第19話 クルーズ船
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生徒会を出たときには、すでに真夜中に近かった。日が暮れてきたせいか、気温もさらに少し下がったようだ。
僕は無意識に首をすくめた。
政務棟を出ると、街灯は疲れも知らずに照らし続けていて、かすかな虫の声だけが絶えず耳に入ってくる。
アナスタシアが先頭を歩いていたが、やがて足を止めて紗夜を見た。
「それで、お前がまさか蘭の小隊に入ることに同意するなんてな。」
「どの小隊に入るかは私の自由だ。」
紗夜は足を止めず、そのままアナスタシアの横を通り過ぎていった。
「お前、人の話はちゃんと聞けよ!」
彼女は歯を食いしばってすぐに速度を上げ、紗夜を追いかけていった。紗夜の行く手を遮ろうと、手まで伸ばしている。
この二人は一緒にいると、四六時中口喧嘩ばかりしているように感じる。
「喧嘩はやめてください。」
二人がこれ以上言い争わないように、僕は口を挟んで止めるしかなかった。
「神代さん、小隊に入ってくれてありがとうございます。これからは小隊メンバーですね。アナスタシアさんも少し落ち着いてください。これからはみんな仲良くやっていけたらと思います。」
「ちっ。」
アナスタシアは不機嫌そうな声を漏らして紗夜を見た。
紗夜は彼女の視線を無視して言った:
「ああ、小隊の申請はもう青葉さんの端末に送ってある。」
「よろしくお願いします、神代さん。」
僕は端末を取り出した。案の定、すでに通知が来ている。僕が『同意』のボタンを押すと、小隊メンバーは三人になった。
僕は端末をポケットにしまい、アナスタシアを見た。
「あの、さっきは手合わせが中断されて、勝負がつきませんでした。アナスタシアさんは、それでも僕の小隊メンバーになってくれますか?」
「中断されなければ、規則通り私の負けだ。」
彼女は顔をそむけて僕を見なくなり、声もだんだん小さくなっていった。
「手合わせの結果が分からないほど、私も落ちぶれちゃいない。」
「アナスタシアさん、ありがとうございます。これから仲良くやっていきましょう。」
僕はすぐに彼女へ感謝を伝えた。
先頭を歩く紗夜が僕たち二人を見て言った:
「少しは自分というものを分かっているようだな。」
「何だよ、この野郎、喧嘩売る気か?!」
アナスタシアは拳を握りしめて紗夜のほうへ歩いていき、歩きながら拳を振り回していた。
「その余った精力を、規則を破ることではなく他のことに向けられたら、お前は何をやっても成功するんだがな。」
紗夜は振り返って先頭を歩き、アナスタシアを完全に無視した。
「やっぱり喧嘩はしないほうがいいと思います。喧嘩するより、先にどうやって任務を果たすかを話し合ったほうがいい気がします。」
僕はため息をつき、仕方なく二人の後ろに続いて最後尾を歩いた。
〇
翌日の深夜。
僕たち三人は埠頭に来た。黄色くくすんだ灯りが地面を照らし、僕たち三人の影を斜めに地面へ映し出している。
僕は頭を揉みながらため息をついた。まさか事がここまで運ぶとは思ってもみなかった。
最初はちゃんと計画を話し合って、その計画通りに進めるつもりだった。でもアナスタシアがずっと口喧嘩を吹っかけていたせいで計画はまったくまとまらず、その場その場でやっていくしかなかった。
クルーズ船はかなり巨大で、埠頭に停まっていて、いつでも出発の準備ができているように見える。
クルーズ船はさらに灯りが煌々としていて、周囲の埠頭の薄暗い灯りまで追い払ってしまったようだった。
クルーズ船の前では、僕たち三人は蟻のように小さかった。外から船を眺めても、ガラス越しに内部の様子が少しだけ見えるだけだ。プール、レストラン、さらには劇場にダンスホールまで揃っていて、外にいてもそこにある贅沢さが感じられた。
アナスタシアは両腕を組んでいて、少しばかりいら立っているように見えた。
「それで、任務の目標はこの船の上にあるのか?」
「副会長から教えてもらった住所なら、ここで合っているはずです。ただ、クルーズ船がこんなに大きくて、あの物は小さいですから、探すのは骨が折れます。」
「もうどうでもいいから、さっさと乗って物を見つけて任務を終わらせればいいんだ。ここには一秒だって居たくない。空気まで臭く感じる。」
彼女はとりわけ苛立っているようで、特にクルーズ船を見てからは、いっそううんざりした様子だった。
「お前のその単純な頭にはもう期待していないが、その一点だけは少しだけ同意してやってもいい。」
紗夜はそう言いながら先頭を歩いていった。彼女の腰には龍切が下がっていて、銃は持っていない。クルーズ船の上で発砲するのはかなり面倒だから、僕たち三人は誰も銃を持っていなかった。
「あの、臭いって何のことですか? 僕には海風の匂いしかしない気がします。」
僕は鼻を動かしてみたが、臭いはしなかった。どこにでもある、海風の生臭い塩気だけだ。
紗夜は振り返って僕を一瞥して言った:
「そういうことじゃない。金の臭いだ。一時の快楽のためだけの施設に、これほどの金を注ぎ込むことで生まれる臭いのことだ。」
そう話しているうちに、僕たち三人はクルーズ船の入口まで来ていた。身長が190センチ、2メートルに近いと思われる巨漢が二人、入口を守っている。二人はスーツを着て、手にはナックルダスターを嵌め、腰にはホルスターを下げているが、中に拳銃が入っているかまでは確認できない。
「お客様方、少々お待ちください。」
巨漢は手を伸ばして僕たち三人の行く手を遮った。
「ここは会員制のクルーズ船です。会員証をご提示ください。」
会員証、そんなものは林雪はまったく教えてくれなかった。これはまずい。
どうしようか、いっそ別の入口からクルーズ船に入るべきかと考えていると。
紗夜はポケットから武高の学生証を取り出した。
「私たちは武高の生徒だ。任務で来た。」
巨漢は紗夜の学生証を見ても道を譲らず、その場に立ったまま行く手を阻んで言った:
「武高の生徒のことは尊重していますが、ここは会員制です。会員でなければ入場はできません。」
紗夜は学生証をポケットにしまい、冷たい目で二人を見た。
「お前、あいつらと何をぐだぐだ喋ってるんだ?!」
アナスタシアはもう待ちきれなくなって、紗夜に向かって叫んだ:
「まったく、お前には呆れる。」
僕は最後尾にいたアナスタシアを見た。彼女はもう動いていて、いきなり先頭へ飛び出し、巨漢を睨んでいた。
「一度しか言わないぞ。お前たち二人とも、さっさとどけ。」
「......」
巨漢は黙って彼女を見て道を譲らず、かえって通路を完全に塞いだ。
それを見てアナスタシアは嘲笑を漏らして言った:
「ハ、どうやら道を譲る気はないようだな。」
まずい、まさか直接手を出すつもりじゃないだろうな。僕はその様子を見て彼女を止めようとした。
しかし、もう遅かった。
彼女はすでに拳を打ち出していた。拳が巨漢に叩き込まれる。
巨漢も、アナスタシアの力がこれほど強いとは思っていなかった。一発の拳で床に膝をつき、何度もえずいていた。
まずいぞ。こうなったらもう手を出すしかない。そうしなければ騒ぎになって、任務に失敗したら面倒だ。
僕が手を出そうとしたときには、紗夜がもう鞘で別の巨漢の腹を打っていた。こちらの巨漢はもっと悲惨で、床に倒れて何度も大きく息を吸い込んでいた。あまりの激痛に息ができないようだ。
手を出してから終わるまで、ほとんど2秒もかからなかった。二人の巨漢は抵抗する間もなく、すぐに組み伏せられた。
僕はアナスタシアを見た。話がこじれるとすぐ手を出すのは予想外だったが、ともあれクルーズ船には楽に入れるようになった。まあ、いいことではあるだろう。
「アナスタシアさん、次に手を出すときは、少し早めに言ってくれたほうがいいと思います。」
「先に言ったら、あの二人に気づかれるだろ? でも神代、お前がまさか反応するとはな。」
アナスタシアは紗夜を見たが、紗夜は彼女をまったく見もせず、ただ黙って入口を見つめていた。
僕は仕方なくため息をつき、それから二人の巨漢の後ろへ回り、二人の首に手を当てて言った:
「少し我慢してくれ。すぐに痛くなくなるから。」
僕は手刀を巨漢の後ろ首に打ち込み、二人を気絶させた。
僕は二人を引きずり、人目につかない場所に置いてから、ようやく入口の前へ戻った。
その間に二人は鉄の扉を開けていた。どうやったのかは分からないが、ともかく中に入れるようになった。
クルーズ船の中へ入っていく。
豪華な装いの金持ちがあちこちにいて、皿を運ぶ店員や体の大きな警備員がそこらじゅうにいた。
ありがたいことに、僕たち三人に気づく者はいなかった。
僕は林雪から渡された任務の写真を取り出して見た。こんな小さな物が、こんなに大きなクルーズ船に隠されているなんて、いったいどこを探せばいいんだ。
任務を渡すなら、情報もできるだけ多くくれればいいのに。
手も足も出ないでいると、紗夜が口を開いた:
「手分けしよう。私は上層、青葉さんは下層、アナスタシアは中層だ。三層に分かれて捜索する。」
「は、はい。」
僕は写真を端末で撮り、紗夜とアナスタシアにそれぞれ送った。
アナスタシアも拒否せず、それから僕たちは手分けして動き始めた。
〇
一番下の層まで来ると、そこは水中展望回廊だった。層全体が水中の青い光に包まれている。実際、ここには何も隠せない。通路の全体が透き通っていて、何かを隠せばたちまち露見してしまうからだ。
僕はしかたなく、一番下の層から一つずつ上へと捜索していった。
水中展望回廊の上はワインセラーだった。木箱にはワインや強い酒がたくさん蓄えられている。僕は酒については何も分からないので、酒の入ったガラス瓶から、それがかなり高価なものだと判断するくらいしかできない。僕は桜切で木箱を一つずつ開けていったが、強い酒があるだけで、ほかには何もなかった。
さらに上へ行くと、VIPカジノだった。
カジノには大勢の人が集まっていて、警備員の数も多く、店員も入口より多かった。
僕が入ってくるのを見ても、警備員は僕の桜切を一瞥しただけで、止めることもなくそのまま見回りを続けた。
僕は一番人が集まっているポーカーテーブルへ行き、横から覗き込むように見た。
ギャンブルは当然まったく分からないし、なぜこの人たちがポーカーに向かって大声を上げたり大笑いしたりするのかも分からなかった。
ちょうど僕が立ち去ろうとしたとき。
一人の男が慌ただしく歩いていて、うっかり僕にぶつかった。謝りもせず、すぐに外国人のような風貌の男のそばへ小走りに駆け寄って言った:
「ジャック、ジャック。あの件はどうなった?」
「とっくに片付いてるよ。どうしたんだ?」
ジャックと呼ばれた男の注意は完全に賭けのテーブルに向いていた。
「何がどうしたっていうんだ? ジャック、もう遊ぶのはやめろ。あの件のためにクルーズ船へ来る奴がいるって聞いたぞ。」
男はジャックの肩をつかんで何度も激しく揺さぶった。
ジャックはいら立たしげに男の手を払いのけた。
「それがどうした? クルーズ船はこんなに大きいんだ。来るのが一人だろうが十人だろうが、ここを見つけられるはずがない。」
男はじっとジャックを睨みつけて言った:
「そうだと本当にいいがな。あれを失くしたら、お前も俺も終わりだ。」
「分かった分かった、もう行けよ。絶対に問題は起きない。」
ジャックはいら立たしげに男を追い払った。




