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第20話 カノポス匣

あの件? 誰かが来るのか?


僕は賭けのテーブルに向かって怒鳴り散らすジャックの背中を見ていた。この二人が話していたことが林雪から言われた任務と関係あるのかは確証できないが、見逃すわけにはいかない。


そこまで考えて、僕は壁にもたれかかり、黙ってジャックを見つめた。


時間が少しずつ過ぎていく。三十分、一時間、二時間。


ジャックはまだ賭けのテーブルの前に座ったままで、立ち去る気配はない。


僕は端末で紗夜とアナスタシアにメッセージを送った:『任務に関係しているかもしれない人物を尾行している。だが確証はない。何か見つけたら、必ず知らせてくれ。』


それから僕は端末を再びポケットにしまい、ジャックを見た。


さらに二十分ほど経って、ジャックはようやく賭けのテーブルを離れた。かなり機嫌が悪そうだ。負けたのだろうか?


いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。


僕は頭を振って、非現実的な考えを振り払った。


僕はジャックの後をつけた。足音はできるだけ潜め、しかもカーペットのおかげで、尾行はまったく音を立てない。


ジャックは歩きながら小声で悪態をついていて、注意はまったくこちらに向いていない。おかげで尾行はさらに楽になった。


ジャックは下層に留まるつもりはないようで、ひたすら上層へと歩いていく。一層ずつ進み、中層を通り過ぎて、あっという間に上層へと着いた。


上層に行くほど警備員や店員は増えていくが、幸いなことに、彼らは僕たちをちらりと見ただけだった。


確か上層は主にスイートのような休息エリアと、プールやシアターのような娯楽施設がある場所だったはずだ。


ただ、紗夜の姿は見えない。まだ別の区域を捜しているのだろう。


ジャックはスイートの廊下へ歩いていった。カーペットはかなり柔らかく、踏むと綿の上を歩いているようだ。


廊下は全体が真っ直ぐに通っていて、角はない。見つからないように、僕は適当に壁にもたれかかり、携帯を見るふりをしながら、視界の端でジャックを観察した。


ジャックは突き当たりまで行くと、部屋のドアを開けて中に入った。


困った。部屋に入ってしまった。中には入れないし、ドアに張り付いて聞き耳を立てれば、この警備員たちに気づかれる。


どうやら今はここまでが限界のようだ。次の層のレストランへ行って、ゆっくり張り込もうとしたところで端末にメッセージが届いた。紗夜からだ。


『上層の倉庫で発見があった。』


紗夜のメッセージを見て僕はすぐに動き出した。ただ、倉庫がどこにあるのかは僕も分からない。幸い店員がたくさんいたので、倉庫へ荷物を取りに行くとうそをつき、歩きながら聞いて、どうにか倉庫のある場所までたどり着いた。


倉庫の扉を押し開けて中に入ると、倉庫には豪華で美しいギフトボックスがたくさん積まれていて、ほかにも私物のような物が置かれていた。どれも例外なく、かなり高価そうだ。


紗夜は倉庫の隅に立っていた。彼女の足元には、作業服を着た男性が一人倒れている。


僕は仕方なく歩み寄り、その男性を見た。


「これはどういうことだ?」


「気を失っている。」


紗夜はこちらを振り返りもしなかった。代わりに一つの木箱を見つめている。木箱には模様が彫られていて、その模様は雲と水のようで、写真に写っていた骨壺の模様とまったく同じだった、


僕はその木箱を見た。木箱には錠前が付いていて、錠前はそれほど大きくない、小さな錠前だ。


「これは.......」


「分からない。だが、任務と関係があるはずだ。」


紗夜は木箱を手に取ると、龍切を抜いて鉄の錠前をそのまま真っ二つに斬った。


木箱の中には一つの物が収められていた。スカラベ、純金で作られたスカラベ、それ以外には何もない。


ただし、スカラベの甲殻にも同じ雲水の模様が彫られていて、これで任務の目標と多少なりとも関係があるとほぼ確認できた。


紗夜は木箱とスカラベをそのまましまい込もうとはせず、すぐそばの人目につきにくい隅に置いた。


僕はすぐに紗夜の意図を理解した。倉庫の中に隠れているつもりで、誰かがスカラベを探しに来たら、そいつが任務の目標と大きな関係があるということだ。


僕はまず気を失っている作業員を隅に隠し、それから紗夜と一緒に反対側に身を潜め、誰かがスカラベを探しに来るのを待った。


ただ、アナスタシアはこんなに経っても来ないし、メッセージの返事もずっとない。少し心配になってくる。


僕は端末を一瞥した。アナスタシアからの返信はまだない。


紗夜はずっと倉庫の入り口を睨んでいたが、こちら側の様子にも気づいているはずだ。


「彼女の心配は要らない。何かあれば、きっと大きな騒ぎになる。」


「彼女が一人で調べているだけならいいんだが。」


僕は仕方なく端末をポケットにしまった。本当にそうであることを願うしかない。


〇


一時間が過ぎた。その間、僕と紗夜はずっと隅に立っていたが、誰も来なかった。僕が少し眠たくなってきた頃、扉が押し開けられた。


一人の男性が入ってきた。賭け場でジャックと話していたあの男性だ。彼はほとんど迷うことなく、木箱が元々置かれていた場所まで歩いていったが、そこがもぬけの殻なのを見た。


自分の目に映ったものを信じられないかのように、男はそこら中を探し回り、他の船客の荷物をあちこちに投げ散らした。


紗夜が手を出そうとしたので、僕はすぐに紗夜の手首をつかみ、今は動かないようにと伝えた。


紗夜は僕を見た。僕がそっと首を振ると、彼女はようやくその場に立ち止まり、動かなくなった。


僕はその男を見ていた。物が消えたと気づけば、彼はきっとジャックを呼び寄せる。その時に動いても急ぐことはない。


案の定、その男は携帯を手にその場で焦ってぐるぐると回り、やがて携帯に向かって怒鳴りつけた:


「ジャック、今すぐここへ来い、すぐだ!」


そして返事を待たずに、男はすぐに通話を切ると、扉の前に立ってジャックを待った。


七八分ほど経って、ジャックが慌てふためいて倉庫の中へ駆け込んできた。


ほとんど迷いもなく、男はすぐにジャックの襟元をつかんで怒鳴った。


「ジャック! 問題ないって言っただろう?! 物はどこだ?!」


「あ、ありえない。確かにここに置いたんだ。」


ジャックは震える指で木箱が元あった場所を指さし、恐怖の声を上げた。


男はジャックをそのまま引き寄せ、その頭を木の棚に押し付けた。


「どこだ? どこに置いた?」


「なぜだ、なぜここにない。」


ジャックは両手であちこちを探り回ったが、探している木箱にはまったく触れられない。


「ロイ、きっと倉庫の管理人に盗まれて隠されたんだ。そうだ、絶対にそうだ。」


「ジャック!」


ロイと呼ばれた男はジャックをつかみ、その頭を木の棚に強く押し付けた。


「カノポス匣をどこに置いた?」


「お、俺の部屋だ。金庫にしまって鍵をかけた。あの時、あれは単独で保管しなければならないって連中が言ったから、ずっと金庫の中に置いてある。」


ジャックは震えながら答え、ロイを見た。


「カノポス匣は失くなっていない。絶対に失くなっていない。」


「ジャック、もしカノポス匣を失くしたら、お前も俺も終わりだ。」


ロイはジャックをじっと睨みつけ、嘘をついていないと確認してから手を離した。


僕と紗夜は物陰に隠れて、そのすべてを聞いていた。


カノポス匣とは何だ、あの骨壺のことか? カノポスとは何なのか、何か神話に出てくる名前のように聞こえる。


だが、考え込んでいる暇はない。あの二人はもうすぐ立ち去ろうとしている。


僕と紗夜は一瞬目を合わせると、すぐに飛び出した。僕がジャックを、紗夜がロイを抑える。


二人は倉庫に自分たち以外の人間がいるとはまったく思っておらず、完全に不意を突かれて、叫ぶ暇さえ与えられぬまま僕と紗夜に取り押さえられた。


僕はジャックを押さえつけ、紗夜はロイを地面に打ち倒してから、見下ろすようにロイを見た。


「お前たちは誰だ?」


ロイの声は先ほどの怒鳴り声よりずっと小さく、悔しさがにじんでいた。


僕は少しも迷わず、すぐに写真を取り出して二人に見せた。二人は驚いたように写真を見つめ、そしてすぐに口を閉じて顔をそむけ、多くを語ろうとしなかった。二人が任務の目標と関係があることは、ほぼ確実だ。


僕は手でジャックを押さえ、さらに鞘でジャックの四肢を押さえつけた。ロイの問いには直接答えなかった。何しろ彼のほうが、ジャックより口を割らせるのが難しそうだから。


「武高だ。今から、僕たちを、お前たちがさっき話していたカノポス匣のところへ連れて行ってくれるか?」


「てめえ! ゴホッ、ゴホッ......このガキども、俺を放せ。」


ロイは声を張り上げて怒鳴ろうとしたが、激痛のせいで何度か咳き込み、声はまた元の大きさに戻った。


「僕たちに会う人はみんな僕たちをガキって呼ぶんだ。それもちょっと困るんだけどね。」


僕は手で鞘にぐっと力を込め、ジャックを見続けた。強まった力が彼を苦しめ、体が絶えずもがいている。


「もう話せるか? それとも、君の部屋へ連れて行ってくれてもいいよ。」


「あ、あいつらは、俺たち二人を殺す。」


ジャックは体をよじらせて逃れようとしたが、もがけばもがくほど苦しくなった。


「ないよ。僕たちがここにいる限り、君たちは死なない。ただ、カノポス匣のことを話してくれなければ、君たちの安全は保障できない。」


「いや、やめろ。」


ジャックは恐怖で体をよじらせていて、どうやらまだまったく話す気はないようだ。


僕が紗夜を見て、何か手はないかと尋ねようとしたまさにそのとき、アナスタシアが扉を押し開けて入ってきた。


倉庫のこの光景を見て、彼女は鉄の扉を閉めると笑いながら言った:


「もう終わってたのか。上出来だな、あたしも楽できたよ。」


「アナスタシアさん、さっきは何をしていたんですか? 中層でそんなに長く調べていたんですか?」


僕はジャックを押さえ続けながら、拘束の力を少し緩めた。


「まさか。中層には監視室があるんだよ。」


アナスタシアは手を振り、いらいらした顔をした。


「あの氷の女が倉庫でいきなり作業員を殴り倒しやがってさ。あたしが偶然監視室でその警備員どもを殴り倒してなかったら、あんたら二人はとっくに囲まれてたぞ。」


「なるほど。本当にありがとう。」


僕はクルーズ船に監視カメラがあることを、すっかり忘れていた。


紗夜は相変わらず、あの冷たい表情のままだ。


まさか、アナスタシアが監視室に着いたと思ったからこそ、紗夜は倉庫の管理人を殴り倒したのではないだろうか。


僕がそう考えていると、アナスタシアはジャックの前へ歩み寄ってしゃがみ込み、手でジャックの髪をつかんで顔を上げさせた。


「二人とも取り押さえられたってことは、任務に関係あるんだろ。さあ、大人しく話しな。」


そう言うと、彼女の指先から白い風が漂い出て、ジャックの体へと届いた。


感じ取れる。ジャックの体が急に大きく震え、それから絶え間なく震え始めた。


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