黒と白と灰
「では先生、物語を紡ぐ白について説明しましょう。」
ロアロアは扇子を広げた。
その前に、と続ける。
「全体の流れも確認しておきましょうか。」
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<黒の局面>
「黒の楔を打ち込み、ゆるがない真実を携える黒の局面。」
そして元の物語の長さによりますが、
第一演目~第三演目までを通して互いの解釈を裁定します。
一つの演目につき、以下の構成で成り立っています。
<白の局面>
「白の証明により可能性を紡ぐ、この灰の遊戯における最大の愉悦の時間です。」
<灰の評定>
「そして紡がれた物語を秤にかける灰の評定。ここで採択された白は灰となり、物語に組み込まれることになります。」
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「戯曲はこの三つの局面で進みます。ちなみに、灰は基本的には否定できないですが、意味は解釈により変えることができます。」
私はゆっくりと頷く。
黒と白と灰。
確かに今まで聞いた内容はその三段階に分けられそうだった。
ロアロアは一本目の楔を指差した。
<黒の楔①『この村には善も悪も巡るという暗黙の了解が存在する』>
「これは揺るがない真実です。」
次に二本目を指さす。
<黒の楔②『叔父は亡き妻に関する真実を知っている』>
「こちらも揺るがない真実です。」
私は少し考える。
「だが二つ目は、最初に執筆された物語には書かれていなかった。」
ロアロアは微笑んだ。
「えぇ、確かに最初に先生が執筆した物語には存在しない情報だった。ですが私が黒の楔として打ち込んだ。それにより今この瞬間から、揺るがない真実になったというわけです。」
私は天井へ伸びる楔を見上げる。
問題文に書かれたことだけが真実ではない。
解釈の余地が残されているなら、
そこへ黒の楔を打つこともできる。
そして一度打たれた黒は、もう覆らない。
つまり、黒とは物語を固定する杭だ。
その通りですとロアロアは満足そうに頷いた。
まるで考えていたことを読まれたようだった。
「では次は白の局面。」
ロアロアは扇子で口元を隠す。
「白は仮執筆であり、解釈であり、仮説です。私達が好きなように物語を広げて構いません。」
「思ったより自由なんだな。」
私は表情を変えずに言う。
「創作ですから。」
ロアロアも当然のように言う。
「ただし。」
そこで扇子がパチンと閉じられた。
「灰の天秤は短く強い言葉を好みます。」
私は天秤を見る。
天秤は左右にゆっくりと揺れ動いている。
「より少ない文章で、より大きく物語を変えた方が評価されやすい。手をかざして2~3文ほど追加する感覚で紡いでください。」
私は再び天秤を見る。
長々と説明するのではなく、少ない言葉で世界を動かせということか。
「まずは先生からどうぞ。」
私は少し考える。
テーマカード。
叔父。
ハイラ。
亡き妻。
斧。
そして【救済】。
私は手を盤面へ向けた。
「叔父はハイラへ真実を伝えようとしていた。」
「それは彼女を守るためだった。」
キィィィィィン―――!!
甲高い金属音が響く。
私の言葉が白い光の文字となり、空中へ浮かび上がった。
<白の証明① 叔父はハイラへ真実を伝えようとしていた。それは彼女を守るためだった。>
白い文字は空中を流れ、
やがて灰の天秤へ吸い込まれていく。
全てが吸い込まれると、ジリジリと電撃を放ちながら光の枝が世界に現れ、部屋をある程度まで覆う。
「ふぅん。」
ロアロアは目を細め、先生らしい。とこぼした。
そして彼女もまた盤面へ手を向ける。
「叔父は真実を伝えようとしていた。」
そこまでは同じだった。
私は続きを待つ。
ロアロアは静かに笑った。
「それは自分が許されたかったからだ。」
キィィィィィン―――!!
再び音が鳴り、またもや電撃を放ちながらオブジェクトが現れる。
しかしそれは光の枝ではない。
紛れもない"懺悔室"であった。
<白の証明② 叔父は真実を伝えようとしていた。それは自分が許されたかったからである。>
白い文字が空中へ現れる。
確かに成立している。そしてロアロアは自身のテーマカード【破滅】に沿って役割を演じているというのも理解できる。
だけど、
成立しているからこそ
「気に入らないな。」
ロアロアはそんな私からこぼれた言の葉を聞いて、心底楽しそうに微笑んでいた。
チリン―――。
灰の天秤が鳴る。
二つの白が文字盤の上で並び、
ゆっくりと秤へかけられていく。
世界が灰色に満たされて、オオオォと唸る風とサラサラと音を立てて灰が舞い散る。
どちらが採択されるのか。
私は思わず息を呑んだ。
ロアロアは扇子で口元を隠している。
「先生。」
突然呼ばれて私はハッとしてロアロアを見る。
「同じ物語でも--
彼女の瞳が愉快そうに細められる。
「--意味はいくらでも変えられます。」
ガキン!という重厚な音とともに
静かに揺れていた灰の天秤が突如傾いた。
文字盤には灰の評定の結果が映し出されている。
灰の評定の結果は
<【採択】:白の証明②叔父は真実を伝えようとしていた。それは自分が許されたかったからである。>
・・・ッッッ!!
ゴォオオオオン!
評定の鐘の音が響く。
先程現れた白い懺悔室が、破滅に向かうために紡がれた解釈が灰色に固定されていく。
逆に白い光の枝のほうは、砂のようになって崩れ落ちていく。
採択されたのは紛れもなく、ロアロアが紡いだもの。
灰の天秤の文字盤は破滅を指針としたその新たな解釈を、静かに、そして冷酷に表示している。
「では先生。」
ロアロアが口を開く。
「ここからこの世界をどのように再構築しましょうか?」
灰の天秤は微動だにしていなかった。




