第7話 プーさんのぬいぐるみ
雨の日だけ、そのぬいぐるみは少し湿った匂いがした。
古い布団みたいな、
長く押し入れに入っていた毛布みたいな匂い。
家に来たのは、小学生の頃だった。
母がディズニーストアで買ってきた、大きなプーさんのぬいぐるみ。
一歳児くらいの大きさがあって、子供だった自分より少し小さいくらいだった。
最初のうちは普通に好きだった。
一緒に寝ていたし、写真にもよく写っている。
でも、少し変だった。
抱くと冷たいのだ。
冬だけじゃない。
真夏でも、腹のあたりがひやりとしていた。
母に言っても、
「綿が詰まってるからじゃない?」
と笑われた。
だから気にしないようにしていた。
ただ、
夜中に時々、
カサ……カサ……
と布の擦れる音がした。
最初は自分が寝返りを打っている音だと思った。
でもある夜、
目を開けると、
ベッドの横にプーさんが立っていた。
立っていた、というより、
寄りかかるみたいに壁にもたれていた。
暗闇の中で、
丸い黒目だけがぼんやり見えた。
悲鳴を上げた記憶がある。
母は、
「寝ぼけたのよ」
と言いながら、
翌日、物置にしまった。
それで終わると思った。
でも、その夜、
またカサ……カサ……
という音がした。
目を開けると、
部屋のドアが少し開いていた。
隙間から、
黄色い布が見えていた。
翌朝、
プーさんは廊下に座っていた。
母は少し嫌そうな顔をした。
「お父さんがちゃんと片付けなかったんじゃない?」
父は否定した。
結局、
今度はゴミの日に出すことになった。
透明な袋に入れられたプーさんは、
妙に小さく見えた。
子供ながらに、
少しかわいそうだと思った。
その日の夜、
寝室の前で、
また布の擦れる音がした。
カサ……
カサ……
ドアを開けると、
廊下の奥が暗かった。
でも、
何かがいる感じだけはした。
それから、
プーさんの話は家でしなくなった。
いつの間にか、
また物置に戻っていたからだ。
誰が戻したのか、
今でも分からない。
母も父も、
「知らない」と言った。
気味が悪くて、
そのまま奥に押し込んだ。
それから何年も経った。
進学して、
就職して、
去年、引っ越しをした。
荷物整理の時、
久しぶりにプーさんを見つけた。
埃をかぶって、
少し色褪せていた。
捨てようと思った。
もう大人だし、
さすがに持っていけない。
粗大ごみの袋に入れて、
回収場所まで持って行った。
今度こそ終わりだと思った。
でも、
新居に越して数日後、
物置の段ボールを整理している時、
奥に何か座っているのが見えた。
暗くて最初は分からなかった。
ただ、
丸い耳だけが見えた。
心臓が嫌な音を立てた。
段ボールをどけると、
プーさんがいた。
前と同じ、
少し湿った匂いがした。
誰にも言っていない。
でも今でも、
雨の日の夜だけ、
寝室のどこかで、
カサ……
カサ……
と、
布の擦れる音がすることがある。
※洒落怖に投稿した話の独立小説版です。洒落怖には2chのオカ板投稿向けに書きました。
https://kakuyomu.jp/works/822139846405988445/episodes/2912051599491600992
※これははまゆうの実体験に近いです。
大量のぬいぐるみ処分時と昨年引っ越しの荷物整理時の2度、プーさんのぬいぐるみを捨てましたが、今、物置に座っています。
中古でなく、ディズニーストアで購入した人間の1歳児くらいの大きさのぬいぐるみです。




