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第十五話 死は呆気なく


 ラリの居ない静かな事務所内で、魔電子機器(までんしきき)が”トゥルルルル“と鳴り響く。


 俺が動揺する中、リヴェナ先輩が魔電子機器の受話器を取る。


 魔電子機器は、魔力をエネルギーとして使う、遠くからのコミュニティーションを可能とする便利物だ。


 それを可能としたのは、この国の地下に敷き詰められた加工されている魔石である。


 魔力が魔石を伝わり、遠くからでも会話ができるのだ。


 リヴェナ先輩は、受話器を取った。


 ラリは何処に行ったのだろうか。


 もしかしたら、攫われたのか?


 嫌な考えが脳裏をチラつく。


 だって、いきなり何処かへ行くような奴でもないし、そう言う出来事も無かった。


 リヴェナ先輩もそう思っているのだろう。


 しかし、この事務所が荒らされた気配はない、逆にいつもより綺麗なまである。


 何でだ....!


 リヴェナ先輩が受話器を魔電子機器に戻すと、事情を話し始めた。


 どうやら、前から魔剣騎士団が目を付けていた違法魔道具や魔薬を流通させている疑いがあるアジトが襲撃されたらしい。


 勿論、国が公認する治安隊、魔剣騎士団が襲撃した訳ではない。


 治安隊が魔剣騎士団に知らせてきたらしいのだ。


 で、一部のたまたま目撃した人の証言では、紫の少女が乗り込んで行ったのだと言う。


 心臓の鼓動が煩い。


 嘘だと言ってくれて。


 俺とリヴェナ先輩は、すぐに現場へと直行した。


 そこには治安隊が集まっており、突入するにも出来いない状態で居た。


 どうにも、襲撃を受けた人達も応戦しているらしく、中は泥沼状態らしい。


 突入しようにも出来ないと言う状況だ。


 魔剣士が建物内に入るのも、危ないらしい。


 リヴェナ先輩は、治安隊と状況判断をしている。


 建物は、デカく3回建て。


 戦いによる建物崩れが危険視されている。


 だからって、友達がこんなイかれた事をしているのに、無視する事は出来ない。


 初めて趣味あって、話しやすいダチだ。


 そんな奴にこれ以上、酷い真似はさせない。


「リヴェナ先輩!俺突入します!」


 俺は、リヴェナ先輩に報告すると建物内へと入った。


「ちょ待て、馬鹿野郎!!私の後ろにい....」


 俺の耳にリヴェナ先輩の怒鳴り声が聞こえたが、聞き直す暇もない。



 中に入ってみると、地獄絵図だった。


 何処を見ようが血が目に入る。


 死体が壁に倒れていて、剣、槍などが壁などに刺さっていた。


 これも全てあいつの仕業か?


 ならば、早く止めなければ。


 もう、同じ日の出を歩けなくなるとしても。


 そして、3階にある部屋でラリを見つけた。


 彼女の手には、小さな魔剣が握りられていた。


 服には、返り血が付着している。


 足元には、男の人が口から血を吹き出し倒れている。


 あぁ、お前がこの人達を!!


 お前がぁああ....


「何やってんだ!ラリ!!」


「関係ねぇだろ。アレン」


 彼女の冷たい視線は、今まで俺に向けた事もない視線だった。


 何もかも嫌になったようなそんな冷めた視線。


 俺は悟った。


 コイツは、もう話しが出来ない。


 剣で語り合うしかないと。



 俺がラリに対して一閃する。


 だが、ラリは華麗に受け流し間合いへと詰めた。


 相手が短剣であった場合、間合いを取られると、軽さをメリットとした連続攻撃を浴びせられる。


 長身の剣を携えている俺では、受け切れない。


 俺は後ろへと下がる。


 逆に長身の剣のメリットはリーチだ。


 出来るだけ、距離を一定に保つんだ。


「私は、そんな一筋縄ではいかないよ」


 ラリは鋭い眼光で俺を見据えると、剣がゴムのように伸びた。


 剣先が俺を殺すように首筋を狙う。


 咄嗟に剣でふるい落とす。


 ――何だ今の?


 ユニークスキル?


 クッソ、ややこしいスキル持ってるんだな。


「大層良いユニークスキルを持ってるんだな」


「アレンは持ってないの?ユニークスキル」


「ああ、発芽してねぇんだよ」


 ラリが鞭のように伸ばした剣を振り回す。


 その衝撃により、壁、天井、ガラスを粉砕していく。


 あまりにの速さに、部屋が剣で埋め尽くされているのかと錯覚する程だった。


 目で追えない剣捌きを感覚で防ごうと必死だ。


 だけど、防ぎきれず顔に細かな傷が付く。


 血が視界を塞ぎ、ヒリヒリとした痛みが思考を削ぐ。


 クッソ!何でだよ。


 何でお前は、こんな奇行に走ったんだ。


 お前の目は、光で満ちてたじゃねぇか。


 あの時、親と話し合いに行こうって....決めたじゃねぇか。


 何で何だよ。


 俺は制限していた魔力を身体中に行き渡らせ、鞭を弾き一気に間合いを詰める。


 そして、剣を彼女に振るい壁へと突き飛ばした。


 ほら、やっぱりお前は戦い慣れてない優しい女の子じゃねぇか。


 なら何で....


「お前は、人を殺しても何とも思わないのか?」


 俺は問う。


「何とも思わない....」


 彼女は震えた声でそう言った。


「嘘つけ!!お前は、そう言う奴じゃねぇ。善悪の区別はちゃんと付く、優しい人だ。こんな事は、お前がやるべき事じゃねぇ」


「やるべき事だ!!」


 彼女は、今までにない顔で叫んだ。


 全ての怒りをここで吐き捨てるかのように。


 俺はその気迫に、黙った。


 ラリは続けた。


「善悪などは、存在しない!だから私はコイツらを殺す」


「あるに決まってんだろ!!だって....」


「じゃぁ何で私達をヒーローは助けに来てくれなかったの?」


 怒りと冷酷さに満ちた彼女の顔は、いつしか悲しみに暮れた顔になっていた。


 涙が顔を伝っていた。


 もしかして....親はこの人達に殺されたのか?


「大事な人がもう居ないから、私は何もしても傷つかない」


 彼女が振るった魔剣の衝撃波は、床を落とした。


 粉塵が辺りに立ち込め、視界を奪う。


 気付くと、彼女の剣は、俺の胴体を貫いた。


 痛みは鋭く、内側からジワジワと広がり、息を吸うだけで胸をえぐられる感覚が襲う。


 いってぇ....


 俺は、片手に握っている剣を床に落とす。


 痛みで握力を失い落とした訳じゃない。


 ただ、こうしなければ。


「――何で?」


「――ごめん。俺はラリを分かった気でいた。何も分かってない癖に、無神経な事ばかり言った。俺はバカだから察する事も何もできねぇ。だから、話してくれ。お前の身に何があった?」


 ラリは、殺し合った相手に言うのを躊躇うかのように、頭を俯かせた。


 警戒されてるのか?


 なら、親しみやすい共通の話題。


 俺は続ける。


「3巻の最後の台詞――“人を許せる寛大な心を持て”俺は肝に銘じてるぞ」


 俯かせた顔をバッと上げた。


 涙でぐしゃぐしゃな顔を見せる。


 そして、覚束ない口を必死に開けた。


「私は――」







「バン」






 突然、聞き覚えのある声がして、ラリの頭は魔力で貫かれた。


 声の方へと目を向けると、記憶魔人が澄ました顔で立っていた。

 

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