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シジン  作者: 凪雨タクヤ
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6/11

黒と白と灰

「では先生、物語を紡ぐ白について説明しましょう。」


ロアロアは扇子を広げた。

その前に、と続ける。

「全体の流れも確認しておきましょうか。」


==============================


<黒の局面>

「黒の楔を打ち込み、ゆるがない真実を携える黒の局面。」


そして元の物語の長さによりますが、

第一演目~第三演目までを通して互いの解釈を裁定します。


一つの演目につき、以下の構成で成り立っています。


<白の局面>

「白の証明により可能性を紡ぐ、この灰の遊戯における最大の愉悦の時間です。」


<灰の評定>

「そして紡がれた物語を秤にかける灰の評定。ここで採択された白は灰となり、物語に組み込まれることになります。」


==============================


「戯曲はこの三つの局面で進みます。ちなみに、灰は基本的には否定できないですが、意味は解釈により変えることができます。」


私はゆっくりと頷く。


黒と白と灰。


確かに今まで聞いた内容はその三段階に分けられそうだった。

ロアロアは一本目の楔を指差した。


<黒の楔①『この村には善も悪も巡るという暗黙の了解が存在する』>


「これは揺るがない真実です。」

次に二本目を指さす。


<黒の楔②『叔父は亡き妻に関する真実を知っている』>


「こちらも揺るがない真実です。」


私は少し考える。

「だが二つ目は、最初に執筆された物語には書かれていなかった。」


ロアロアは微笑んだ。


「えぇ、確かに最初に先生が執筆した物語には存在しない情報だった。ですが私が黒の楔として打ち込んだ。それにより今この瞬間から、揺るがない真実になったというわけです。」


私は天井へ伸びる楔を見上げる。

問題文に書かれたことだけが真実ではない。

解釈の余地が残されているなら、

そこへ黒の楔を打つこともできる。

そして一度打たれた黒は、もう覆らない。

つまり、黒とは物語を固定する杭だ。


その通りですとロアロアは満足そうに頷いた。

まるで考えていたことを読まれたようだった。


「では次は白の局面。」


ロアロアは扇子で口元を隠す。

「白は仮執筆であり、解釈であり、仮説です。私達が好きなように物語を広げて構いません。」



「思ったより自由なんだな。」

私は表情を変えずに言う。


「創作ですから。」

ロアロアも当然のように言う。


「ただし。」


そこで扇子がパチンと閉じられた。


「灰の天秤は短く強い言葉を好みます。」


私は天秤を見る。

天秤は左右にゆっくりと揺れ動いている。


「より少ない文章で、より大きく物語を変えた方が評価されやすい。手をかざして2~3文ほど追加する感覚で紡いでください。」


私は再び天秤を見る。

長々と説明するのではなく、少ない言葉で世界を動かせということか。


「まずは先生からどうぞ。」


私は少し考える。


テーマカード。

叔父。

ハイラ。

亡き妻。

斧。


そして【救済】。


私は手を盤面へ向けた。


「叔父はハイラへ真実を伝えようとしていた。」


「それは彼女を守るためだった。」


キィィィィィン―――!!


甲高い金属音が響く。


私の言葉が白い光の文字となり、空中へ浮かび上がった。


<白の証明① 叔父はハイラへ真実を伝えようとしていた。それは彼女を守るためだった。>


白い文字は空中を流れ、

やがて灰の天秤へ吸い込まれていく。

全てが吸い込まれると、ジリジリと電撃を放ちながら光の枝が世界に現れ、部屋をある程度まで覆う。


「ふぅん。」


ロアロアは目を細め、先生らしい。とこぼした。


そして彼女もまた盤面へ手を向ける。


「叔父は真実を伝えようとしていた。」


そこまでは同じだった。

私は続きを待つ。

ロアロアは静かに笑った。


「それは自分が許されたかったからだ。」


キィィィィィン―――!!

再び音が鳴り、またもや電撃を放ちながらオブジェクトが現れる。

しかしそれは光の枝ではない。

紛れもない"懺悔室"であった。


<白の証明② 叔父は真実を伝えようとしていた。それは自分が許されたかったからである。>


白い文字が空中へ現れる。


確かに成立している。そしてロアロアは自身のテーマカード【破滅】に沿って役割を演じているというのも理解できる。


だけど、

成立しているからこそ


「気に入らないな。」


ロアロアはそんな私からこぼれた言の葉を聞いて、心底楽しそうに微笑んでいた。


チリン―――。


灰の天秤が鳴る。


二つの白が文字盤の上で並び、

ゆっくりと秤へかけられていく。

世界が灰色に満たされて、オオオォと唸る風とサラサラと音を立てて灰が舞い散る。


どちらが採択されるのか。


私は思わず息を呑んだ。

ロアロアは扇子で口元を隠している。


「先生。」


突然呼ばれて私はハッとしてロアロアを見る。


「同じ物語でも--


彼女の瞳が愉快そうに細められる。


「--意味はいくらでも変えられます。」


ガキン!という重厚な音とともに

静かに揺れていた灰の天秤が突如傾いた。

文字盤には灰の評定の結果が映し出されている。


灰の評定の結果は


<【採択】:白の証明②叔父は真実を伝えようとしていた。それは自分が許されたかったからである。>


・・・ッッッ!!


ゴォオオオオン!

評定の鐘の音が響く。


先程現れた白い懺悔室が、破滅に向かうために紡がれた解釈が灰色に固定されていく。

逆に白い光の枝のほうは、砂のようになって崩れ落ちていく。


採択されたのは紛れもなく、ロアロアが紡いだもの。

灰の天秤の文字盤は破滅を指針としたその新たな解釈を、静かに、そして冷酷に表示している。


「では先生。」

ロアロアが口を開く。


「ここからこの世界をどのように再構築しましょうか?」


灰の天秤は微動だにしていなかった。


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