第10話 苦戦
神代紗夜も僕を見た。もっと正確に言えば、すでに桜切を見ていた。そして得心したような表情を浮かべ、刀を構えてその女性と向き合った。
僕もすぐに刀を構えてその大人の女性に向き合い、いつでも攻撃や防御ができるようにした。
「ふふ……」
大人の女性は軽く笑うと、短剣を二度ほど振ったが、前に進み出ることはなく、僕と紗夜の刀に目を向けた。
「武高のガキどもは本当にかわいくないわね。初対面だってのに、二人そろって刀を向け合うなんて、挨拶もできないんだから。」
「囚人……あるいは死人に、多言は無用。」
紗夜は冷たく応じた。
「死人、囚人、本当に聞こえが悪いったらないわ。でも、あなたが犠牲になった時、墓石に刻まれる殺し手があたしじゃないって、どうして思えるのかしら?セラフィナ・ヴァルガ、どう?あたしの名前、なかなかいいでしょう?」
「絶対に起こらないことなど、考えるつもりはない。」
紗夜は言い終えると、すでに一歩踏み出して攻撃を仕掛けていた。紗夜が突っ込んでいくのを見て、僕も少しの迷いもなく紗夜の後ろに続いて突っ込んだ。しかし、スクールバスの中の狭い空間と、そこら中にいるクラスメートのせいで、紗夜と効果的に相手を制圧することができない。僕は紗夜から半歩ほど後ろの距離を取って、二人が互いに邪魔し合わないようにするしかなかった。
紗夜が斜めに一閃、セラフィナの首筋へ斬りかかる。セラフィナは腰を屈めてかわすと、短刀を紗夜の腹部へ突き出した。紗夜はすぐに体を横へひねって避け、続けてセラフィナへ横薙ぎに斬りかかる。スクールバスの通路は一人半がやっと通れる幅しかなく、紗夜が前にいるせいで僕は左右から押さえ込むことができない。仕方なく、紗夜が横薙ぎを放つとき、反対側から突きを入れて隙を探るしかなかった。
『ガキン!』
火花が飛び散る。僕の突きは、セラフィナまであと十数センチというところで妙に逸れた。まるで何かの力が切っ先を押しのけたかのようだ。その力は完全に予想外で、僕の刃は脇へ流れて空を切った。一方、紗夜の横薙ぎはセラフィナに短刀で受け止められていた。セラフィナは紗夜を見つめ、右手の短刀は短く見えるのに、紗夜の攻撃を寸分も前へ進ませない。
正面から短刀で紗夜の横薙ぎを受け止めたなんて、セラフィナの力はどれだけ強いんだ?
しかし、これ以上考える暇はない。僕はすぐに桜切を引き戻し、紗夜が後退して避けられる空間を空けるために、少し後ろへ下がった。
「ふふっ、起こらないことは予想しないって?」
セラフィナは短刀を上へ払って紗夜の刃を弾くと、続けて左手の短刀で紗夜の腹部を刺しにいった。
幸い、さっき僕が後ろに下がって紗夜に空間を空けておいたおかげで、紗夜はセラフィナのこの一撃をかわすことができた。
セラフィナは紗夜が後退し、その背後に僕がいるのを見ると、攻撃をやめて自分も数歩下がり、再び距離を取った。
セラフィナは短刀を揺らしながら、一人で二人を相手にしていることをまったく気にしていないようだった。まるで僕たち二人が屠られるのを待つ子羊であるかのように。彼女は笑って言った:
「じゃあ、この小僧が来ることは予想してたのか?しかもあんな武器を持って。面白いじゃないか?」
その一言で紗夜は一瞬だけ固まった。セラフィナがなぜそんなことを言うのか、予想していなかったようだ。
しかし、その一秒にも満たない隙に、セラフィナは短刀を一本投げつけた。短刀は空気を裂く音を立てて凄まじい速さで紗夜へ飛び、今にも突き刺さりそうだったので、僕はすぐに桜切を投げて阻んだ。
桜切と短刀は空中で衝突し、二つの武器はどちらも弾き飛ばされた。その結果、なんと桜切のほうがより遠くへ弾き飛ばされてしまった。僕は手を伸ばして磁力を操り、桜切を空中で手元へ戻した。
紗夜は桜切と短刀がぶつかるのを見てから、ずっとセラフィナをじっと見据えていた。さっきの戦闘中にたった一言で気をそらされた自分のことを、悔いているようだった。
そしてセラフィナは唇を軽く噛み、虚空をぐいと引く。その時になって僕は、一本の糸が短刀の柄に絡みついていることに気づいた。糸は極細なのに、さっきの戦闘を経ても切れなかった。それだけで、その糸がどれほど丈夫か分かる。セラフィナがそっと引くと、短刀は空中に弧を描いて手元へ飛び戻ってきた。
「なるほど、こういう能力か。ふふ、かなり使い勝手がいいな。武器を自由自在に空中で操れるなんて。」
セラフィナは短刀を弄びながら僕を見つめる。その目は何を考えているのか分からない。
僕はセラフィナを見つめる。ほんの数回やり合っただけで、セラフィナは僕の能力をほとんど見抜いてしまった。
だが、今はそんなことを考えている場合じゃない。さっきなぜ突きが逸らされたのか、その疑問はまだ解けていない。これ以上むやみに攻めるわけにはいかない。今回は突きが空を切って空気を刺しただけだったが、もしこれが他のクラスメートや紗夜の方向へ逸らされていたら……
まずい、この情報はすぐに紗夜と共有しないと。
僕は紗夜の背中に少しだけ近づき、小声で言った。
「さっき、セラフィナまであと十センチぐらいのところで僕が突きを放ったとき、切っ先が誰かに押されたみたいに『偏移』したんだ。」
「分かった。」
紗夜は振り返らず、相変わらずセラフィナを見据えて隙を探っていた。
「ふふ、お嬢ちゃん、その目つきは危ないよ。」
セラフィナは傍らの生徒の肩に手を置く。その生徒は怒りに満ちた目でセラフィナを睨むだけで、少しも動こうとしない。声を出すことさえ、その手を払いのけることさえできない。
セラフィナは紗夜の冷たい表情を面白がるように見つめ、唇を舐めた。
「そんな目つきばかりしてると好かれないよ。特に男には好かれな――」
「話しすぎだ。」
紗夜はセラフィナの言葉を遮り、すでに飛び出していた。
僕もすぐに、紗夜の攻撃を援護するためセラフィナへ桜切を投げつけた。
紗夜の突進速度は速く見えない。肉眼で見る限り、以前に授業で紗夜と戦ったときの速度より幾分遅く見える。だが、遅く見えるだけにすぎず、実際には紗夜は桜切よりも早くセラフィナの目前へ到達した。
斬り上げ。紗夜は下から攻め、桜切は上から攻める。前後からの連携攻撃はできないが、上下の連携ならどうにかできる。僕は桜切を操り、セラフィナへ真っすぐ斬りかかった。
二つの刃が同時にセラフィナに命中しようとしたその瞬間、彼女は一歩後ろへ下がった。桜切も何かにぶつかったかのように弾き飛ばされた。『偏移』した――またその力に押し広げられた。そして紗夜の切り上げ斬りも空振りに終わった。切り上げる途中、刃は誰かに横から押されたように脇へ逸れ、スクールバスの座席に斬り込んだ。幸い、逸らされたことで元の威力は失われており、座席に切り込みを入れただけで、他の誰も傷つけはしなかった。
「人が話しているときに割り込むのは、無礼なだけじゃなくて、躾がなってないってことでもあるんだよ。」
セラフィナは歯を食いしばり、脚を上げて紗夜に向かって蹴りを放った。その声には怒気が込められていた。
紗夜はすぐさま刀を身体の前に横に構えて、セラフィナの強烈な蹴りを防いだ。直接、体に蹴りが入ることはなかったが、それでも紗夜は抗いがたい力に押されて数メートルも吹き飛び、僕にぶつかってようやく止まった。僕は手を伸ばして紗夜を支えた。
「怪我はないか?」
僕は紗夜の腕をそっと支えながら尋ねた。桜切も空中で数回旋回してから、続けて僕の方へ飛んできた。
紗夜はただ軽く首を振ると、僕の体から離れた。彼女は刀を握ったまま軽く二度咳をし、この一撃で怪我はしていないものの、明らかに体勢は少し押され気味になっていた。
セラフィナは短剣を座席に力任せに突き刺し、頭を掻きながら歯を食いしばって紗夜を見据えた。数本の髪が、頭を掻くたびに落ち着きなく揺れていた。
「躾がなってない奴め。人が話しているときに割り込んじゃいけないって知らないのか? 躾も礼儀もない。お前らガキども、本当に殺してやるべきだ。」
この神経質な様子はどういうことだ。さっきと比べて、まるで別人みたいじゃないか。
僕はそっと紗夜の前に歩み出た。さっきの一撃で彼女が少しつらそうだし、僕の方が状態はいい。ここで攻め手を交代しよう。
紗夜は僕が前に出るのを見て、だいたい僕の意図を悟ったようだった。紗夜は僕を見て少し口を開き、何か言おうとしたが、指をわずかに動かしただけで僕を止めはしなかった。結局、僕と位置を交換し、彼女は僕の左後ろに立った。
桜切はすでに飛んで戻ってきていた。僕は桜切を受け止めた。
「何だよ、人を代えるのか? ガキに代わったところで何が変わる? くそ、くそ、くそ、本当に躾がなってない。この武高のガキどもはみんな同じだ。」
セラフィナは紗夜を睨み殺さんばかりに見つめ、その怒りは今にも実体化した炎となって噴き出しそうだった。
「だってこっちは二人で、あんたは一人だ。戦闘中に人を代えるのは普通だろ。」
僕は少しだけ口を挟んだ。これ以上セラフィナを狂わせるわけにはいかない、となんとなく思ったからだ。なぜ彼女がずっと他の生徒たちを傷つけていないのかは分からないし、こんな状況でも他の生徒を人質に取ったりもしないが、これ以上怒らせれば、他の生徒を傷つけないとも限らない。
「そうだな、そうだな、今日はお前たち二人を殺すか。」
セラフィナが短剣を投げつけ、僕は桜切を握って突っ込んだ。斬りかかって短剣とぶつかり合ったが、ただ触れた瞬間、巨大な力が刃伝いに手のひら、そして全身へと伝わってくるのを感じた。
なんて力だ。短剣を受け止めたせいで一瞬だけ動きが止まったところに、セラフィナはもう短剣を引き戻して僕の目の前まで突っ込んできていた。セラフィナはあまり自分から攻めたり近づいたりしてこなかったから、力が強いだけなんだと思っていたのに、近づく速さまでこんなに速いなんて。
次の瞬間、紗夜の刃が僕の後ろから突き出し、セラフィナの短剣とぶつかり合った。金属のぶつかる音とともに火花が散り、僕の体に飛び散った。
僕もその一瞬を捉えてセラフィナの体へ斬りかかった。しかし前回と同じで、刃はセラフィナまで十センチほどのところで、誰かに横から押されたように横へ逸れ、攻撃は空振りに終わった。
セラフィナは両手にぐっと力を込めて体を宙に浮かせ、膝蹴りを僕の胸めがけて繰り出してきた。セラフィナのこの力で直接胸を打たれたら、心臓まで砕けてしまいそうだ。
僕はすぐに桜切を体の前に横たえて、セラフィナのその膝蹴りを受け止めた。
ぶつかった瞬間、僕の体は制御不能に後ろへ吹き飛ばされた。幸い、紗夜がこの時数歩後ろに下がっていてくれたおかげで、衝撃を逃がす距離があった。




