『第5話:体力測定の終わりに、ババアとの聖戦(ランチタイム)が始まる』
体力測定という名の「阿修羅高校・人間性能テスト」が終わり、グラウンドと体育館には息絶えた男子高校生たちが屍のように転がっていた。
鬼頭先生の網から命からがら逃げ切った俺と統は、汗だくのまま校舎の裏手にある『阿修羅高校指定・第3食堂(通称:ババアの砦)』へと向かっていた。
坂道 統「はあ……はあ……死ぬかと思ったわ。鬼頭先生の網の振り下ろし、時速80キロ出てたぞ。お前、よくハンドボールで網狙えたな」
俺葉 京一「言ったはずだ統。俺の右腕には昨夜の299円ラーメンの宿命が宿っている。ところで統、お前の手にあるその重厚な四角い物体はなんだ?」
統「弁当箱だよ!! おかんが朝作ってくれた愛妻……じゃなくて親愛弁当だよ!!」
そう、統は愛妻ならぬ母の愛が詰まったお弁当持参組だった。
しかし、俺葉を含めた阿修羅高校の亡者たち――早漏走、筋張剛、面胴輝――には、弁当などという文明の利器は存在しない。
早漏「俺の……俺の動脈が唐揚げを求めている……!」
筋張「フンス……胸筋のタンパク質が枯渇した……肉だ……プロテイン入りの米をこせ……!」
面胴「……あー、お腹減った。誰か俺の口に食べ物放り込んで……噛むのめんどいからペースト状で……」
統「知るか!! お前ら自分の足で買いに行け!!」
俺たちは『ババアの砦』の重い引き戸を叩き割る勢いで開け放った。
そこは、阿修羅高校の胃袋を数十年にわたり支配する「三大看板ババア」が鎮座する聖域だった。
俺葉「たのもう!! 男子高校生5名、カロリーの解放を要求する!!」
統「襲撃者のノリで食堂入るな!!」
厨房の奥から出てきたのは、割烹着を着た小柄だが目つきが猛禽類のおばあちゃん――『爆揚げのタエ(82歳)』だった。
タエババア「ウルサイよ野郎ども!! 今日の日替わり『特大チキンカツ重(限定10食)』が食いたきゃ、あたしらの眼光を潜り抜けて注文してみな!!」
俺葉「ふっ……始まったな。阿修羅高校名物『食券争奪・ババアとの聖戦』だ」
統「食券買うだけで命がけなのこの学校!?」
まず動いたのは、陸上部(自称)の早漏走だった。
早漏「俺の爆速注文を見ろ!! タエさん! チキンカツ重一丁――」
タエババア「遅いよ!!」
スパァァァン!!
早漏「ぶはっ!?」
タエババアが放った『キャベツの千切り用トング』が早漏の額にジャストミート! 早漏は食券機に到達する前に撃沈した。
統「フライング注文すら返り討ちにされた!! ババアの反応速度が音速超えてんだよ!!」
俺葉「甘いな早漏。ババアの動体視力は長年の唐揚げ揚げ作業によって鍛え上げられている。次だ、筋肉!」
続いて躍り出たのは、胸筋の塊・筋張剛。
筋張「ぬおおおお! 筋肉の装甲でババアのトング弾く!! カツ重をよこせぇぇぇ!!」
だが厨房から現れた二人目のババア――『仕込みのシズ(85歳)』が巨大な寸胴鍋のフタを盾のように構えた!
シズババア「甘いわ筋張り坊主!! 『絶対防衛・寸胴の壁』!!」
ドガァァァン!!
筋張「グハッ!? 胸筋が……寸胴の圧力に……負けた……!」
筋張のタックルは寸胴のフタによって完璧に受け流され、筋張は床に沈んだ。
統「ババアの防御力が高すぎる!! どんな戦闘訓練受けてんだこの食堂!!」
俺葉「面胴、行け! お前の無気力でババアたちの戦意を削ぐんだ!」
面胴「……あー、めんど。タエさん、カツ重を俺の口までデリバリーしてくれたら、代わりに地球の自転を1秒遅らせるよ……」
タエババア「寝言は寝て言いな!!」
パァァァン!!
面胴「……ぐふっ(即寝)」
統「ただの無気力な暴論だから一瞬で叩き落とされたわ!!」
残されたのは、俺と、なぜか巻き込まれている統の二人だけになった。
厨房の奥から三人目のババア――『最長老・キヨ(91歳)』がレジカウンターの奧で怪しく目を光らせている。
俺葉「統……見ろ。キヨババアの手にあるものを」
統「……あ、あれは!?」
キヨババアが掲げていたのは、黄金に輝く『特大チキンカツ重』の最後の1食だった。
キヨババア「ヒヒヒ……この最後の1食が欲しくば、我が『手編みのコースター売りつけ攻撃』を破ってみな……!」
俺葉「くっ……! 最長老の押し売り攻撃……! 勝てる気がしねえ……!」
統「勝てる気がしねえじゃねえよ! おい京一、お前ここに来た目的忘れてんぞ!!」
その時、統が自分のカバンから「おかん特製弁当」を取り出した。
統「おいババアたち! 俺のこの『玉子焼き(甘め)&タコさんウィンナー弁当』と、そのチキンカツ重トレードせえへんか!?」
ババア一同「「「なに……!? 男子高校生のおかんが作った手作り弁当だと……!?」」」
ババアたちの動きが止まった。
数十年間、男子高校生に茶色い揚げ物しか提供してこなかったババアたちにとって、家庭の温もりあふれる「手作り弁当」はまさに伝説の秘宝だったのだ。
キヨババア「……くっ、玉子焼きの黄色が眩しすぎる……! 敗北だ……持っていきな、少年……!」
サッ……!
統「よし、チキンカツ重GET――って、おい京一ィィィ!! なんでお前がそれ食っとんねん!!!」
俺葉「んむ……うまい! 299円のラーメンの100倍うまいぞ統! ババアの揚げたチキンカツは細胞に直接届く重厚感があるな!」
統「人の弁当を勝手にトレードの出汁に使って、手に入れたカツ重を真っ先に横取りすなーーーっ!!!」
俺葉「統、安心しろ。俺はお前のために、この『キヨババアの手編みコースター』を預かっておいた」
統「いらんわ!! 俺の昼飯返せーーーっ!!!」
ババアたちの温かい(?)差し入れと、統の悲痛な叫び声が、阿修羅高校の第3食堂に虚しく響き渡るのだった――。
よろしければ次回も読んでいただけると幸いです。
弁当のありがたみがわかる大人になりました。
次回もお楽しみに!




