第4話 阿修羅高校の体力検査と、直球すぎる男
統「おい京一。今日は地獄の体力測定だ。阿修羅高校の体力測定は毎年、救急車が巡回するレベルでカオスになるらしいぞ」
俺葉「ふっ、恐るるに足らんよ統。俺の身体能力は昨夜の299円ラーメンの吸収と、201号室(母体)の鍵の解錠によって極限まで研ぎ澄まされている」
統「ハンガーで自室の鍵開けただけだろ。体力関係ねえよ」
グラウンドに出ると、体育教師の「鬼頭先生」が笛を吹き鳴らしていた。相変わらずの手にはなぜか魚すくい用の網だ。
鬼頭「よし野郎ども! 今日の体力測定は阿修羅高校の伝統行事だ! 記録が全国平均を下回った奴は、放課後グラウンド10周の刑だからな!」
クラスメイトたちがざわつく中、まず始まったのは50m走。
俺たちの隣のレーンに立ったのは、名前からしてすでにオチがついているクラスメイト、早漏 走だった。
早漏「ふふふ……俺の脚力を受けてみろ!」
モブ「位置について、よーい……」
早漏「うおおおおお!!!」
ピピーーーッ!!
統「フライングだ!! 早漏!! お前号砲が鳴る前に20m進んでるぞ!!」
俺葉「ツッコミのキレが光るな統。彼は名前の通り、フライングのフライングによるフライングのための男だ」
統「名前通りすぎて哀しくなるわ!! 測定すらされてねえよ!!」
続いては、体育館での立ち幅跳び。
そこに登場したのは、全身が隆々とした筋肉で覆われた男、筋張 剛。
筋張「見ろ京一、筋張が跳ぶぞ」
筋張はフンスフンスと鼻息を荒くしながら、巨大な大胸筋をペチペチと叩いている。
筋張「胸筋の収縮を利用して、俺は重力を超える!! ぬおおおおお!!」
ドシーン!!
筋張はその場から一歩も前に跳ぶことなく、ただ真上に跳んでそのまま直滑降でマットに沈んだ。記録、15センチ。
統「跳び箱の踏み切り板忘れたんか!! 大胸筋アピールして真下に落ちてどうすんねん!!」
俺葉「いや統、彼は重力に勝ったのではない。重力に愛されたのだ」
統「ポジティブに失敗を評価するな!!」
そして極めつけは、長距離のシャトルランだった。
ドレミファソラシドの音に合わせて走り出す生徒たちの中、列の端にいた面胴 輝は、開始1秒でマットの上に寝転がっていた。
面胴「……あー、めんど。走るのめんど。地球が回ってるから実質俺も移動してるだろ」
統「物理学の暴論でサボろうとするな!!」
統のツッコミがグラウンドと体育館に響き渡る中、俺たちの番が刻一刻と近づいていた――。
鬼頭「面胴! 起きろ! 地球の自転に移動を任せるな!」
鬼頭先生の怒声が体育館に響き渡る中、ついに俺葉と統の番がやってきた。
種目は上体起こし(腹筋)とハンドボール投げだ。
まずは上体起こし。俺がマットに横たわり、統が俺の足首をガッチリと固定する。
統「いいか京一、30秒間で何回起き上がれるかだ。変なボケ挟まないで真面目にやれよ」
俺葉「安心しろ統。昨夜、201号室(母体)で培った俺のインナーマッスルが叫びたがっている。測定開始の合図とともに、俺は光となる」
統「光にならんでええから腹筋しろ」
ピピーッ!
合図と同時に、俺は全身の筋力を解放した。
だが、俺の体は上体を起こすのではなく、マットの上でイモムシのように高速で左右にうごめき始めた。
俺葉「ぬおおおおお!! 腹筋の波動を感じる!!」
統「何やってんの!? 全然起き上がってないよ!! ただ床でジタバタ暴れてる不審者だよ!!」
俺葉「黙れ統! これは『進化系・全自動省エネ腹筋』だ! 上体を起こすという概念を捨て、腹筋の振動だけで運動量を稼ぐ!」
統「カウント1も入ってねえよ!! 0回! 30秒間ただ床を這い回った0回だ!!」
ピピーッ!(終了の合図)
俺葉「ふぅ……良い汗をかいたな」
統「汗だけかいて記録ゼロの男、初めて見たわ」
統の冷ややかな視線を浴びつつ、最終種目のハンドボール投げへと移動する。
グラウンドの投球サークルに立つ統。
そのシュッとした立ち姿から放たれたボールは、綺麗な放物線を描いて35メートルの大記録を叩き出した。
俺葉「おおー! やるじゃん統! 普通にすごいの腹立つな!」
統「普通で何が悪いねん。よし京一、次はお前だ。変なことすんなよ」
俺葉「フッ……任せろ」
俺はハンドボールを握りしめ、サークルの中で静かに目を閉じた。
風を感じ、グラウンドの土の匂いを嗅ぎ、昨夜の299円ラーメンのパワーを右腕に集約させる。
俺葉「見よ、これが俺の――『時空歪曲投法』!!」
俺は全身をしならせ、渾身の力でボールを前方へと投げ放った!
スパァァァン!!
俺葉「あ」
俺の手から離れたボールは、前方のグラウンドではなく、真真後ろ――つまり、記録を計測しようとパイプ椅子に座っていた鬼頭先生の網(魚すくい用)にスポッと吸い込まれた。
静まり返るグラウンド。
網の中に収まったボールを見つめる鬼頭先生。
統「……記録、マイナス2メートル。および、鬼頭先生へのダイレクトアタック」
統が静かに呟いた。
統「京一……走れ」
俺葉「言われなくても!!」
鬼頭「待てコラァァァ野郎どもぉぉぉ!! 網で捕獲して全員補習じゃああ!!」
鬼頭先生が怒号を上げながら網を振り回して追いかけてくる。
俺と統は体力測定の途中にもかかわらず、本気の猛ダッシュで校舎へと逃げ込むのだった――。
よろしければ次回も読んでいただけると幸いです。
いえい!!フライングマン!!!!
次回もお楽しみに!




