第十九話 覚醒
フェアンは思考よりも先に体が動く。
両手で地面を押し、屋根を次々と移動する。
逃げる事による時間稼ぎにより、徐々に足が伸び回復した。
フェアンは、非常にまずい局面に達していた。
アレンの復活は勿論、リヴェナの離脱理由が体力に消耗だったからだ。
ここで時間を食えば、またゾンビのように立ち上がってくるだろう。
だがそれ以上に興奮が抑えきれなかった。
アレンの極地による覚醒!!
「最高だよ。アレン」
フェアンは親指を舐め自分の実体があるのかを再確認させる。
アレンの復活は覚醒による白龍の治癒魔法であろうか。
アレンに存在しなかった魔力が溢れ出す程、流れてくるこの状態。
雲で覆われた空が裂け目を作り出す。
「フェアン。お前はここで殺す」
「殺すか....無理だよ。それは長くは続かない」
強大な力を持つには、強大なリスクを持つことを意味する。
今のアレンには、見合わない力を無理矢理上乗せするのだ。
時間が経つにつれ、反動がバクンと来るだろう。
かと言っても、今のアレンはレベル5に達している。
舐めたら死ぬ。
それはリヴェナの攻撃を受けた時に学んだ事だ。
距離を詰めるため、凝縮された物を投げ肥大化させる。
アレンに隙が出来た瞬間、足を狙うが白龍がそれを阻止する。
まるで、2:1をしているかのようだ。
アレンは、剣に魔力を込め、フェアンに浴びせる。
そのまま、屋根を突き破り、一階へとめり込ませる。
今まで感じた事のない波動に、アレンは少し戸惑いを見せる。
フェアンは、体を糸のように伸ばし、龍に絡みつきアレンの頭に尖った手を刺す。
ここで並の魔剣士ならば、貫通され即死だ。
が、莫大な魔力による身体強化を行ったアレンには、かすり傷程度だ。
「かた〜い」
フェアンは、体をバネのように変形させ、カウンターの攻撃によるダメージを0に等しくした。
外に投げ出されたフェアンは、アレンを見た。
アレンも見ており、睨み合った。
そして両者は、構える。
――2人の舞台は既に完成していた。
両者、広範囲攻撃を行う。
家、ビル、店は悉く破壊される。
アレンは、民間人の家などを破壊する事を酷く嫌うが、それを気にする余裕は今はない。
フェアンの攻撃の上へと乗り、走り距離を詰める。
フェアンは片手を剣のように変える。
カキンッ
剣の音を交え、彼らの眼球の距離は、10cmも無かった。
彼らは、戦いのゾーンに入っており、いつしか降り出した雨の音さえも、リズムを作る為の音に聞こえた。
白龍の噛みつきを勘で避け、腰を低くし下を潜り、魔力をたらふく溜めた拳がアレンに炸裂する。
飛ばされるアレンを白龍が受け止め、蹌踉めきを回避する。
「もう限界だろ?その白龍を手玉に戦いをするのは」
アレンの体の内側の血管、筋肉などが音を立て切れ始める。
血反吐が口から出て、咄嗟に手で口を覆う。
ゾーン状態による無痛も切れ、身の丈に合わない力を使った反動が体を揺るがす。
地面に手をつき、血を垂れ流す。
バクバクと煩い心臓が、まるで体の限界のカウントダウンを測ってるかのようだった。
格好の的になったアレンに手を銃の形にし、頭へと向ける。
「面白かったよ。アレン」
「6回目」
リヴェナがフェアンの心臓刺し言った。
「惜しい、あれから色々あって8割逝ったかも」
フェアンはあれから、リヴェナの5割を3割まで沈めたが、アレンとの戦いで8割分の攻撃を喰らっていた。
リヴェナはこれ以上動けない程に、体を無理して動かしてここまで来た。
白いローブを脱ぎ捨て、破れた服で傷ついた肌から血が垂れるのが分かる。
後は――アレン次第だ。
「アレン!!もう少しでこいつを殺せる!!死んでも立て!!」
リヴェナの魂の叫びは、アレンの心を奮い立たせる。
「はい!!」
血が混ざった声で、剣を杖代わりのように使って立ち、覚束ない足で走りフェアンを刺した。
お世辞にも深くはない攻撃だが、今のフェアンには十分すぎる程の攻撃だった。
「これは逃げなきゃ死ぬね」
フェアンは最後の力を振り絞り、体を爆発させた。
肉片がババっと目を覆うほどに飛び散り、リヴェナとアレンは片っ端から斬るが本体がどれか分からない以上、意味が無かった。
どれも均一に魔力が込められ、見分け用のなくフェアンを逃した。
「――!!」
リヴェナは歯を噛み締め眉に皺を寄せる。
アレンは、霞んだ目を必死に擦り、肉片を追いかけようとした。
だが、体が限界を迎え、糸が切れるかのようにプツンと失神した。
◇
その後俺は、レアンさんに治癒魔法を掛けてもらい体が回復した。
俺の容体が酷く死の境目にあったらしい。
リヴェナ先輩も容態が酷かったから俺程でも無かったので良かったとの事だ。
俺の弱さで記憶操作魔人を逃してしまった。
俺があの時もう少し早く立って、もっと強い攻撃を与えられていたのなら、勝てたかもしれない。
殺せていたかもしれない。
俺のせいだ....
その後ラリが墓に埋められる所で見送った。
横にはリヴェナ先輩も居て、一緒に見送った。
「リヴェナ先輩....俺に記憶戻った時、ラリみたいに最悪な記憶が来たらと思うと、記憶を取り戻す事が怖くなる」
俺は足をすくめた。
頑張って、取り戻した先が地獄のような記憶ならば、俺は打ちどころの無い怒りで我を失いそうで怖い。
すると、リヴェナは俺の肩に腕を乗せ寄せた。
「大丈夫だ。そうなっても他に大事な仲間が居るだろ?お前には帰る場所があるんだから、心配すんな」
そうだ。
俺には、大事な仲間、帰り場所がある。
支えてくれる仲間だ。
「俺もっと強くなるよ。これ以上仲間が死なないように」
俺は心の中で深くそう決めた。




