中世編 本編 1話
水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム。この地球上にある原子の種類は、およそ118種類。混血により、複数の原子を操れる者が多数おり、1000年という時を経て、100種類の原子を操れる者もいる。そういった奴が俗に言う、陽子の神。もちろん陽子による原子番号の改造まではできないが、ほぼすべての原子を身にまとい、状況に応じて複数の原子を操る姿はまさに陽子魔法そのもの。
しかしそのような者は世界で見ても数えられるほど。
結局は、操れる原子×化学変化の知識が力だ。
「ほぉ。マグネシウムは、酸素と結合しやすいのか。だが、これがなにに使えるというのだ?」
「1部隊なのにそんなんも分からないのですか?」
正直驚いた。もちろん大前提、この国が弱いということもないし、拉致や誘拐、侵攻という面ではピカイチ。だが、武力が全ての国では、チタンや水銀と言った殺傷能力のあり、珍しい原子を操れる者が覇権を握る。そういうのは、天下りで色々な役職に就けるし、知識がなくとも過大評価されることがある。だが、ここまで知識の浅はかなやつは、自分で言うのもあれだが、俺を雇って正解だっただろう。
「まぁ、本当は今日は国の防衛だが、俺は自由人だから、ちょいと郊外の方で薬草でも採取して来るぜ。お前も来い。」
「はい。植物の見分けは得意なのです。」
1日経ったが、俺以外特に秘書や部下をつけているわけではなく、この人らしくないと感じた。
まぁ、数週間もすれば何人もの妻とイチャイチャしていることくらいわかると思うが。
数分後
草むらに着いた俺たちは人影を見た。薬草を摘んでいる。平民だろうか。いや、彼は恐らく敵国の看護係だろう。目的は俺たちと同じ。一瞬戦闘しようと考えたがここは、しないほうが双方のためだろう。
「あそこに敵兵がいますが、今は薬草の採取が優先です。見つからないように...」
「敵兵?あれか。攻め込むに決まってんだろ!!」
「待ってください。」
「何言ってんだよ。あいつの髪の色的に金属だ。貴重な物質は取っておきてぇ。そしてあいつ、いくつかの瓶を持ってやがる。幹部かなんかか?」
「なら尚更やめるべきです。複数人いる可能性もあります。未知数ですし、リスクがあまりにも大きすぎる。」
「じゃあよぉ、お前が偵察してこい。」
「何をおっしゃって...」
「物質を特定するだけでいい。何かあったら俺が助けに行ってやる。」
相変わらずの自由人だった。そもそも、この世の中複数原子を持っている者のほうが多く、手段を隠すために、水素や炭素や酸素は自然にあるものを使い、持ち歩かない者も多い。だが、俺には『はい』か『yes』しか選択肢がない。
「分かりました。しかし、見つかる前提で行動してください。」
「プラスチック」
炭素、水素、酸素の混合により作れるが、プラスチックはかなり複雑で、博士号を習得してようやく使えるテクニックなので、案の定何も起こらない。
「クリスタリゼーション」
結晶化は俺の得意分野なのだが、光化学的に望遠鏡のような使い方はできない。最終手段か、攻撃用として、取っておく。
「コールド」
氷も一応望遠鏡のような使い方ができるが、シンプルに作るのが下手くそすぎて、空気が混ざり、猫騙し程度の武器にしかならない。
「グラーファイト」
黒鉛。これが一番実用的である。一部ダイヤモンドを使い、反射しやすい鏡の完成。
頑張って見てみるが、瓶自体が無色で何も書いていないため、分からなかったが、総合的にみるとよい報告ができそうだ。
「瓶の中の原子は分かりませんでした。しかしあの敵兵は、おそらくカルシウムです。」
「は?カルシウムは骨だろーが。」
もうだめだ。話が通じない。本当は話している暇もないが、連携を取るために早口で説明する。
「カルシウムは金属的性質を持っているんです。つまり電気を通す導体。そして体の骨も一部カルシウムが含まれていますが、炭素や窒素、リンなどが入った混合物に過ぎません。」
「へぇ〜。まぁいい。つまりは。」
攻撃する構え。こんな攻撃。相手に通じるはずがない。完全なる感覚タイプ。いつ死んでもおかしくない。
「ハード」
「スピン」
『スピン』?聞いたことのない魔法。そもそも、原子魔法というのは化学変化を基本としたものだ。電子魔法という全く違うジャンルのスキルが必要となる。
こいつ、何者なんだよ。
高速で回転する刃は、敵兵を切裂いた。
「それじゃあ、あいつの持ち物でも漁りに行くかね。」
「何勝手なことしてるんですか。敵兵が集まってきますよ。」
「安心しろ。俺は負けたことがない。」
切り裂かれた敵兵が悲鳴を上げ、7人ほどが集まってくる。しかし、装備が乏しいので、おそらく下級の兵士だろう。
「スロー」
敵兵が攻撃するが、『スロー』という一般魔法は今では通用するはずがない。
「ハーダー」
俺はとっさに防御に入る。
「この程度の奴らなら俺一人で倒せます。できる限りたくさんの薬草を摘んで帰ってください。」
「いやだ。俺も戦うね。」
「ショット」
絶対ここは『スピン』のほうが良かったが、『ショット』だけで十分なのだろう。
3人を一気に貫き、それを見た残り4人は逃げていってしまった。攻撃を食らった兵士は即死。最初に薬草を摘んでいた看護係は、中傷だが、自分の知識で治療をしている。もうこめかみに銃を突きつけられているのと同じ、必死にもがき苦しんでも、引き金が引かれてしまえばおしまいだ。
「いきなりこんな事をして申し訳ない。詫びと言ってはなんだが、あなたを生かして酸素魔法療法で、回復させる。」
少し人情が出てしまったのか、気づけば俺は敵兵の看護係に話しかけていた。
「そんなんで、足りると思いますか。」
当然の報い。この人から見れば仲間を殺して、脅した張本人。だが、これ以上俺ができることはなかった。
応急処置を一通り済ませ、薬草を摘んで帰る。帰り道の足取りは重かった。
「待ってください。」
呼び止められ、振り返るとさっきの応急処置をした兵士が立っていた。
「お前生かしてんじゃねぇよ。」
「この人は何も悪くないじゃないですか!」
「ここでは生きるか死ぬかの瀬戸際を俺たちは生きてんだよ。ここで、敵が覚醒したらどうする!陽子魔法の使い手の能力が目覚めたらどうする!立場が逆転することなんぞ日常茶飯事。人情とか言って殺されてきたバカどもを俺は何回も見てきた!だから殺すんだよ。今のところは死者蘇生なんておとぎ話は夢のまた夢...」
「ありますよ。」
敵兵が口を開く。その目はさっきの弱々しい目とは対比するかのように澄んでいた。
「嘘つけ。じゃあここでこいつら蘇生で終わりじゃねぇか。証明しろ!看護係なんだろう。」
「まあまぁ。ここは落ち着いてください。」
俺が必死に止めるが、マジギレしたら終わる。
「正式にはコピーするといったほうが正確でしょう。原子魔法。電子魔法。磁界魔法。陽子魔法。中性子魔法。これらが五大魔法と呼ばれてきました。しかし、わが国アトムでは、『生物魔法』という新たな魔法の種類が生まれようとしているのです。正直、五大魔法は、原子魔法を原点として、他は派生に過ぎませんでした。しかし、まったく違った新形態の魔法が来たのです。生物の生の部分だけをとった画期的なシステム。しかし、これまで原子魔法は、リスクゼロで魔法が使えていましたが、生物魔法には、魔力という別のエネルギーが必要。それが、デオキシ教が長年追い続けた、デオキシリボ核酸。通称DNA。私たちの生きているDNAとつなぎ合わせ、魔法を使うことにより、死者とまったく同じ性質を持った個体が完成します。」
「何言ってんだ?説明長過ぎてなんにもわからん。」
この人なら言うと思った。
「まぁ、つまりあなたたちにはアトムの開催する試合に出てほしいのです。」
「でも、アトム国の試合って、アルカリ金属。アルカリ土類金属。ハロゲン。希ガスのチーム戦だろ。アルカリ土類金属のあんたなら、大丈夫な気がするんだが。」
俺が言うと、敵兵は首を振った。
「そんなことありません。チーム戦とか言ってますが、実際は個人戦で、多くのポイントをとった者のみ、復活者を得られるようになっているのです」
アトム国が、民主主義となり、先進国の余裕も相まって、公式試合に勝ったものが、蘇生魔法を使わせてもらえるらしい。
「決行は来週です。私は最下層の12部隊代表なので、殺されても文句は言えませんが、私の願いを聞いてくれるのであればその試合に出てほしいのです。」
「お前が決めろ。」
俺はそう言われたので、出ることにした。元はといえば、全てこいつのせいなのだが。アルカリ土類金属部門で出場するので、マグネシウムしか、俺は使えないが、知識は人一倍ある。やってやろうじゃねぇか。
こうして、命がけの替え玉試験が始まる。
―原子という名の魔法 中世編 本編 1話 完―




