意識する。

(……使えるか?)

頭の奥で、静かに起動する感覚。

――《転生補正:土地改良》

――対象領域:周辺土壌/水脈/地質

――実行可能状態

俺は一瞬だけ目を細める。

(ここだな)

村を見渡す。

痩せた畑。

水の流れの悪い溝。

死にかけた土。

「……お前ら」

村人を見る。

「ここ、元からこんなに荒れてたのか?」

「……違う」

若い女が言う。

「徴税のあと、畑が急に……何も育たなくなった」

その言葉で確信する。

(搾りすぎて“土地が死んでる”)

俺は息を吐く。

「なら、今やることは一つだな」

「旦那様?」

執事が不安げに見る。

「備蓄出せ。全部」

「……はい?」

「それと――」

俺はゆっくり目を閉じる。

頭の奥の“システム”に命令する。

(起動しろ)

――《土地改良:実行》

その瞬間だった。

足元の空気がわずかに揺れる。

風でもない。魔法でもない。

もっと“自然のルールが書き換わる感じ”。

ざわ……

土が、呼吸したように動く。

村人が気づく。

「……?」

乾いてひび割れていた地面に、わずかな湿り気が戻る。

死んでいた畑の土が、ゆっくりと色を変える。

「な、なんだ……?」

執事が目を見開く。

「地質が……変化している……?」

水路の奥で、水が流れ方を変える。

詰まっていた流れが、自然に整列するように“通り直される”。

そして――

畑の端に残っていた枯れ草が、わずかに揺れた。

「……おい」

俺は小さく呟く。

「これ、思ったより派手だな」

システム音が頭の奥で淡々と響く。

――土地改良:完了

――土壌肥沃度:上昇

――水分保持率:改善

――回復プロセス開始(遅延型)

「……え?」

村人の一人が、しゃがみ込む。

枯れたと思っていた土に、指を押し込む。

「……柔らかい」

声が震える。

「さっきまで……石みたいだったのに……」

その瞬間、誰かが息を呑む。

「まさか……土地が……戻ってる?」

執事が呟く。

「これは……農政魔術でも説明できない……」

俺はその横で言う。

「魔法じゃねえよ」

「ただの……調整だ」

村人たちが静まり返る。

理解できていない。

でも“何かが起きた”のは全員がわかっている。

そして――

一人の子どもが倒れる。

「っ!」

母親が叫ぶ。

「お願い!!誰か!!」

俺は迷わず歩く。

(まだ終わってねえ)

同時に、もう一度だけ命令する。

(土地だけじゃない。こっちも“生かす側”に寄せろ)

微細な調整。

人体そのものではなく、“環境要因”への補正。

水分吸収率の改善。

低栄養状態の悪化抑制。

回復効率の底上げ。

子どもの呼吸が、わずかに安定する。

俺は抱き上げる。

「軽いな……」

思わず呟く。

「……おい」

「軽すぎんだろ」

母親が泣き崩れる。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

「謝るな」

俺は短く言う。

「謝るのは俺の方だ」

村人たちが固まる。

「……は?」

誰かが小さく言う。

「領主が……謝る?」

俺は振り返る。

「今まで、お前らを人として扱ってなかった」

静かに続ける。

「それだけだ」

その瞬間。

村の誰かが、初めて剣を下ろした。

敵意じゃなく。

混乱で。

その夜。

焚き火の前。

配られたパンを見つめる村人たち。

誰もすぐには食べない。

「……毒じゃないよな」

「領主が……食わせるのか?」

「今までと……違う」

その中心で、俺は立っている。

(……土地は戻り始めた)

(次は人だな)

「食え」

短く言う。

「生きろ」

火が揺れる。

誰かがパンをかじる。

次の瞬間。

「……甘い」

小さな声。

それが合図みたいに広がっていく。

「……本物だ」

「助かるのか……?」

執事が小さく呟く。

「旦那様……これは……」

俺は焚き火を見ながら言う。

「ようやく“最初の仕事”だろ」

村人の一人が、ぽつりと言う。

「……あんた、本当に領主なのか?」

俺は少し笑う。

「一応な」

その夜。

敵だったはずの村は、初めて“生き延びる側”に戻った。

そして同時に――

「悪徳領主」の名前が、少しだけ揺らぎ始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ