第9話―第五夜(前編)「輪廻転生」と「アップグレード」
『小霊?』
「……」
『今夜はどうした?』
『横になったのに、何も話さないな』
「おじいちゃんが話して」
「聞いてるから……」
『ふふ』
『私が明日帰るから、元気がないのか?』
「……」
『違う?』
「……」
『小霊』
『最初の夜に、私が言ったことを覚えているか?』
「えっ?」
『一つ目の伝えたいこと』
「忘れてた」
『どんなことでも、表に出して話していい。忌み嫌う必要などないって』
『言ったんでしょ』
「……うん」
『だから、話してみろ』
『思ったこと通りに』
「この数日」
「私たち、いろんな話をした」
「私も、いっぱい考えた」
『うむ』
「その中で、変な考えが浮かんだ」
「自分でも驚いた」
「でも、それが正しいかどうかわからない」
「おじいちゃんに、どう聞けばいいのかもわからない」
『なら、まず結論から言いなさい』
『そこから遡ればいい』
「うん……」
「本気で言うよ」
『うむ』
「私は、今のおじいちゃんが……」
「魂じゃないと思う」
『ふふ』
『では、私は何だ?』
「四次元生物」
『えぇ……』
『どうしてそう思った?』
「この数日、一番印象に残ったのは」
「おじいちゃんの話じゃない」
『ほう?』
「その話をしている、おじいちゃん自身」
『私自身?』
「うん」
「おじいちゃんって、本当にすごい」
「何でも見抜く」
「しかも、すぐに」
「まるで机の上の絵を見下ろしてるみたいなの」
『つまり』
『三次元生物が二次元世界を見るように』
『私が、お前たちのいる三次元世界を見てると?』
「そう!」
「だから、その考えを続けてみたの」
「いくつか思い当たることがあった」
『ふふ』
『振り返りを覚えたな』
「そのいくつかのことを考えれば考えるほど」
「おじいちゃんは四次元生物に見える」
『話してみろ』
「一つ目」
「あの日、私がおじいちゃんのことを『鬼』って呼んだ時」
「その呼び方は好きじゃないって言ったでしょ?」
『言ったな』
「しかも、『魂』ならいいって言った」
「つまり、おじいちゃんにとっては」
「『鬼』も『魂』も、呼び方が違うだけで、本質は同じ」
「それって、四次元生物なんじゃない?」
『続けろ』
「二つ目」
「私が『五次元世界ってどんなところ?』って聞いた時」
「おじいちゃん、こう言った」
「『早すぎる。四次元生物のことなど、今のお前にわかるわけがない』って」
『それの何がおかしい?』
「早すぎって、どういう意味?」
「いつか私も、四次元生物になるのかなって思った」
「おじいちゃんみたいに」
『ふふ』
『まだあるか?』
「うん。 一番大きいのは」
「過去も、現在も、未来も見えるって言ったでしょ」
『うむ』
「四次元生物は時間を前後に動けるとも言った」
「だったら」
「おじいちゃんは四次元生物じゃないか?」
『ははっ』
『さすが超人だ』
『そこまで繋げるのか?』
「当たったの?」
『小霊』
『お前がさっきから、ずっと黙っていた理由がわかった』
「……」
『当たっているのが怖いんだろう?』
「……うん」
『何が怖い?』
「だって、もし本当にそうなら」
「宿命論が正しいことじゃないの?」
『いやいや』
『それは別の話だ』
「別じゃないよ!」
「未来が見えるってことは」
「未来が決まってるってことでしょ?」
『宿命論だからといって、何でもありじゃない』
「意味がわからない」
『自然でなければならん』
「……」
『例えば』
『アフリカのヌーやガゼルは、来年も大移動を続けるのか?』
『それとも途中で食われるのか? ライオンかチーターか?』
『私は見える。 それは自然だからだ』
『だが、もし私が』
『十秒後のお前は、まだ横になってると言ったら』
「じゃあ立つ!」
『うむ』
『十秒後、お前は立っている』
「また違う!」
「私……逆立ちする!」
『ほら見ろ』
『宿命は破れたんじゃないか』
「……」
『違うか?』
「つまり、おじいちゃん」
「私が横になるかどうかに関係なく」
「十年後、お金持ちになれるかどうかが見えるの?」
『ふふ』
『百年後』
『この世界にお前がいるかどうかが見えるぞ』
「……そんなこと、私も見える!」
『小霊、怖いか?』
「怖くない……」
「でも、まだわからないことがある」
「うまく言葉にできないけど……」
『焦らなくていい』
『ゆっくり話してみて』
「えっと……」
「今の人ってよく言うでしょ?」
「ああ、時間がない、足りないって」
『うむ』
「それって、二次元生物が」
「高さがない、足りない」
「って言うようなものじゃないか?」
『ふふ』
『面白い例えだな』
「でも」
「おじいちゃんは、時間を自由に動かせるんじゃないか?」
「人間は高さを動かせるみたい……」
『言いたいこと……なんとなくわかった』
『つまり』
『二次元生物は高さを失うことで、高さを扱える三次元生物になる』
『そして三次元生物は時間を終えることで、時間を扱える四次元生物になる』
『そういうことか?』
「そう! だから、私が思ったのは」
「生命は」
「『輪廻転生』なんかじゃない」
「『アップグレード』なんだって!」
『アップグレード?』
「うん」
「パソコンのソフトみたいに」
「もっと高機能になるの」
『面白い……いや』
『すばらしい考え方だ』
「でも」
「そこに、一つの……パラドックスがある」
『何だ?』
「おじいちゃん……」
『うむ?』
「……」
『どんなことでも、表に出して話していい。忌み嫌う必要などないって』
『でしょ?』
「……どうして」
「私を引き戻したの?」
「どうして『アップグレード』させなかったの?」
『……』
「何でも答えるって」
「昨日そう言ったでしょ?」
『ふふ』
『別に、アップグレードを止めてない』
『お前は最初から勘違いしてる』
「え?」
『私は四次元生物じゃない』




