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シジン  作者: 凪雨タクヤ
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7/11

食い合い

私は灰色に染まった懺悔室を見る。

第一演目。

ロアロアの解釈が採択された。


<【採択】:白の証明②叔父は真実を伝えようとしていた。それは自分が許されたかったからである。>


灰色となった懺悔室は静かに部屋の片隅に佇んでいた。

まるで最初からそこに存在していたかのようだった。


その時だった。


「アハハハハ!」


突然ロアロアが笑い出した。

私は思わず顔を上げる。


「失礼。」


ロアロアは扇子で口元を隠した。

だが笑みは隠しきれていない。


「やっぱりこの時間だけはどうしても笑みがこぼれてしまいます。」


そして少し首を傾げた。


「ちょっとはしゃぎすぎですかね?」


この時間だけ、というのはこの”白の局面”のことを言っているのだろうか。

それとも灰の評定で遊ぶように物語を創ってるときだろうか。


いや、


もしかしたら誰かの解釈を握り潰し、

愉悦に浸る瞬間のことなのだろうか。


そこまで聞くつもりはない。

だが、私の答えでこの魔女を一度黙らせる必要があるようだった。


……と。

何を躍起になっているんだ私は。

たかが一演目。


ルール説明も兼ねた最初の評定に敗れただけだ。

私もまだ子供じみた部分が残っているらしい。

気を取り直し、私は盤面へ手を向けた。


チリン―――。


<白の局面 第二演目>


「叔父は許されたかった。」


キィィィィィン―――!!


白い文字が空中へ浮かぶ。

今度は・・・間違えないッ!


「しかしそれ以上に、ハイラへ同じ過ちを犯してほしくなかった。」


<白の証明①>叔父は許されたかった。しかしそれ以上にハイラへ同じ過ちを犯してほしくなかった。


白い文字が灰の天秤へ吸い込まれていく。


そのまま白い粒子が空間に集約し少しずつ形を成していく。

まるで本来の姿を取り戻していくようにも見えた。


そして現れた。


一枚の盾だった。

傷だらけの盾。


無数の刃を受けた痕、

焼け焦げた表面、

欠けた縁・・・。


それでもなお誰かを守ろうとしているように見えた。


「何を守っている盾なんでしょうね。」


ロアロアが揚げ足を取るように問う。

私は答えない。

その代わり、盾から視線を外さなかった。


ロアロアもまた盤面へ手を向ける。


「叔父は許されたかった。」


キィィィィィン―――!!


白い文字が浮かび上がる。


「だから、ハイラを利用して自分を救おうとした。」


<白の証明②>叔父は許されたかった。だからハイラを利用して自分を救おうとした。


白い文字が吸い込まれていく。

ベタベタと何かを貼り付けるような音。


そして、現れたのは仮面だった。

口元だけが不自然に吊り上がっている。


笑っている。

だが、目だけは笑っていない。

人の善意を模倣したような。

どこか醜悪な仮面。


私は沈黙して、しかし対峙する覚悟を持ってその仮面を真っ直ぐ見据えた。


「今度は意地悪な仮面が出てきましたね。」


ロアロアは楽しそうに笑う。


「まるで道化師みたい。」


そしてこちらを見た。


「先生は気に入りませんかね?」


「気に入らなくても」


私は短く答えた。


「私の白が採択されれば消える。」


ロアロアは一瞬だけ目を丸くした。

だがすぐに笑みを浮かべる。

まるで獲物が罠へ足を踏み入れたのを見た狩人のようだった。


チリン―――。


灰の天秤が鳴る。

二つの白が並び、世界に灰色の風が吹き始める。

唸るような風と舞い散る灰。


ガキン―――!!


天秤が傾いた。


<【採択】:白の証明① 叔父は許されたかった。しかしそれ以上にハイラへ同じ過ちを犯してほしくなかった。>


傷ついた盾がズザァと音をたてながら灰色へ変色していく。

灰となった盾は懺悔室の隣へ固定された。


一方、あのニヤついた仮面はサラサラと崩れ落ち消えていく。

灰のあるべき姿となり風に流され完全に消え去った。


ロアロアは肩をすくめる。


「残念。」


しかし全く悔しそうではなかった。

むしろこれもゲームの一部だと言わんばかりの様子だ。


チリン―――。


<白の局面 第三演目>


私は息を吐く。

これで決まる。


どちらの紡ぎ手の解釈が、白が、証明がこの物語を面白くしたのか。


どちらの解釈が、


この物語に、

ハイラという少女に、

叔父に、

亡き妻に、

この村に、


救済を/破滅を与えたのか・・・。


私はもう一度考える。

さっきも考えたがもう一度振り返る。

この村の全ての中心にあるもの・・・。


私は手を伸ばした。


「叔父の妻は因果応報の教えによって見捨てられた。」


キィィィィィン―――!!


「叔父はその連鎖を断ち切ろうとしていた。」


<白の証明①>叔父の妻は因果応報の教えによって見捨てられた。叔父はその連鎖を断ち切ろうとしていた。


白い文字が天秤へ吸い込まれる。

ズリズリと音を立てて、現れたのは一匹の蛇。


だがその身体は途中で断ち切られている。

尾へ届かない、輪になれない、切断されたウロボロス。

終わらない循環を断ち切る象徴。


ロアロアは笑っていた、心底楽しそうに。

そして手を文字盤に向ける。


「叔父の妻は因果応報の教えによって見捨てられた。」


キィィィィィン―――!!


「そして叔父自身も。最後までその教えから逃げられなかった。」


<白の証明②>叔父の妻は因果応報の教えによって見捨てられた。そして叔父自身も最後までその教えから逃げられなかった。


現れたのは一本の縄。

首吊り縄だった。


ゆらり・・・ゆらり・・・。


誰も吊られていない。

それなのに、勝手に揺れていた。

まるでそこに引き込まれるように、叔父が自らその縄に手をかけるように仕向かれているような、そんな印象だった。


ロアロアは微笑む。


「先生。」


扇子で口元を隠す。


「私は何も否定していませんよ?」


その言葉を聞いた瞬間、私はうっすらと理解した。


私はずっと、ロアロアは物語を創造する存在だと思っていた。

解釈を生み出し、物語を広げ、新たな可能性を作る存在だと。


だが違う。

もしかすると、それは創造ではない。


誰かが作った物語へ入り込み、

意味を変え、

形を変え、

解釈を蝕んでいく。


その行為こそが、思考の魔女ロアロアの本質なのではないか。


チリン―――。


灰の天秤が鳴る。

世界に再び灰が舞い始めた。


懺悔室。

傷ついた盾。

切断されたウロボロス。

首吊り縄。


灰色の世界の中で、それらは静かに佇んでいる。

文字盤には <灰の評定> の文字が悠然と居座っていた。


ガキン!


灰の天秤が審判を下した。

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