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見ない、聞かない、語らない  作者: 佳凝
上部 冗談すぎ、見るな
10/11

第10話―第五夜(後編)あなた、私のおじいちゃんじゃない!

陳嘉霊は、一瞬、自分の聞き間違いかと思った。


「おじいちゃん……」

「さっきの考え、外れたってこと?」


『うむ』

祖父は優しく言った。

『だが、お前の考え方は本当に見事だった』

『だから、落ち込む必要はない』


「ううん」

「別に落ち込んでないよ」

張り詰めていた表情に、ようやく笑みが浮かんだ。


『ほう?』


「だって」

「おじいちゃんが、私のことをそんなに可愛がってくれたんだから」

「私がもっと上の世界へ行くのを邪魔するわけないでしょ?」


祖父が魂なのか。

四次元生物なのか。

宿命が存在するのか。


そんなことは、どうでもよかった。


陳嘉霊が本当に知りたかったのは、

生きる理由だった。


それだけだった。


だが――

祖父は黙った。


しばらく考え込んだあと、ゆっくりと口を開いた。

『小霊』

『正直、驚いたぞ』


「何が?」


『これまでの話を』

『お前があそこまで覚えていたとは思わなかった』


「当然でしょ」

「ちゃんと聞いてたんだから」


『ということは……』

『見落としていたことも』

『いつか急に思い出すかもしれんな』


「えっ?」

「私、何か見落としてた?」


『窓辺の金魚を見てみろ』


陳嘉霊は首を傾げながら視線を向けた。


金魚は相変わらず、

ゆっくりと水槽の中を泳いでいる。


この奇妙な会話を聞いているのは、

あの金魚だけだった。


いや――


穏やかな目で、

ずっとこちらを見ているような気がした。


しばらく見つめ合ったあと――

「あっ!」

陳嘉霊は突然声を上げた。

「思い出した!」


『ほう』


「おじいちゃん、言ってた」

「おじいちゃんの魂と、私の体は、同じ世界にいないって」


『つまり』

『私は、別の世界にある肉体が』

『生き続けるかどうかなんて』

『気にすると思うか?』


「……」


『ふふ、冗談だ』


「おじいちゃん!」

「冗談すぎ!」


『すまん……だがな』

祖父の声が少しだけ変わった。

『私たちが同じ世界にいないという話は』

『嘘だ』


「……え?」


『騙していた』


「じゃあ……」

陳嘉霊は混乱したまま尋ねた。

「私たち、同じ世界にいるの?」


『うむ』


「そんなはずない」


『本当だ』


「だったら」

「私たちの世界って何?」


『そうだなぁ……どう言えばいいかな』

祖父は少しだけ言葉を探した。

そして答えた。

『小さい……世界だ』


「小さい?」


『うむ』

『私とお前しか入れないくらいにな』


「私の体?」

「あの喫茶店?」


『……金魚も入る』


「え?」

「じゃあ、この部屋?」


『この部屋は少なくとも三次元だ』

『だが、私たちの世界は二次元だ』


「二次元?」

「平面ってこと?」

「まさか……私たち、絵なの?」


『私たちは』

『小説だ』


「……え?」


『「冗談すぎ、見るな」という小説の中で生きている』


「……」


『もっと正確に言えば』

『私たちは紙の上の文字に過ぎない』

『小説が終われば』

『私たちの人生も終わる』


「そんな……」


『すまない』

『お前を騙していた』


「違う……」

陳嘉霊の目に涙が滲んだ。

「そんなの嘘だよ……」

「あなた、私のおじいちゃんじゃない……」


『いや』

『私はお前の祖父だ』

『昔も』

『今もな』

『今だって、お前を可愛がっている』


祖父は優しく続けた。

『お前は聞いたな』

『なぜ私がお前を引き戻したのかと』


「……」


『だが、それは私の考えじゃない』

『作者の考えだ』


「悪魔だ……」

陳嘉霊は震える声で言った。

「あなたたちは悪魔だ……」


『そう』

『私は悪魔だ』

『だが』

『本当に、お前を可愛がっている』

『死んでほしくなどなかった』


少し間を置いて、祖父は続けた。

『作者はな……』

『お前を「序章」で死なせることもできた』

『だが、そうは書かなかった』

『だから今のお前は』

『もうすぐ物語の終わりまで生きるぞ』


「嫌だ!」

陳嘉霊は叫んだ。

「私は生きる!」

「ずっと生きる!」


「誰の名をもってしても!」

「私に死刑を宣告しないで!」

そう叫びながら、彼女は目の前の空間を蹴り、殴った。

まるで祖父がそこにいるかのように。


いや――

祖父ではない。

小説の作者だ。


『小霊』

『落ち着きなさい』

『これが本当の世界だ』


「おじいちゃん……」

陳嘉霊は涙を流した。

「本当の世界って……」

「どんなところなの?」


『第一夜の最後のようだ』

『覚えてる?』


「なんの返事もしてくれなかった……」


『本当の世界はな』

『お前が甘えても』

『泣いても、怒っても、説明しても』

『何も答えてくれない』


「あの人が、返事をさせなかったの?」


『……小霊、もう泣くな』

祖父の声は、相変わらず優しかった。

『明日で私は帰る』

『だから』

『笑って見送ってくれ』

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