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最悪の領主に転生した俺、なぜか国を救ってしまう  作者: レモンティー


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第二十一章:証明の席

長机の上には、皿が並んでいる。

赤く煮込まれた料理。

香りの強いスープ。

焼いたじゃがいも。

そして――

もう一皿。

水気を帯びた、鮮やかな赤。

均等に切り分けられた、生のトマト。

使者の視線が、そこに止まる。

「……これは」

「加工していないものですか」

「見りゃ分かるだろ」

俺は短く返す。

「切っただけだ」

空気がわずかに張る。

“逃げ道”を一つ、潰した形になる。

姫もそれを理解している。

ほんのわずかに、視線だけで俺を見る。

(やる気か)

俺は肩をすくめる。

「先にいく」

トマトの一切れを指でつまむ。

そのまま口に入れる。

潰れる。

汁が広がる。

嚥下。

何も起きない。

当たり前だ。

だが、その当たり前が、今は意味を持つ。

「……生で」

使者の一人が呟く。

「ええ」

姫が静かに言う。

そして、自分でも一切れ取る。

今度は、迷いがない。

口にする。

ゆっくりと噛む。

「……問題ありません」

はっきりと断言。

その声は、先ほどよりも強い。

“既知”ではなく、“確信”になっている。

使者たちの間に、微かな揺らぎ。

「加熱による無毒化ではない、と」

代表が確認するように言う。

「違います」

姫が答える。

「これは元から“食用部分”です」

俺が補足する。

「葉と茎はダメだがな」

「切り分ければいいだけだ」

一人の使者が、ゆっくりと手を伸ばす。

切りトマトをつまむ。

ほんの一瞬、止まる。

だが――

口に入れる。

沈黙。

数秒。

「……異常なし」

その声は、先ほどよりも低い。

理解が追いついていない音だった。

もう一人も続く。

三人目も。

全員が、生の状態を確認する。

逃げ場は、さらに減った。

だが――

代表の男は、やはり崩れない。

「確認はできました」

その言葉は変わらない。

「加工・未加工、いずれも即時の毒性は認められない」

一拍。

そして、変わらない結論。

「しかし――」

「“安全性が証明された”とは言えません」

農民の一人が、思わず声を荒げる。

「なんでだよ!」

男は冷静に返す。

「再現性の検証が不足しています」

「条件統制が不十分です」

「個体差、環境差、処理差――」

淡々と並べる。

「いずれも排除されていない」

つまり。

どれだけ見せても。

どれだけ食べても。

「“例外的に安全なケース”の可能性を否定できない」

静かな断定。

姫が、わずかに目を伏せる。

怒りではない。

確信だ。

「……理解しました」

ゆっくり顔を上げる。

「あなた方は、“認めない理由”を探している」

男は否定しない。

「慎重なだけです」

その言葉に、俺は小さく笑う。

「便利な言葉だな」

沈黙。

そして使者たちは、予定通り去っていく。

残されたのは、

空になった皿と、

変わらない現実。

農民がぽつりと呟く。

「……生でも食ってんのに、ダメなのかよ」

俺は答えない。

代わりに、姫が言う。

「ええ」

静かに。

だが、はっきりと。

「証明では足りないのです」

一拍。

切りトマトの皿を見る。

「“誰が証明するか”が問題です」

俺は息を吐く。

「結局そこか」

姫はうなずく。

「はい」

そして、少しだけ視線を遠くに向ける。

「だから――」

決意の声。

「次は、場所を変えます」

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